224 / 377
豪宴客船編
プールサイドにて その3
しおりを挟む
「ほっ、ほっ」
プールサイドの遊具置き場からビーチボールを借りた媛寿は、頭の上で跳ねさせながら、元のビーチプールまで歩いていた。後ろには媛寿の頭上を上下するボールを感心したように目で追っているクロランがいる。
(ゆうきのきゅうけいもおわったかな~)
ビーチボールをヘディングしながら、媛寿は器用にプールサイドを歩いていく。
まだ朝の早い時間なので、利用客はそれほど多くないが、結城たち同様に朝のプールを楽しもうとする客はちらほらと見られた。
「いや~、いいボール捌きだ」
そんな利用客の中、一際異彩を放っている者が媛寿に声をかけた。
「その分なら、末はサッカー選手かな?」
水着姿に金色の仮面を付けた、昨夜の黄金男爵その人だった。
(あっ、きのうのへんなの)
結城に挑戦してきた黄金男爵のことは、媛寿にとっても記憶に新しかった。その奇抜な容姿も含めて。
「おっと、挨拶が先だったかな。おはよう」
「……おはよぉ」
座敷童子として、媛寿はそれなりに人を見る目はある。その鑑定からすれば、黄金男爵は悪人というわけではない。が、それでも怪しさは満点であるので、媛寿も少し警戒気味になっていた。
「そっちの君も、おはよう」
「っ!」
媛寿の隣にいたクロランにも挨拶をする黄金男爵だったが、媛寿よりも警戒心の強かったクロランは、すぐに媛寿の後ろに隠れてしまった。
「ごめんごめん。驚かせたか」
「……えんじゅたちに、なに?」
黄金男爵のことを訝しんではいても、一応要件を聞いておく媛寿。
「昨夜のお兄さんに渡してほしいものがあってね」
媛寿が話を聞く姿勢を取ってくれたので、黄金男爵は後ろに視線を送って合図した。
物陰からライトグリーンのセパレート水着を着た少女が現れ、手に持っていたポーチを開き、そこから一枚のカードを黄金男爵に手渡した。
「これを渡してほしいんだ」
「……」
黄金男爵からカードを受け取った媛寿は、そこに書かれていた文面を見た。
『本日午後1時。シアターホールに来られたし』
ただそれだけが書かれていた。
「これだけ?」
「そう、それだけ」
媛寿からの質問に、黄金男爵は簡潔に答えた。
媛寿はカードの裏も確認し、もう一度表も見たが、単に時間と場所を伝えるだけのメッセージカードだった。
「……わかった」
怪しいことこの上ないが、媛寿自身も結城に付いていくつもりでいるし、アテナもおそらく付いてくると思われる。なら、よほどのことがない限りは結城の身が脅かされることもないという判断だった。
「ありがと。それじゃ、よろしくね」
黄金男爵は礼を述べると、傍付きの少女を伴って去っていった。
後に残った媛寿は、しばらく黄金男爵の姿が見えなくなるまで睨んでいたが、またメッセージカードに目を落とした。
黄金男爵の得体も目的も知れないので気乗りしないが、とりあえず結城に渡すだけ渡しておくことにした。
そうしていると、黙ったままだった媛寿が心配になったのか、クロランが媛寿の肩を弱々しく引っ張った。
「………はむっ」
「っ!?」
媛寿はメッセージカードの端を口に咥えると、クロランの胸に両掌を押し当てた。
「むっふ~、ひっかっかった」
「っ! っ!」
したり顔の媛寿に、クロランは両拳を宙に振る。『せっかく心配したのに』とでも言いたげに。
「あはは、もどってゆうきといっしょにばれーやろ」
「~~~」
まだ釈然とせず頬を膨らますクロランの手を引いて、媛寿は結城の待つビーチプールに早足で歩いていった。
この後、貧血を起こしてプールに浮いている結城を発見し、驚きの声を上げることになるのだが。
「このお面に認識阻害のルーンをかけてもらって正解だったよ。ありがと、シトローネ」
船上プールを後にした黄金男爵こと多珂倉稔丸は、シトローネを伴って廊下を歩いていた。
「小林結城という男ならまだしも、あの座敷童子はそうでもしないと誤魔化せないからナ」
二人はエレベーターに乗ると、部屋のある階のボタンを押し、シトローネは稔丸の横に並んだ。
「このためだったのカ?」
「ん?」
「カジノでほとんど負けると分かってて一千万を出しタ。断らせないようにするためだったのカ?」
「それもあるにはあるけどさ、『勉強代』って言ったのも本当さ。お互いに、ね」
最後に付け加えられた意味深な言葉が気になり、シトローネは稔丸の顔を窺った。
稔丸は眉根を寄せつつも、口元はわずかに笑っているという表情を取っていた。少しもの悲しげな苦笑いといったところか。
だが、それなりに付き合いの長いシトローネは知っていた。その表情をしている時の稔丸は、何か残酷なことに及ぼうとする直前にあるということを。
「……」
それを悟ったシトローネは、これ以上何も言わないように口を閉ざした。
二人は無言のままエレベーターを降り、廊下を歩き、乗船中の宿となる部屋に行き着いた。
クイーン・アグリッピーナ号の客室の中でも二番目に高級とされるスカイロフトスイート。単純な金銭面でいうならば、稔丸は最高級のロイヤルロフトスイートを取ることもできたが、その部屋はいつも先に予約が入っており、稔丸が乗船する際は決まってスカイロフトスイートになっていた。
それでも通常の客室と比べれば、階段で行き来できる二段構成のレイアウトは、戸建ての家がそのまま船内に収まったと思えるほどに広々としている。
少なくとも、船旅を三人で過ごすには充分な一室だった。
「ただいま、グリム」
「おかえりなさい、稔丸。シトローネも」
部屋に戻ってきた稔丸とシトローネを、ソファに寝そべった下着姿のグリムが出迎えた。
「グリムもプール行かなくてよかったの? なかなか気持ちよかったよ?」
「プールよりコレを眺めていたかったから」
仰向けで寝そべるグリムは、両手に付けていたものを宙にかざしてうっとりとした。武器展示スペースに飾られていた、手甲鉤と暗殺爪だった。右手に手甲鉤を、左手に暗殺爪を、グリムはそれぞれ付けていた。
「稔丸、ありがとう」
磨き上げられた鉤爪にキスをしながら、グリムは稔丸に礼を言った。
「それほど高い物じゃなかったし、それに」
仮面をテーブルに置きながら、稔丸は窓の外に広がる大海原に目をやった。
「ひょっとしたらソレで一暴れしてもらうかもしれないからね」
「! 荒事になるのカ?」
「ひょっとしたらって話さ。その辺も兼ねてグリムには来てもらったわけだし」
シトローネの懸念をよそに、稔丸はオーシャンビューを満足げに眺めていた。まるでルーレットのどのポケットにボールが入るか、心を躍らせているかのように。正真正銘のギャンブルに臨んでいるかのように。
「ねぇ稔丸。それなら今からっていうのはどう?」
ソファから立ち上がったグリムは、右の手甲鉤の先端を舌で軽く舐めた。
「この船に乗ってるのは、ほとんどが私を嬲りものにした連中と同じでしょ? 命じてくれれば今からでも殺るわ。この爪をもらってからうずうずしてるんだから」
鋼鉄の爪を見つめながら静かに語るグリムの眼は、血の匂いを嗅いだ獣のそれへと変わっていた。いつもは少し垂れ気味の獣耳も、天を突くように鋭く立っている。
「残念ながら、まだダメ。少なくとも今夜までは待ってもらわないと」
グリムの手をゆっくりと降ろさせた稔丸は、テーブルに置いてあった船内新聞を見た。一面には今夜のメインイベントの告知が大きく出ており、それがこの航海の転換点になると、稔丸は読んでいる。
(このイベントであのお方が大暴れしてくれれば、ボクらもそれだけ動きやすくなる)
稔丸は頭の中で、この先に起こる様々なシナリオを想定してみた。どのルートに転んでも面白いことになる気がして、稔丸は薄く笑みを浮かべた。その中で、最も分岐を激しく動かしてくれそうなのは、
(小林結城くん。これから体験することで、君がどう動いてくれるのか楽しみだよ)
神霊たちの行動を最も左右するであろう人間、小林結城。その動向が、稔丸には何よりも興味深い不確定要素だった。
「……分かったわ。でも」
鉤爪をテーブルに置いたグリムは、右手を稔丸の水着の中にもぐりこませた。
「このままじゃ体が疼いてしかたないし、夜まで待てなくなっちゃったら大変だな~」
お預けをくらったグリムは、少々わざとらしさを装いながら、稔丸の水着の中をまさぐった。
「……午前中だけだよ。昼からは例のイベントだからね」
鼻で軽い溜め息を吐いた稔丸は、グリムからの要求を渋々承諾した。
「いいわ。じゃあ、シャワー浴びてくるから」
癖の強い黒髪を一度かき上げてから、グリムはシャワー室へ向かっていった。
(やれやれ)
稔丸は呆れ気味になりながら、シャワー室に入っていくグリムの姿を見送った。
稔丸の元に来る前の壮絶な体験が、グリムの種族が本来持っていた獣性を呼び覚ましてしまった。
競り落とした当初と比べるといくらか落ち着いたものだが、まだ闘争心と本能的欲求が抑えられないきらいがあるのは、稔丸としても少し困りものだった。
(こういうことで抑制できるからまだいいけど。さてと、雪花からもらった栄養剤を―――)
「ん?」
冷蔵庫に手を伸ばそうとした稔丸だったが、セパレートの水着を脱ぎだしているシトローネが目に留まり、動きを止めた。
「シトローネ?」
「私もシャワーを浴びてくル」
水着を脱ぎ終わったシトローネは、タオルを手に取るとシャワー室に歩きだした。
「二人がしてるのを見てるだけなんて生殺しダ。『機失うべからず』」
そう言ってシトローネもシャワー室の扉をくぐっていった。
「……栄養剤、二本飲んどこ」
残された稔丸は、再び冷蔵庫の蓋に手を伸ばした。
プールサイドの遊具置き場からビーチボールを借りた媛寿は、頭の上で跳ねさせながら、元のビーチプールまで歩いていた。後ろには媛寿の頭上を上下するボールを感心したように目で追っているクロランがいる。
(ゆうきのきゅうけいもおわったかな~)
ビーチボールをヘディングしながら、媛寿は器用にプールサイドを歩いていく。
まだ朝の早い時間なので、利用客はそれほど多くないが、結城たち同様に朝のプールを楽しもうとする客はちらほらと見られた。
「いや~、いいボール捌きだ」
そんな利用客の中、一際異彩を放っている者が媛寿に声をかけた。
「その分なら、末はサッカー選手かな?」
水着姿に金色の仮面を付けた、昨夜の黄金男爵その人だった。
(あっ、きのうのへんなの)
結城に挑戦してきた黄金男爵のことは、媛寿にとっても記憶に新しかった。その奇抜な容姿も含めて。
「おっと、挨拶が先だったかな。おはよう」
「……おはよぉ」
座敷童子として、媛寿はそれなりに人を見る目はある。その鑑定からすれば、黄金男爵は悪人というわけではない。が、それでも怪しさは満点であるので、媛寿も少し警戒気味になっていた。
「そっちの君も、おはよう」
「っ!」
媛寿の隣にいたクロランにも挨拶をする黄金男爵だったが、媛寿よりも警戒心の強かったクロランは、すぐに媛寿の後ろに隠れてしまった。
「ごめんごめん。驚かせたか」
「……えんじゅたちに、なに?」
黄金男爵のことを訝しんではいても、一応要件を聞いておく媛寿。
「昨夜のお兄さんに渡してほしいものがあってね」
媛寿が話を聞く姿勢を取ってくれたので、黄金男爵は後ろに視線を送って合図した。
物陰からライトグリーンのセパレート水着を着た少女が現れ、手に持っていたポーチを開き、そこから一枚のカードを黄金男爵に手渡した。
「これを渡してほしいんだ」
「……」
黄金男爵からカードを受け取った媛寿は、そこに書かれていた文面を見た。
『本日午後1時。シアターホールに来られたし』
ただそれだけが書かれていた。
「これだけ?」
「そう、それだけ」
媛寿からの質問に、黄金男爵は簡潔に答えた。
媛寿はカードの裏も確認し、もう一度表も見たが、単に時間と場所を伝えるだけのメッセージカードだった。
「……わかった」
怪しいことこの上ないが、媛寿自身も結城に付いていくつもりでいるし、アテナもおそらく付いてくると思われる。なら、よほどのことがない限りは結城の身が脅かされることもないという判断だった。
「ありがと。それじゃ、よろしくね」
黄金男爵は礼を述べると、傍付きの少女を伴って去っていった。
後に残った媛寿は、しばらく黄金男爵の姿が見えなくなるまで睨んでいたが、またメッセージカードに目を落とした。
黄金男爵の得体も目的も知れないので気乗りしないが、とりあえず結城に渡すだけ渡しておくことにした。
そうしていると、黙ったままだった媛寿が心配になったのか、クロランが媛寿の肩を弱々しく引っ張った。
「………はむっ」
「っ!?」
媛寿はメッセージカードの端を口に咥えると、クロランの胸に両掌を押し当てた。
「むっふ~、ひっかっかった」
「っ! っ!」
したり顔の媛寿に、クロランは両拳を宙に振る。『せっかく心配したのに』とでも言いたげに。
「あはは、もどってゆうきといっしょにばれーやろ」
「~~~」
まだ釈然とせず頬を膨らますクロランの手を引いて、媛寿は結城の待つビーチプールに早足で歩いていった。
この後、貧血を起こしてプールに浮いている結城を発見し、驚きの声を上げることになるのだが。
「このお面に認識阻害のルーンをかけてもらって正解だったよ。ありがと、シトローネ」
船上プールを後にした黄金男爵こと多珂倉稔丸は、シトローネを伴って廊下を歩いていた。
「小林結城という男ならまだしも、あの座敷童子はそうでもしないと誤魔化せないからナ」
二人はエレベーターに乗ると、部屋のある階のボタンを押し、シトローネは稔丸の横に並んだ。
「このためだったのカ?」
「ん?」
「カジノでほとんど負けると分かってて一千万を出しタ。断らせないようにするためだったのカ?」
「それもあるにはあるけどさ、『勉強代』って言ったのも本当さ。お互いに、ね」
最後に付け加えられた意味深な言葉が気になり、シトローネは稔丸の顔を窺った。
稔丸は眉根を寄せつつも、口元はわずかに笑っているという表情を取っていた。少しもの悲しげな苦笑いといったところか。
だが、それなりに付き合いの長いシトローネは知っていた。その表情をしている時の稔丸は、何か残酷なことに及ぼうとする直前にあるということを。
「……」
それを悟ったシトローネは、これ以上何も言わないように口を閉ざした。
二人は無言のままエレベーターを降り、廊下を歩き、乗船中の宿となる部屋に行き着いた。
クイーン・アグリッピーナ号の客室の中でも二番目に高級とされるスカイロフトスイート。単純な金銭面でいうならば、稔丸は最高級のロイヤルロフトスイートを取ることもできたが、その部屋はいつも先に予約が入っており、稔丸が乗船する際は決まってスカイロフトスイートになっていた。
それでも通常の客室と比べれば、階段で行き来できる二段構成のレイアウトは、戸建ての家がそのまま船内に収まったと思えるほどに広々としている。
少なくとも、船旅を三人で過ごすには充分な一室だった。
「ただいま、グリム」
「おかえりなさい、稔丸。シトローネも」
部屋に戻ってきた稔丸とシトローネを、ソファに寝そべった下着姿のグリムが出迎えた。
「グリムもプール行かなくてよかったの? なかなか気持ちよかったよ?」
「プールよりコレを眺めていたかったから」
仰向けで寝そべるグリムは、両手に付けていたものを宙にかざしてうっとりとした。武器展示スペースに飾られていた、手甲鉤と暗殺爪だった。右手に手甲鉤を、左手に暗殺爪を、グリムはそれぞれ付けていた。
「稔丸、ありがとう」
磨き上げられた鉤爪にキスをしながら、グリムは稔丸に礼を言った。
「それほど高い物じゃなかったし、それに」
仮面をテーブルに置きながら、稔丸は窓の外に広がる大海原に目をやった。
「ひょっとしたらソレで一暴れしてもらうかもしれないからね」
「! 荒事になるのカ?」
「ひょっとしたらって話さ。その辺も兼ねてグリムには来てもらったわけだし」
シトローネの懸念をよそに、稔丸はオーシャンビューを満足げに眺めていた。まるでルーレットのどのポケットにボールが入るか、心を躍らせているかのように。正真正銘のギャンブルに臨んでいるかのように。
「ねぇ稔丸。それなら今からっていうのはどう?」
ソファから立ち上がったグリムは、右の手甲鉤の先端を舌で軽く舐めた。
「この船に乗ってるのは、ほとんどが私を嬲りものにした連中と同じでしょ? 命じてくれれば今からでも殺るわ。この爪をもらってからうずうずしてるんだから」
鋼鉄の爪を見つめながら静かに語るグリムの眼は、血の匂いを嗅いだ獣のそれへと変わっていた。いつもは少し垂れ気味の獣耳も、天を突くように鋭く立っている。
「残念ながら、まだダメ。少なくとも今夜までは待ってもらわないと」
グリムの手をゆっくりと降ろさせた稔丸は、テーブルに置いてあった船内新聞を見た。一面には今夜のメインイベントの告知が大きく出ており、それがこの航海の転換点になると、稔丸は読んでいる。
(このイベントであのお方が大暴れしてくれれば、ボクらもそれだけ動きやすくなる)
稔丸は頭の中で、この先に起こる様々なシナリオを想定してみた。どのルートに転んでも面白いことになる気がして、稔丸は薄く笑みを浮かべた。その中で、最も分岐を激しく動かしてくれそうなのは、
(小林結城くん。これから体験することで、君がどう動いてくれるのか楽しみだよ)
神霊たちの行動を最も左右するであろう人間、小林結城。その動向が、稔丸には何よりも興味深い不確定要素だった。
「……分かったわ。でも」
鉤爪をテーブルに置いたグリムは、右手を稔丸の水着の中にもぐりこませた。
「このままじゃ体が疼いてしかたないし、夜まで待てなくなっちゃったら大変だな~」
お預けをくらったグリムは、少々わざとらしさを装いながら、稔丸の水着の中をまさぐった。
「……午前中だけだよ。昼からは例のイベントだからね」
鼻で軽い溜め息を吐いた稔丸は、グリムからの要求を渋々承諾した。
「いいわ。じゃあ、シャワー浴びてくるから」
癖の強い黒髪を一度かき上げてから、グリムはシャワー室へ向かっていった。
(やれやれ)
稔丸は呆れ気味になりながら、シャワー室に入っていくグリムの姿を見送った。
稔丸の元に来る前の壮絶な体験が、グリムの種族が本来持っていた獣性を呼び覚ましてしまった。
競り落とした当初と比べるといくらか落ち着いたものだが、まだ闘争心と本能的欲求が抑えられないきらいがあるのは、稔丸としても少し困りものだった。
(こういうことで抑制できるからまだいいけど。さてと、雪花からもらった栄養剤を―――)
「ん?」
冷蔵庫に手を伸ばそうとした稔丸だったが、セパレートの水着を脱ぎだしているシトローネが目に留まり、動きを止めた。
「シトローネ?」
「私もシャワーを浴びてくル」
水着を脱ぎ終わったシトローネは、タオルを手に取るとシャワー室に歩きだした。
「二人がしてるのを見てるだけなんて生殺しダ。『機失うべからず』」
そう言ってシトローネもシャワー室の扉をくぐっていった。
「……栄養剤、二本飲んどこ」
残された稔丸は、再び冷蔵庫の蓋に手を伸ばした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる