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竜の恩讐編
三年前にて…… その8
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「ピオニーアさんとはそんな風に、夏の少し前から数ヶ月間、一緒に依頼をこなしていました」
一通りピオニーアのことを話した結城は、そう言って一段落を締め括った。
その場にいた誰もが、結城と媛寿しか知らなかったメンバーの存在を聞き、複雑な気分で押し黙っていたが、
「一つ、気がかりなことがあります」
真っ先にアテナが口を開いた。
「そのピオニーアなる者が、ユウキ、エンジュとともに依頼を受けていた過去は理解しました。が、今回ユウキが襲撃された件について、どのように繋がるのですか? 聞いていれば、ユウキに矛先が向く理由が見当たりません」
(それも、これほど惨い方法を用いて)
アテナの指摘を受け、結城は包帯が巻かれた胸の傷にわずかに触れると、三年前の『あの日』を思い浮かべた。
叩きつけるような雨音を聞きながら、媛寿から告げられた事実に、心臓を鷲掴まれた感覚を。その時の衝撃、喪失感、悲しみを。
「ピオニーアさんが亡くなったのは……僕が原因だったんです」
三年前。十月一日。
「人捜し、ですか?」
結城が借りているボロアパートを訪ねてきた依頼者からの内容を、結城は復唱する形で確かめた。
「ええ。どうしても、一目だけでもいいのでお会いしたい方がいまして。ここなら普通の探偵興信所では成しえないような依頼も達成してくれると伺ったもので」
黒のスーツに七三分け、銀縁メガネまでかけた、いかにもサラリーマン風の男は答えた。
「え~と……そういうのは警察の人に捜してもらうのがいいと思いますけど」
結城としては『潜入』と同じくらい、『人捜し』はあまり受けたくない類の依頼だった。これまでも何度か人を捜してほしいと依頼を受けたことはあったが、ほとんどが昔の復讐目的だったり、でなくばストーカー目的に近いようなものばかりだった。
ちなみに目的が明らかになった時点で、依頼者はもれなく媛寿にお仕置きされ、依頼料もしっかり徴収している。
そういう理由から、結城としてはできれば人捜しは警察に任せてほしいところではあった。あったのだが、
「お願いします! いまは亡き親友が残していった子どもなのかもしれないんです! これは小さい時の写真ですが、知人から似ている人を見たと聞いたんです!」
男は懐から勢いよく写真を取り出すと、結城と挟んで置かれた卓袱台に差し出した。
「ん~……ん?」
写真を覗き込んだ結城は、そこに写っている人物に不思議な既視感を覚えた。
「この人を捜すんですか?」
「そう! そうです!」
「これって、何年前くらいに撮られた写真ですか?」
「え? じゅ、十年くらい前かと……」
「う~ん……」
結城は十秒ほど卓袱台の写真と睨めっこをして、
「ちょっとお時間をいただけますか?」
何か考えがまとまったのか、そう提案した。
「か、構いませんが……」
「それと、この写真ってお借りできますか?」
「そ、それは困るのでコピーか何かで……」
「分かりました。じゃあ―――」
結城は携帯電話のカメラ機能で写真を複写すると、原本を男に返した。
「では、お返事は名刺にある電話番号にお願いします。できれば早急に」
そう念を押すと、男はそそくさと写真を受け取り、結城の部屋を後にした。
「ん~……」
結城としては、もう依頼者の素性等々よりも、写真に写っていた人物の方が気になったので、携帯電話の画像データと再び睨めっこしていた。
「ゆうき、これ……」
結城の肩越しに姿を現した媛寿もまた、写真の人物に見覚えがあるようだった。
「うん。僕もそうじゃないかな~って」
二人とも、その十年前に撮られた写真の中の人物と、おそらくそこから十年経ったであろう人物に、心当たりがあった。
一通りピオニーアのことを話した結城は、そう言って一段落を締め括った。
その場にいた誰もが、結城と媛寿しか知らなかったメンバーの存在を聞き、複雑な気分で押し黙っていたが、
「一つ、気がかりなことがあります」
真っ先にアテナが口を開いた。
「そのピオニーアなる者が、ユウキ、エンジュとともに依頼を受けていた過去は理解しました。が、今回ユウキが襲撃された件について、どのように繋がるのですか? 聞いていれば、ユウキに矛先が向く理由が見当たりません」
(それも、これほど惨い方法を用いて)
アテナの指摘を受け、結城は包帯が巻かれた胸の傷にわずかに触れると、三年前の『あの日』を思い浮かべた。
叩きつけるような雨音を聞きながら、媛寿から告げられた事実に、心臓を鷲掴まれた感覚を。その時の衝撃、喪失感、悲しみを。
「ピオニーアさんが亡くなったのは……僕が原因だったんです」
三年前。十月一日。
「人捜し、ですか?」
結城が借りているボロアパートを訪ねてきた依頼者からの内容を、結城は復唱する形で確かめた。
「ええ。どうしても、一目だけでもいいのでお会いしたい方がいまして。ここなら普通の探偵興信所では成しえないような依頼も達成してくれると伺ったもので」
黒のスーツに七三分け、銀縁メガネまでかけた、いかにもサラリーマン風の男は答えた。
「え~と……そういうのは警察の人に捜してもらうのがいいと思いますけど」
結城としては『潜入』と同じくらい、『人捜し』はあまり受けたくない類の依頼だった。これまでも何度か人を捜してほしいと依頼を受けたことはあったが、ほとんどが昔の復讐目的だったり、でなくばストーカー目的に近いようなものばかりだった。
ちなみに目的が明らかになった時点で、依頼者はもれなく媛寿にお仕置きされ、依頼料もしっかり徴収している。
そういう理由から、結城としてはできれば人捜しは警察に任せてほしいところではあった。あったのだが、
「お願いします! いまは亡き親友が残していった子どもなのかもしれないんです! これは小さい時の写真ですが、知人から似ている人を見たと聞いたんです!」
男は懐から勢いよく写真を取り出すと、結城と挟んで置かれた卓袱台に差し出した。
「ん~……ん?」
写真を覗き込んだ結城は、そこに写っている人物に不思議な既視感を覚えた。
「この人を捜すんですか?」
「そう! そうです!」
「これって、何年前くらいに撮られた写真ですか?」
「え? じゅ、十年くらい前かと……」
「う~ん……」
結城は十秒ほど卓袱台の写真と睨めっこをして、
「ちょっとお時間をいただけますか?」
何か考えがまとまったのか、そう提案した。
「か、構いませんが……」
「それと、この写真ってお借りできますか?」
「そ、それは困るのでコピーか何かで……」
「分かりました。じゃあ―――」
結城は携帯電話のカメラ機能で写真を複写すると、原本を男に返した。
「では、お返事は名刺にある電話番号にお願いします。できれば早急に」
そう念を押すと、男はそそくさと写真を受け取り、結城の部屋を後にした。
「ん~……」
結城としては、もう依頼者の素性等々よりも、写真に写っていた人物の方が気になったので、携帯電話の画像データと再び睨めっこしていた。
「ゆうき、これ……」
結城の肩越しに姿を現した媛寿もまた、写真の人物に見覚えがあるようだった。
「うん。僕もそうじゃないかな~って」
二人とも、その十年前に撮られた写真の中の人物と、おそらくそこから十年経ったであろう人物に、心当たりがあった。
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