小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

文字の大きさ
335 / 459
竜の恩讐編

三年前にて…… その5

しおりを挟む
 結城ゆうきの伝言を伝えた媛寿えんじゅは、クロランをともない、金毛稲荷神宮こんもういなりじんぐうへと歩いていた。
 だが、その表情は沈みきり、足取りもようやく歩を進められているという、まるで生ける屍リビング・デッドのような有様ありさまだった。
 クロランも、そんな媛寿の様子を見るのは初めてであり、どう話しかけていいかも分からず、不安そうに数歩離れてついていくしかできなかった。
 暗い街路を彷徨さまようように歩く媛寿の脳裏には、三年前の思い出が何度となく繰り返されていた。

 結果として、ピオニーアの推理はほとんど当たっていた。
 せいフランケンシュタイン大学病院から手紙を出していたのは、小児科に入院していた少女であり、手紙は別々に引き取られた姉に送ったものだった。
 姉妹二人の思い入れが深かった絵本を元に、離れ離れになってからも暗号でやり取りをしており、偶然、一通分の手紙が里親の手に渡り、結城たちに依頼が来たという経緯だ。
 少し難しい手術をするむねを暗号で伝えられていた姉は、手術の成否をしらせる手紙が来ないことに不安をつのらせていたが、結城たちが事の子細しさいを伝えると安心した様子だった。
 この一件以降、結城、媛寿、ピオニーアの三人は、持ち込まれる様々な依頼や事件と対峙していくことになる。
 日本有数の名家の当主にうわさされる、不老不死の真相を確かめてみれば、かつて当主に世話になった猫が変化へんげの術をおぼえて成りすましていた『不死貴族事件』。
 誰も使ったはずのない旧紙幣が多く出回りだし、その流通路を辿たどって見つけたのは、盗難にったまま誰にも使われずに放置された旧紙幣の反乱だったという『金霊かねだまの暴走事件』。
 はたまた旧家の遺産相続の最中さなかに起こった『首塚家くびづかけ連続殺人事件』。
 どれも世間を騒がせたり、不要な混乱を避けるために静かに幕引きが成されたりしたが、いずれも結城たちの活躍によって解決された事件であることを、当人たちと一部の者たちだけしか知らない。

 そうして二ヶ月ほどった頃、一時期、媛寿の機嫌が良くなかった時があった。
「む~~~」
「どしたの媛寿? かき氷フラッペにらめっこして」
 ベンチに座った浴衣ゆかた姿の媛寿は、なぜか先ほど屋台で買ったメロンシロップのかき氷を、難しい顔をして睨んでいた。
 近くで夏祭りがもよおされるということで、結城、媛寿、ピオニーアの三人は、『獄悪島ごくあくとう事件』の解決を祝って、屋台巡りをしようと祭りにおもむいていた。
 だが、いつもなら祭りと聞けばイの一番に大はしゃぎする媛寿が、どういうわけか今日は静かにしている。
 定番のかき氷ですら、すぐには手をつけず、睨めっこを決め込んでいる始末だった。
「もしかして調子が悪いの? 夏バテ?」
「ちがう……けど……」
 媛寿は結城とは反対方向に目を向けた。
 媛寿の隣には、浴衣に身を包んだピオニーアが、いちごシロップのかき氷を笑顔で堪能していた。
 ピオニーアにさとられないよう、媛寿はピオニーアの上から下までを見通した。
 きらめくプラチナブロンドの長髪、緑玉エメラルドのようなみどりの瞳、線の細い整った顔立ち、浴衣を着ているがゆえわかるスタイルの良さ。
 普段は地味なブラウスやロングスカートでいることが多いが、ピオニーアは充分に美人といえる。
「? 媛寿ちゃんもいちごのかき氷を食べたいんですか?」
 そう言って柔和に微笑ほほえんでくるピオニーアは、媛寿から見ても、容姿、内面ともに魅力的だった。
「ち、ちがうもん! えんじゅはかきごおりはめろんってきめてるから!」
 それが判るからこそ、媛寿としては気が気でなかったのだ。
 結城がピオニーアに取られてしまうのではないか、と。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...