383 / 469
竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その2
しおりを挟む
天逐山の山道で対面を果たしたアテナと千春。
二人は互いに一足で得物が届く間合いまで歩み寄ると、示し合わせたかのようにそこでぴたりと止まった。
「武具の封を解きなさい。それまでは待ちます」
千春の得物がまだ布に包まれていることを見て取ったアテナは、それを解くよう促した。
「ふふ、思った通り正々堂々としたタイプ」
アテナの性質を見抜いていた千春は、相手からの厚意を受けて、得物の封を解き始めた。
「ところで、戦う前に聞いておきたいんだけど」
「……何を伺いたいと?」
「正直な話、あの結城はどうやったって助からない。あたしたちが勝とうが、あなたたちが勝とうが、ね」
「……」
「なのにこんな戦いを仕掛けたのは、一体どんな理由があったっていうの? わざわざ場所まで指定して。あの結城、こんな真似する偏屈には見えなかったけど?」
あえてゆっくりと布を取りながら、千春はアテナからの回答に耳を傾ける。
アテナは少し悲しげな目で沈黙していたが、やがて溜め息を吐くように口を開いた。
「この場を用意したのはユウキの意向ですが、戦っているのは私たちの意思です」
「その理由は? ここで守ったって、どの道お陀仏なのに」
「……強いて言えば、矜持のため」
「矜持?」
「神として、守るべき者を守れなかった。その失態、己への敗北に報いるため」
「へぇ~、あんな凡庸そうな人間に、神サマがそこまでする価値があるって言うんだ?」
「無論です」
アテナの迷いのない回答に、千春は思わず手を止めた。驚いたといってもいい。
「あなたたちがユウキの命を狙うというなら、あなたたちの依頼主がユウキに復讐を敢行するなら、存分に攻め入ってくるがいい。だが―――」
アテナは右手に持っていた槍を、千春に真っ直ぐ向けて言った。
「―――容易く取ることができるほど、ユウキの命、軽いと思うな!」
そう言い放つアテナに、千春は『なるほど』と笑みを浮かべた。
(納得した。神サマっていうのも案外可愛らしい理由で動くのね。このまま取られるのが悔しいんだ。何で小林結城がわざわざこんな場所を用意したのかは解んないけど)
「OK! そこまで言うなら、こっちも全力で取りに行かないとね!」
千春はついに得物を包んでいた布を解き放った。
「!?」
その長さから、アテナは槍か薙刀だと予想していたが、違っていた。
千春が携えていたのは、3メートルを優に超える長大な日本刀だった。
千春たちが天逐山に入り、三十分を過ぎようとしていた。
麓に残ったのは、リズベル、キュウ、千夏の三人のみ。
まだ小雨が降る中、キュウと千夏はどこからか出した番傘を差し、リズベルは雨に打たれながら山頂を睨み続けている。
キュウが『お使いになりますか?』と傘を差し出しても、それを聞き入れることはなかった。
ピオニーアを殺した男が、死に至る傷を負わされながら、あつかましくも命を取れるものなら取りに来いと挑発まで仕掛けてきた。
リズベルの怨嗟と憎悪は、もはや感情という域ではなく、全てを擲ってでも果たす使命へと昇華していた。
だからこそ、聞き逃さず待っている。小林結城の断末魔が、山頂から届く時を。
だからこそ、確かめるべく待っている。小林結城の首級から、死に際の苦悶の表情を見る時を。
(千春、早く! 早く持って来て! ピオニーアの命を奪った、その男の命を!」
爪が掌に食い込むほどの力で、リズベルは拳を握り締める。
(地獄へ堕ちる前に、ピオニーアの前で血の涙を流して平伏するがいい! この世に残った肉体は、一切の痕跡を残さず焼き尽くして―――)
心の内で怨嗟の声を呟くリズベルの後方で、不意にドイツ製の高級車が停止した。
「リズベル!」
慌てた様子でドアを開けて出てきたのは、播海家の現当主、繋鴎だった。
二人は互いに一足で得物が届く間合いまで歩み寄ると、示し合わせたかのようにそこでぴたりと止まった。
「武具の封を解きなさい。それまでは待ちます」
千春の得物がまだ布に包まれていることを見て取ったアテナは、それを解くよう促した。
「ふふ、思った通り正々堂々としたタイプ」
アテナの性質を見抜いていた千春は、相手からの厚意を受けて、得物の封を解き始めた。
「ところで、戦う前に聞いておきたいんだけど」
「……何を伺いたいと?」
「正直な話、あの結城はどうやったって助からない。あたしたちが勝とうが、あなたたちが勝とうが、ね」
「……」
「なのにこんな戦いを仕掛けたのは、一体どんな理由があったっていうの? わざわざ場所まで指定して。あの結城、こんな真似する偏屈には見えなかったけど?」
あえてゆっくりと布を取りながら、千春はアテナからの回答に耳を傾ける。
アテナは少し悲しげな目で沈黙していたが、やがて溜め息を吐くように口を開いた。
「この場を用意したのはユウキの意向ですが、戦っているのは私たちの意思です」
「その理由は? ここで守ったって、どの道お陀仏なのに」
「……強いて言えば、矜持のため」
「矜持?」
「神として、守るべき者を守れなかった。その失態、己への敗北に報いるため」
「へぇ~、あんな凡庸そうな人間に、神サマがそこまでする価値があるって言うんだ?」
「無論です」
アテナの迷いのない回答に、千春は思わず手を止めた。驚いたといってもいい。
「あなたたちがユウキの命を狙うというなら、あなたたちの依頼主がユウキに復讐を敢行するなら、存分に攻め入ってくるがいい。だが―――」
アテナは右手に持っていた槍を、千春に真っ直ぐ向けて言った。
「―――容易く取ることができるほど、ユウキの命、軽いと思うな!」
そう言い放つアテナに、千春は『なるほど』と笑みを浮かべた。
(納得した。神サマっていうのも案外可愛らしい理由で動くのね。このまま取られるのが悔しいんだ。何で小林結城がわざわざこんな場所を用意したのかは解んないけど)
「OK! そこまで言うなら、こっちも全力で取りに行かないとね!」
千春はついに得物を包んでいた布を解き放った。
「!?」
その長さから、アテナは槍か薙刀だと予想していたが、違っていた。
千春が携えていたのは、3メートルを優に超える長大な日本刀だった。
千春たちが天逐山に入り、三十分を過ぎようとしていた。
麓に残ったのは、リズベル、キュウ、千夏の三人のみ。
まだ小雨が降る中、キュウと千夏はどこからか出した番傘を差し、リズベルは雨に打たれながら山頂を睨み続けている。
キュウが『お使いになりますか?』と傘を差し出しても、それを聞き入れることはなかった。
ピオニーアを殺した男が、死に至る傷を負わされながら、あつかましくも命を取れるものなら取りに来いと挑発まで仕掛けてきた。
リズベルの怨嗟と憎悪は、もはや感情という域ではなく、全てを擲ってでも果たす使命へと昇華していた。
だからこそ、聞き逃さず待っている。小林結城の断末魔が、山頂から届く時を。
だからこそ、確かめるべく待っている。小林結城の首級から、死に際の苦悶の表情を見る時を。
(千春、早く! 早く持って来て! ピオニーアの命を奪った、その男の命を!」
爪が掌に食い込むほどの力で、リズベルは拳を握り締める。
(地獄へ堕ちる前に、ピオニーアの前で血の涙を流して平伏するがいい! この世に残った肉体は、一切の痕跡を残さず焼き尽くして―――)
心の内で怨嗟の声を呟くリズベルの後方で、不意にドイツ製の高級車が停止した。
「リズベル!」
慌てた様子でドアを開けて出てきたのは、播海家の現当主、繋鴎だった。
0
あなたにおすすめの小説
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる