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竜の恩讐編

凶撃 その3

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「マスクマン!? どうしたの!? マスクマン!」
 耳のインカムから媛寿えんじゅとマスクマンの交信を聞いていた結城ゆうきは、不穏な空気を察知し、慌ててマスクマンに呼びかけた。
『EΞ2→YO! AΛ8→NT!(結城、逃げろ! もう一つの集団がそっちに行ってる!)』
「マスクマン!?」
『ゆうき! はしって!』
「媛寿!?」
 マスクマンとの交信に媛寿が割り込んできた。
『しろがねといっしょにすぐおいつくから! いまはとにかくにげて!』
『結城、すぐに、行くから』
「媛寿、シロガネ」
 結城はいま置かれている状況に、少なからず戦慄していた。
 媛寿、マスクマン、シロガネの力を、結城はよく知っている。アテナが不在であっても、三柱の神霊たちの守護があるなら、生半可な相手では太刀打ちできないはずだった。
 それがいま、神霊たちとともに、自身も追い込まれている予感がある。
 そのことが何を示すのか。
 敵は、結城が最強と信じる神霊たちさえ抑え込んでしまえる程の、強大な力を持つということだ。
『ゆうき!』
「っ!」
 驚愕で足を止めていた結城の耳に、媛寿の声が一喝いっかつするように響いた。
『えんじゅたちがぜったいにまもるから! ゆうき! いまはにげて!』
「媛寿……」
 その声で、結城は我を取り戻した。
 媛寿たちが力を尽くしてくれている時に、自分が怖気おじけづいている場合ではない。足を止めていてはいけないのだ。
「分かった、媛寿。それまで僕もラナンさんをちゃんと守るから」
『おっけー!』
 媛寿からのハツラツとした返信を最後に、結城は通信を終了した。
「ラナンさん、ごめん。またちょっと走ることになるんだけど、大丈夫?」
「ええ……大丈夫です……」
 短い呼吸を繰り返しながら答えるラナン。
 あまり体力のなさそうなラナンを走り回らせることを、結城は少々気の毒に思えてしまうが、
「しんどい思いをさせちゃうかもしれないけど、ラナンさん、僕が……いや、僕たちが必ず安全なところまで連れていくから。もう少しだけ我慢して」
 空元気もいいところだったが、結城はできる限りの勇ましさと凛々りりしさを込めた声とともに、ラナンに手を差し伸べた。
「……はい」
 結城が差し出した手に、ラナンも自身の手を重ねる。
「よし! それじゃ―――!?」
 ラナンの手を引いて走り出そうとした結城は、なぜか足が石のように重いことに気が付いた。
 足元を見るが、結城の足自体に異変はない。
 異変があるとすれば、脳の中心にわだかまる冷たい感覚と、強い動悸から来る冷や汗だった。
 意識するよりも速く、結城の無意識は、十字路の陰に潜む何者かを察知し、先に進むことを拒絶していた。
 その先に進めば命はない。そう予感させるほど危険な者が、すぐそこにたたずんでいるのだ。
「かぁっこい~こと言いますね~」
 十字路の陰から何の気なしに出てきた少女は、期待と愉悦に満ち満ちた表情を結城に向けた。
「そういう勇ましい人間が、泣き叫びながら八つ裂きにされていくのを見るの、大好きなんですよ。あたし」
 ブレザーの制服に身を包んだ少女は、屈託のない柔和な笑みを浮かべながら、恐ろしいことを言ってのけた。

(もう、すぐ)
 人気ひとけの失せた住宅街を、シロガネは一路、結城たちの元へ駆ける。
 走りながらシロガネは、現状の武装を確認した。
 両袖に仕込んだサバイバルナイフ、左もも山刀マチェット、右ももにワイヤー付きの投げスローイングナイフ、腰に隠した大型の折りたたみナイフ。
(足りる、かな)
 街中で同田貫どうたぬき両手剣ツヴァイヘンダーを出すわけにはいかず、携帯が容易な刃物を選んできたが、シロガネはそのことを後悔していた。
 マスクマンからの連絡では、謎の武装集団が結城たちに迫っているらしい。
 それを相手にするとなれば、手持ちの武器だけでどこまで太刀打ちできるのか。 クイーン・アグリッピーナ号での苦い経験が、シロガネの中で思い起こされる。
(でも、行く)
 持って来なかったものは仕方がないと割り切り、シロガネはさらに速度を上げた。
(ワタシのご主人様マスター、守る――――――!?)
 かどを曲がろうと旋回したシロガネを、待ち構えていた幾つもの銃口がとらえて発砲した。
「く、う!」
 とっさに後方へ跳び、両腕を構えて防御したが、四肢や空いていた胴に鈍器を受けたような衝撃があった。
 銃声が止み、シロガネは構えていた腕をずらいて正面を見た。
 防護面フェイスマスクと防刃ベスト、ゴム弾を装填した銃で武装した集団が、隊列を組んで一斉射した後だった。
(マスクマンの、言ってた奴ら)
 的確にシロガネを狙ってきた手並みから、それがくだんの武装集団とわかった。
 結城の元へすぐにでも向かいたいシロガネだが、その道を武装集団は完璧にふさいでいる。
「う、ぐ」
 シロガネが歯噛みしている間にも、武装集団は第二射を放つべく照準を合わせた。
「ちぇええすとおおお!」
 怪鳥けちょうに似た掛け声とともに、掛け矢ハンマーを振りかざした着物姿の少女が上から降ってきた。
 集団の中心目がけて落下してきたので、回避するために隊列は著しく乱された。
「とおおりゃあああ!」
 着地後はさらに掛け矢ハンマーを横向きに大回転し、集団をものの見事に蹴散けちらした。
「ゆうきのところには、いかせない!」
 掛け矢ハンマーを肩に担ぎ直した媛寿は、敵に対して高らかに宣言した。
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