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竜の恩讐編

フランケンシュタインの夢 その2

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 『それ』が生まれて初めて目にしたのは、手術台を照らす巨大な照明だった。
 そして正確には、『それ』は生まれた・・・・わけではない。
 『それ』の中には複数の意思があり、それぞれがある記憶を有していた。
 生前の自身の意識が途絶えた時の記憶。
 すなわち、死の記憶だった。
 『それ』が寝かされていた手術台の横で、白衣はくいを着た研究者風の人物が狂喜乱舞していた。
 正気を疑うような喜びようだったが、その人物の言葉の端々はしばしに、『実験』、『成功』、『死者』、『蘇生』という単語が含まれていた。
 『それ』は改めて、自身の手を、腕を、胴を、ももを、足を見た。
 いたる箇所にぎがほどこされ、傷で区切られた部分は全て違う人体パーツで構成されていた。
 部屋の壁にあった鏡を見た時、元々ちぐはぐだった『それ』の精神は完全に壊れた。
 ぎにされた誰とも知れぬ顔がそこに映っていた。
 『それ』は理解した。死の安らぎを奪われ、ぎの怪物の姿で蘇らされたことを。
 『それ』の中にあった複数の意思は、怒りという感情を基点に肉体を動かした。
 手術台の横にあったありとあらゆる器具でもって、白衣の人物を八つ裂きにした。
 真っ赤な肉塊にくかいを前に、『それ』は途方に暮れた。
 死の安らぎを奪われた復讐は果たしたが、その後をどうするか、全く思いつかなかった。
 白衣のポケットからはみ出していた日記帳を取ったのは、せめて指針を見出したかったからかもしれない。
 そこには、小説の中に出てきた怪物を造りだしたいという欲求と、そのための研究を続けてきたことが書き連ねてあった。
 日記を読み終えたことで、『それ』は研究の集大成が自身であると理解した。
 おのれが造った存在に惨殺されたことへの憐憫れんびんか、あるいは別の意図があったのか、『それ』もその時の気持ちをよく思い出せない。
 ただ、『それ』は肉塊の中から脳髄の一部を取り出し、自身への移植をこころみた。
 医学的見地からすれば出鱈目でたらめな処置だったが、効果はあった。
 ばらばらだった『それ』の中の意思が、ひとまとまりに集約し、より高い知能を得るに至った。
 研究所にあった資料を全て読み込んだ『それ』は、欧州ヨーロッパ中を巡る流浪ながれの医者となった。
 時には寒村で、時には大都会で、時には戦場で、『それ』は人を治し続けた。
 人の生命いのちに関わることで、すでに失われている自身の生命を感じ取りたかったのかもしれない。
 二度目の世界大戦のおり、旧ドイツ軍から逃れるため、『それ』はひたすら東を目指した。
 ようやく極東の国、日本へと辿たどり着いた時には、大戦はすでに終結していた。
 以降、日本に根を下ろし、闇医者として活動しながら、『それ』は自身をヴィクトリア・フランケンシュタインと名乗るようになっていた。
 日記帳の背表紙に書かれていた名と、小説の中の科学者の姓から取った名前だった。

「うらうらうらうらうらぁ!」
 回転する六連装の銃身が、毎分二千発を超える弾丸の嵐を巻き起こす。
 岩を砕き、大木を穿うがち、破壊の限りを尽くしながらシロガネを追い詰めようとする。
 だが、さすがのヴィクトリアでもミニガンの交換武装アタッチメントは機動性を欠いた。
 100kg以上の重量が半身に寄ってしまっては、ほとんど固定砲台と変わらない状態だった。
 そこを知ってか知らずか、シロガネは持ち前の素早さで回避し、なおつ一定の距離を保っている。
 弾が尽きるのが先か、弾が貫くのが先か、勝負の分かれ目はそこにあった。
 そしていよいよ、ミニガンの銃身は弾丸の発射を止めた。
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