小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

三年前にて…… その6

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「んぎっ! ぎぅ~~~!」
 意地になってかき氷フラッペをかっ込んだ媛寿えんじゅは、きーんと痛む頭を両手で押さえて背を曲げていた。
「だ、大丈夫なの、媛寿? そんな急いで食べなくっても」
「だ、だいじょうぶ、だから―――ふぃっぎ~!」
 頭痛にうずくまる媛寿と、それを見て心配そうにしている結城ゆうき
 そんな二人の様子をうかがっていたピオニーアは、何かを察すると、
「結城さん、媛寿ちゃんに常温のお水を持ってきてあげてください。それで『アイスクリーム頭痛』はおさりますから」
 結城にそう提案した。
「わ、分かりました。かかりの人にちょっとお願いしてきます」
 ピオニーアの助言を受けた結城は、他の祭り客にぶつからないよう気を付けながら、小走りに人の波に入っていった。
「『アイスクリーム頭痛』は1分少々で治まります。もう大丈夫でしょう? 媛寿ちゃん」
「う~……ん」
 ようやく頭痛から解放された媛寿は、上半身を起こすと、ベンチの背もたれに体をあずけた。
「……なんでゆうきいかせたの?」
 媛寿はピオニーアにちらりと目を向け、素朴な疑問を口にした。何もしなくともすぐに治まると知っているなら、結城に水を取りに行かせる必要はなかったからだ。
「女の子同士でしっかり話をしておいた方が良いと思いましたから。媛寿ちゃんも……私も」
 ピオニーアは媛寿に笑顔を向けたが、それはいつもピオニーアが見せる柔和な微笑ほほえみではなく、どこかさびしそうに媛寿には思えた。
「はなし?」
「媛寿ちゃん、最近は私が『依頼』に参加すると、ちょっとおへそ曲げてましたね?」
「そ、そんなことない! ぴ、ぴおにーあがいてくれて、(ゆうきが)たすかってることおおいし」
 実際、ピオニーアの知識と推理力は、結城たちがこなす依頼に大いに貢献こうけんしていた。
 病院での暗号事件から、時々、世間話ついでに相談するようになり、そこから本格的にピオニーアが依頼に参加するようになってからは、結城や媛寿ではカバーできていなかった部分が補われていた。
 そのことは媛寿も認めているし、感謝もしている。しているのだが、最近では結城とピオニーアが会話していると、媛寿は少し悶々もんもんとするようになっていた。
 それが機嫌の良くない原因と知っていても、認めてしまうのは媛寿としても、見透みすかされているようで良い感じではない。
「……そうですね~。結城さんに喜んでもらえると、私もと~っても嬉しいですから」
「うっ」
「次の『依頼』は私と結城さんの二人っきりでチャレンジしてみましょうか~」
「うぅ」
「でも、それはそれで問題ですよね~。だって媛寿ちゃん、結城さんのこと好きですから」
「みゃっ!」
 素っ頓狂すっとんきょうな驚きの声を上げ、思わずピオニーアの方を見た媛寿は、『しまった』と遅れて後悔した。図星であることを認めてしまったようなものだったからだ。
「やっぱりそうでした♪」
「………………なんでわかったの」
わかりますよ、それくらい。私だって女の子なんですから」
「……」
 ものの見事に全て見抜かれてしまっていたのが恥ずかしくなり、媛寿はゆっくりと顔を正面に戻した。
 ピオニーアに負けたという感覚はなかったが、勝負しても何だかかなわなそうだと媛寿は感じていた。
 それでも、確かめておかなければならないと考え、
「ぴおにーあはゆうきのことすきなの?」
 媛寿はその質問を口にした。
 ピオニーアはすぐには答えず、しばらく祭りの喧騒けんそうと虫の声だけが流れていたが、やがて、
「半分、ですね」
 と、少し沈んだ声で答えた。
「はんぶん? なんで?」
 媛寿がそう聞くも、ピオニーアは夜空を見上げて何かを考え込んでいるようだった。
 それ以上押し通すのもはばかられる気がしたので、媛寿は黙ってやり過ごそうとしたところ、
「えっ!?」
 なぜか唐突にピオニーアに両脇をつかまれた。
 そしてピオニーアのひざに座らされると、浴衣の身八つ口みやつくち――脇の下の穴――に手を入れられ、
「こしょこしょこしょ~」
「わっ! わわっ! わひゃひゃひゃ! あひゃひゃあ~!」
 浴衣の内側から体を思い切りくすぐられてしまった。
「女性用の浴衣って、動きを妨げないように穴が開けられてるんですよね。こしょこしょ~」
「あっ! あひゃ! ぴ! ぴおにーあ! ひゃひっ! へ、へんなとこ! さわるな~!」
 くすぐられて力が入らず、ピオニーアにされるがままの媛寿。
 だが、ピオニーアはあっさりと身八つ口から手を引くと、今度は媛寿の体に手を回し、背中から抱きしめる格好になった。
「? ぴおにーあ?」
「媛寿ちゃん、私は――――――――――」
 背中越しにピオニーアから語られた事実に、媛寿は息を止めてしまうほど驚いた。
「それ……ほんとう?」
 ピオニーアがうなずいたのが媛寿にも分かった。
「なんでそれ、はなしたの?」
「男の子には言いづらいけど、女の子同士なら話しやすいことって、あるじゃないですか。媛寿ちゃんなら、秘密を守ってくれそうですし、それに……」
 媛寿を抱きしめるピオニーアの腕の力が、ほんの少しだけ強くなった。
「さっき半分だけって言った理由、媛寿ちゃんはわかってくれるんじゃないかなって」
 そう話すピオニーアの声は、これまでで一番悲しそうな声だと媛寿は思った。
 確かに話しづらい事情であり、ピオニーアが不安になる理由も解る気がする。
 ただ同時に、わずかに腹立たしい気持ちもあった。
「ゆうきはそんなの、きにするようなことしない」
 事情に関しては理解できても、それはそれで結城の人柄を疑われているようで腹が立つからだ。
「そうですね。けど、それでも『もしかしたら』って不安になっちゃうじゃないですか。だから、媛寿ちゃん。いま話したこと、結城さんには秘密にするって、約束してくれますか?」
「……」
 媛寿は祭りの明かりとは逆の、夜の暗闇をしばらくにらむようにしていたが、やがて一言だけ答えた。
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