小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

気配

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 重々しい体を引き摺りながら、アテナは崩壊したいくつもの壁を通り抜け、もといた廊下に戻ってくることができた。廊下の壁には持参した槍と神盾アイギスが立て掛けてあった。
 槍とアイギスを再び手にしたアテナは、腰の雑嚢ざつのうから伸びる糸を確認した。それは結城たちが進んでいった廊下の先まで伸びている。アテナはすでに結城たちが友宮邸の最奥部に到達していると予測していた。ならば糸を手繰っていけば、神降ろしの儀式が行われている場所まで直通で辿り着ける。
 獣人ミノタウロスの迷宮に挑んだ英雄テセウス。その際にミノス王の娘、アリアドネから渡された赤い糸の球。テセウスはこの糸を使うことで、難解なミノタウロスの迷宮より生還を果たし、これが運命の赤い糸の語源となった。
 結城に渡しておいたのは、まさにテセウスが使った赤い糸そのものであり、これを辿ればアテナが結城たちを追うことは簡単だった。
 問題なのは自身の体力の方だ。雷槍ケラウノスの力を結城と融合していない状態で引き出したため、アテナの体力はひどく消耗していた。ホームグラウンドのギリシャで発動したならば、単体で行使しても充分に余力はあったはずだが、遠い極東の国においてはアテナの力は些か以上に落ちている。雷槍そのものどころか、力の一部を引き出すだけでも大きな疲労を伴った。
 おまけに交戦した原木本桂三郎ばらきもとけいざぶろう天坂千夏あまさかちなつに匹敵する、上位の鬼族だった。さらに羅刹天の霊符ドーピングによる底上げもあって、尋常ではない強敵となった。
 全盛期であったなら最上位の鬼であろうと、指をはじくだけで絶命させられたが、近代になって力の大半を失ったアテナにとっては、現状はフルマラソンを終えた直後のようなものだった。
 しかし、アテナはそんな自身の状態など憂いていない。憂いている時間さえないのだ。一時的とはいえ気を失い、時が経ってしまった。結城にはすぐに追いつくと約束している。戦女神として、見込んだ戦士との約束を反故にするわけにはいかない。
 アテナは身に鞭を打つつもりで、廊下の先に歩を進めようとしていた。
「ΦQ1↑? ΛT3↓(アテナか? 何やってんだ、こんなとこで)」
「何かイイコト、していた?」
 結城たちの元へ駆けつけようとしていたアテナの後ろから、聞きなれた声がかけられた。
 振り返ると案の定、マスクマンとシロガネの姿があった。
「あなたたちこそ、とうに先に進んだものと思っていましたが……」
 二人の様子を見て、アテナはそれ以上何も口にすることはなかった。
 シロガネは右腿と腹部から血を流し、マスクマンに肩を貸りてようやく歩けている状態だった。
 マスクマンもまた、シロガネに肩を貸す程度の力はあったようだが、体が小刻みに震え、決して好調とは言い難い。
 二人の実力をアテナも熟知しているため、それぞれの戦った相手が相当な実力者であったことは聞かずとも明らかだった。
「ΣM2→、ΠJ6←(オレの方も片付いたから後を追ってたんだが、そしたらコイツがへっぴり腰で歩いててな)」
「……別にエロいこと、してたわけじゃない」
「ΓN4(誰も聞いてねぇよ)」
「誰も聞いていません」
 満身創痍でも下ネタを持ってくるシロガネに、マスクマンとアテナが同時にツッコミを入れた。
「と、こんなやり取りをしている時間はありません。早くユウキたちと合流しましょう」
「ψG1(そうだな)」
「すぐに終わらせて、結城とエロいこと……」
「シロガネ、あなたの趣味嗜好に口をさしはさむつもりはありませんが、もう少し節度を―――――っ!」
「!」
「!」
 シロガネの発言を嗜めようとしたアテナだったが、全身を異様な気配が貫いたために、思わず喉を詰まらせた。マスクマンとシロガネも同じだったようで、二人とも体を強張らせている。
「ΔW4(何だ、こりゃ)」
「ものすごく、イヤな感じ」
 精霊と物の化身である二人も、その気配が持つ『性質』に気付いていたが、アテナはより如実にそれを感じ取っていた。
「これは……急ぎましょう!」
 未だ体力は回復していないが、アテナは消耗による肉体の重さを忘れる勢いで廊下を進み始めた。
(ユウキが、危ない!)
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