313 / 377
竜の恩讐編
凶撃 その3
しおりを挟む
「マスクマン!? どうしたの!? マスクマン!」
耳のインカムから媛寿とマスクマンの交信を聞いていた結城は、不穏な空気を察知し、慌ててマスクマンに呼びかけた。
『EΞ2→YO! AΛ8→NT!(結城、逃げろ! もう一つの集団がそっちに行ってる!)』
「マスクマン!?」
『ゆうき! はしって!』
「媛寿!?」
マスクマンとの交信に媛寿が割り込んできた。
『しろがねといっしょにすぐおいつくから! いまはとにかくにげて!』
『結城、すぐに、行くから』
「媛寿、シロガネ」
結城はいま置かれている状況に、少なからず戦慄していた。
媛寿、マスクマン、シロガネの力を、結城はよく知っている。アテナが不在であっても、三柱の神霊たちの守護があるなら、生半可な相手では太刀打ちできないはずだった。
それがいま、神霊たちとともに、自身も追い込まれている予感がある。
そのことが何を示すのか。
敵は、結城が最強と信じる神霊たちさえ抑え込んでしまえる程の、強大な力を持つということだ。
『ゆうき!』
「っ!」
驚愕で足を止めていた結城の耳に、媛寿の声が一喝するように響いた。
『えんじゅたちがぜったいにまもるから! ゆうき! いまはにげて!』
「媛寿……」
その声で、結城は我を取り戻した。
媛寿たちが力を尽くしてくれている時に、自分が怖気づいている場合ではない。足を止めていてはいけないのだ。
「分かった、媛寿。それまで僕もラナンさんをちゃんと守るから」
『おっけー!』
媛寿からのハツラツとした返信を最後に、結城は通信を終了した。
「ラナンさん、ごめん。またちょっと走ることになるんだけど、大丈夫?」
「ええ……大丈夫です……」
短い呼吸を繰り返しながら答えるラナン。
あまり体力のなさそうなラナンを走り回らせることを、結城は少々気の毒に思えてしまうが、
「しんどい思いをさせちゃうかもしれないけど、ラナンさん、僕が……いや、僕たちが必ず安全なところまで連れていくから。もう少しだけ我慢して」
空元気もいいところだったが、結城はできる限りの勇ましさと凛々しさを込めた声とともに、ラナンに手を差し伸べた。
「……はい」
結城が差し出した手に、ラナンも自身の手を重ねる。
「よし! それじゃ―――!?」
ラナンの手を引いて走り出そうとした結城は、なぜか足が石のように重いことに気が付いた。
足元を見るが、結城の足自体に異変はない。
異変があるとすれば、脳の中心に蟠る冷たい感覚と、強い動悸から来る冷や汗だった。
意識するよりも速く、結城の無意識は、十字路の陰に潜む何者かを察知し、先に進むことを拒絶していた。
その先に進めば命はない。そう予感させるほど危険な者が、すぐそこに佇んでいるのだ。
「かぁっこい~こと言いますね~」
十字路の陰から何の気なしに出てきた少女は、期待と愉悦に満ち満ちた表情を結城に向けた。
「そういう勇ましい人間が、泣き叫びながら八つ裂きにされていくのを見るの、大好きなんですよ。あたし」
ブレザーの制服に身を包んだ少女は、屈託のない柔和な笑みを浮かべながら、恐ろしいことを言ってのけた。
(もう、すぐ)
人気の失せた住宅街を、シロガネは一路、結城たちの元へ駆ける。
走りながらシロガネは、現状の武装を確認した。
両袖に仕込んだサバイバルナイフ、左腿に山刀、右腿にワイヤー付きの投げナイフ、腰に隠した大型の折りたたみナイフ。
(足りる、かな)
街中で同田貫と両手剣を出すわけにはいかず、携帯が容易な刃物を選んできたが、シロガネはそのことを後悔していた。
マスクマンからの連絡では、謎の武装集団が結城たちに迫っているらしい。
それを相手にするとなれば、手持ちの武器だけでどこまで太刀打ちできるのか。 クイーン・アグリッピーナ号での苦い経験が、シロガネの中で思い起こされる。
(でも、行く)
持って来なかったものは仕方がないと割り切り、シロガネはさらに速度を上げた。
(ワタシのご主人様、守る――――――!?)
角を曲がろうと旋回したシロガネを、待ち構えていた幾つもの銃口が捉えて発砲した。
「く、う!」
とっさに後方へ跳び、両腕を構えて防御したが、四肢や空いていた胴に鈍器を受けたような衝撃があった。
銃声が止み、シロガネは構えていた腕をずらいて正面を見た。
防護面と防刃ベスト、ゴム弾を装填した銃で武装した集団が、隊列を組んで一斉射した後だった。
(マスクマンの、言ってた奴ら)
的確にシロガネを狙ってきた手並みから、それが件の武装集団と判った。
結城の元へすぐにでも向かいたいシロガネだが、その道を武装集団は完璧に塞いでいる。
「う、ぐ」
シロガネが歯噛みしている間にも、武装集団は第二射を放つべく照準を合わせた。
「ちぇええすとおおお!」
怪鳥に似た掛け声とともに、掛け矢を振りかざした着物姿の少女が上から降ってきた。
集団の中心目がけて落下してきたので、回避するために隊列は著しく乱された。
「とおおりゃあああ!」
着地後はさらに掛け矢を横向きに大回転し、集団をものの見事に蹴散らした。
「ゆうきのところには、いかせない!」
掛け矢を肩に担ぎ直した媛寿は、敵に対して高らかに宣言した。
耳のインカムから媛寿とマスクマンの交信を聞いていた結城は、不穏な空気を察知し、慌ててマスクマンに呼びかけた。
『EΞ2→YO! AΛ8→NT!(結城、逃げろ! もう一つの集団がそっちに行ってる!)』
「マスクマン!?」
『ゆうき! はしって!』
「媛寿!?」
マスクマンとの交信に媛寿が割り込んできた。
『しろがねといっしょにすぐおいつくから! いまはとにかくにげて!』
『結城、すぐに、行くから』
「媛寿、シロガネ」
結城はいま置かれている状況に、少なからず戦慄していた。
媛寿、マスクマン、シロガネの力を、結城はよく知っている。アテナが不在であっても、三柱の神霊たちの守護があるなら、生半可な相手では太刀打ちできないはずだった。
それがいま、神霊たちとともに、自身も追い込まれている予感がある。
そのことが何を示すのか。
敵は、結城が最強と信じる神霊たちさえ抑え込んでしまえる程の、強大な力を持つということだ。
『ゆうき!』
「っ!」
驚愕で足を止めていた結城の耳に、媛寿の声が一喝するように響いた。
『えんじゅたちがぜったいにまもるから! ゆうき! いまはにげて!』
「媛寿……」
その声で、結城は我を取り戻した。
媛寿たちが力を尽くしてくれている時に、自分が怖気づいている場合ではない。足を止めていてはいけないのだ。
「分かった、媛寿。それまで僕もラナンさんをちゃんと守るから」
『おっけー!』
媛寿からのハツラツとした返信を最後に、結城は通信を終了した。
「ラナンさん、ごめん。またちょっと走ることになるんだけど、大丈夫?」
「ええ……大丈夫です……」
短い呼吸を繰り返しながら答えるラナン。
あまり体力のなさそうなラナンを走り回らせることを、結城は少々気の毒に思えてしまうが、
「しんどい思いをさせちゃうかもしれないけど、ラナンさん、僕が……いや、僕たちが必ず安全なところまで連れていくから。もう少しだけ我慢して」
空元気もいいところだったが、結城はできる限りの勇ましさと凛々しさを込めた声とともに、ラナンに手を差し伸べた。
「……はい」
結城が差し出した手に、ラナンも自身の手を重ねる。
「よし! それじゃ―――!?」
ラナンの手を引いて走り出そうとした結城は、なぜか足が石のように重いことに気が付いた。
足元を見るが、結城の足自体に異変はない。
異変があるとすれば、脳の中心に蟠る冷たい感覚と、強い動悸から来る冷や汗だった。
意識するよりも速く、結城の無意識は、十字路の陰に潜む何者かを察知し、先に進むことを拒絶していた。
その先に進めば命はない。そう予感させるほど危険な者が、すぐそこに佇んでいるのだ。
「かぁっこい~こと言いますね~」
十字路の陰から何の気なしに出てきた少女は、期待と愉悦に満ち満ちた表情を結城に向けた。
「そういう勇ましい人間が、泣き叫びながら八つ裂きにされていくのを見るの、大好きなんですよ。あたし」
ブレザーの制服に身を包んだ少女は、屈託のない柔和な笑みを浮かべながら、恐ろしいことを言ってのけた。
(もう、すぐ)
人気の失せた住宅街を、シロガネは一路、結城たちの元へ駆ける。
走りながらシロガネは、現状の武装を確認した。
両袖に仕込んだサバイバルナイフ、左腿に山刀、右腿にワイヤー付きの投げナイフ、腰に隠した大型の折りたたみナイフ。
(足りる、かな)
街中で同田貫と両手剣を出すわけにはいかず、携帯が容易な刃物を選んできたが、シロガネはそのことを後悔していた。
マスクマンからの連絡では、謎の武装集団が結城たちに迫っているらしい。
それを相手にするとなれば、手持ちの武器だけでどこまで太刀打ちできるのか。 クイーン・アグリッピーナ号での苦い経験が、シロガネの中で思い起こされる。
(でも、行く)
持って来なかったものは仕方がないと割り切り、シロガネはさらに速度を上げた。
(ワタシのご主人様、守る――――――!?)
角を曲がろうと旋回したシロガネを、待ち構えていた幾つもの銃口が捉えて発砲した。
「く、う!」
とっさに後方へ跳び、両腕を構えて防御したが、四肢や空いていた胴に鈍器を受けたような衝撃があった。
銃声が止み、シロガネは構えていた腕をずらいて正面を見た。
防護面と防刃ベスト、ゴム弾を装填した銃で武装した集団が、隊列を組んで一斉射した後だった。
(マスクマンの、言ってた奴ら)
的確にシロガネを狙ってきた手並みから、それが件の武装集団と判った。
結城の元へすぐにでも向かいたいシロガネだが、その道を武装集団は完璧に塞いでいる。
「う、ぐ」
シロガネが歯噛みしている間にも、武装集団は第二射を放つべく照準を合わせた。
「ちぇええすとおおお!」
怪鳥に似た掛け声とともに、掛け矢を振りかざした着物姿の少女が上から降ってきた。
集団の中心目がけて落下してきたので、回避するために隊列は著しく乱された。
「とおおりゃあああ!」
着地後はさらに掛け矢を横向きに大回転し、集団をものの見事に蹴散らした。
「ゆうきのところには、いかせない!」
掛け矢を肩に担ぎ直した媛寿は、敵に対して高らかに宣言した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる