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竜の恩讐編

フランケンシュタインの夢 その3

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「降参、しろ」
 ミニガンの停止を見届けたシロガネは、ヴィクトリアに降伏をうながした。
「ハッ! ふざけてんのか!? 弾切れこんなもんくだるようなら、最初はなから危ねぇハシ渡らねぇっての!」
 だが、当のヴィクトリアは勧告に一切耳を貸すつもりはない。
 それを見て取ったシロガネは、表情こそ変えることはなかったが、目だけはわずかに細めていた。悲しい気持ちを表現するかのように。
「そう、か――――――なら、っ!」
 一拍の間を置いて、シロガネは距離を詰めようと疾駆した。
 ヴィクトリアとの間合いは約十メートル。
 シロガネのスピードなら、五秒とたずに得物えものの効果範囲まで到達できる。
 しかし、そのシンプルな攻撃を待っていたのは、むしろヴィクトリアの方だった。
 シロガネのスピードには、ミニガンの連射力でも追いつけないのは早々にわかっていた。
 なので一直線にとどめを刺しに来る状況に誘い込んだ。
 口元のい傷がきしみを上げる程に破顔はがんしたヴィクトリアは、ミニガンに隠していた小型拳銃デリンジャーを左手でかまえた。
 正面から向かってくる相手なら、飛距離のとぼしい小型拳銃デリンジャーであっても充分な殺傷力を発揮できる。
 彼我ひがの距離が二メートルを切ったところで、ヴィクトリアは引き金を引いた。
 ミニガンと比べ乾いた銃声が一発、霧と闇に満ちた山中にひびき渡った。
 と同時に、小さな金属音も。
 シロガネは左手に持った両手剣ツヴァイヘンダーを盾代わりに、小型拳銃デリンジャーの弾丸を防いでいた。
 そのままヴィクトリアに肉薄しようとするも、相手もまた黙ってはいない。
 シロガネが防御することも、ヴィクトリアは読んでいた。
 右腕を振るいながら接続機コネクターを解除し、外れたミニガンをシロガネに投げつける。
 シロガネは両手剣ツヴァイヘンダーを離し、右手の同田貫どうたぬきを大上段に構えた。
 シロガネの付喪神つくもがみとしての能力と、日本刀のやいばの切れ味が合わさり、100kgを超える鉄塊は両断された。
 その後ろから、今度はヴィクトリアがシロガネに差しせまる。
 狙うはシロガネの鳩尾みぞおち。そこを左手首に仕込んでいた短剣ダガーで貫く。
 全てがそのための陽動。
 そして、その目論見は見事に決まり、シロガネの胴に刃が突き刺さった。
 ヴィクトリアは勝利を確信した――――――――――のも束の間、自身の鳩尾を見て目を見開いた。
 シロガネが左手に持った白木しらきの短刀が、ヴィクトリアの胴を突き刺していた。
 同田貫による切り返しができないとさとったシロガネは、そでに仕込んでいた短刀を抜き、とっさにヴィクトリアと同じ急所を狙っていたのだ。
「まさか、これだけ、仕組んで、返され、る、なん、て……」
 ヴィクトリアがひざをつくと、シロガネもまた膝をつく。
「ワタシも、ここまで、ギリギリ……」
 シロガネが倒れる方向に、つられてヴィクトリアも倒れこんだ。
(ごめん、なさい、千春ちはる……私、は、行け、ない……)
 ヴィクトリアは山頂を目指しているであろう友人に謝罪しながら、
結城ゆうき……せめて、安らかに……)
 シロガネは山頂にいるであろうあるじの身を案じながら、二人の意識は霧と闇の中に沈んでいった。
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