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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その9
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「稔丸くん! どうした!? なぜその妖怪を仕留めない!?」
戦闘員と連絡を取ったはずが、全く動く気配のない稔丸に業を煮やした繋鴎が叫んだ。
「あ~、その~……すまないけど繋鴎さん、こりゃダメだ」
「何!?」
「相手が悪すぎた。ボクの配下の娘たち、全員押さえられた」
「なっ!? そんなことありえ―――」
「あるんだなぁ、これが」
驚愕する繋鴎の右手首を、いつの間にか接近していた千夏が持ち上げた。
「あんたらが何処の誰かは知らないけど、金毛稲荷神宮を相手にするには千年と三百年くらいは早かったな」
「ぐおぉ!」
骨が折れるほどではないが、千夏は繋鴎の手首を恐るべき握力で締め上げた。
「おとなしくしててもらおうか。部外者だろうが関係者だろうが、いまこの場を引っかき回そうってんなら、あたしもちょっと憂さ晴らしさせてもらうぜ?」
「その通りですよ~」
背後から聞こえてきた声に、繋鴎はまたも驚愕して振り返った。
そこには稔丸の背後を取っているはずのキュウがいた。稔丸の方を見てみるが、間違いなくそこにもキュウの姿がある。
だが、それ以上に繋鴎を戦慄させたのは、金色の尾に拘束された女学生風の少女の有様だった。
「クド!」
「この付喪神とお知り合いですよね~?」
キュウはクドに巻きつけている尾の力を強め、その身体をぎしぎしと軋ませた。
クドは悲鳴を上げるが、口元を尾で塞がれているため、それは声にならない。
「ま、待て! やめろ!」
「安心してくださ~い。壊したりしませんよ~。ただ―――」
キュウは冷徹な表情でその場を静観していたリズベルに目を向けた。
それから足音もなく、すうっとリズベルの前まで近付く。
「あなたには少しお返しをしておこうと思います。私の大事な結城さんに手を出したお礼として」
「ま、待て! 何をする気―――ぐおぉあ!」
キュウを止めようとした繋鴎の手首を、千夏は容赦なくへし折った。
「動くな。次は左を折る」
千夏の殺気と骨折の衝撃で、繋鴎は動きを止めてしまった。
その間に、キュウの尾が再びクドの項に狙いを定め、
「~~~!」
先端の針がクドを刺した。またもクドは声にならない悲鳴を上げる。
「お次は~」
キュウはもう一本の針の付いた尾を持ち上げると、その先をリズベルに向けた。
「これが私からのお返しですよ~」
尾の先端の針は、リズベルの額にそっと触れた。
リズベルはそれに何の意味があるのか、しばらく理解できなかったが、
「っ!」
次第に目を見開き始めた。
「あ……あ……あぁ!」
それまでの鉄面皮とは打って変わり、リズベルの表情は恐慌でも起こしたように乱れていった。
「もう良いでしょ~」
キュウはリズベルから尾を離し、クドの項からも針を抜いた。
「この付喪神はお返ししますよ~」
キュウは稔丸の高級車まで尾を伸ばし、ぐったりしたクドをボンネットに寝かせた。
一方、リズベルは寒さに凍えるように両腕をかき抱き、強張った表情で虚空を見つめている。
「あ……あぁ……そんな……ピオニーア――――――ピオニーア!?」
リズベルはハッとした顔で天逐山の山頂を見た。
「ピオニーア……ピオニーア!」
矢も楯もたまらずといった風に、山頂へ続く道に駆け出すリズベル。
「ま、待て! リズベル―――ぐあああ!」
「ホントに片方も折るぞ?」
リズベルを追おうとした繋鴎の折れた手首を、千夏はぎりぎりと握り締めた。
「ぐあ……お……い、いったい何をしたんだ!」
骨折と、その部位を締め上げられる痛みを味わいながら、繋鴎はキュウに食ってかかった。
「大したことはしていませんよ~。ただ知りたがっていたことを教えてあげただけのこと~」
繋鴎に振り返ったキュウは、愉悦に満ちた笑みを何ら隠そうとしていなかった。
「あの可愛らしいくらいに愚かな復讐者さんに」
人間が辛苦を味わう様を心から愉しむ獣の笑みに、繋鴎は心の底からの怖気を覚えた。
戦闘員と連絡を取ったはずが、全く動く気配のない稔丸に業を煮やした繋鴎が叫んだ。
「あ~、その~……すまないけど繋鴎さん、こりゃダメだ」
「何!?」
「相手が悪すぎた。ボクの配下の娘たち、全員押さえられた」
「なっ!? そんなことありえ―――」
「あるんだなぁ、これが」
驚愕する繋鴎の右手首を、いつの間にか接近していた千夏が持ち上げた。
「あんたらが何処の誰かは知らないけど、金毛稲荷神宮を相手にするには千年と三百年くらいは早かったな」
「ぐおぉ!」
骨が折れるほどではないが、千夏は繋鴎の手首を恐るべき握力で締め上げた。
「おとなしくしててもらおうか。部外者だろうが関係者だろうが、いまこの場を引っかき回そうってんなら、あたしもちょっと憂さ晴らしさせてもらうぜ?」
「その通りですよ~」
背後から聞こえてきた声に、繋鴎はまたも驚愕して振り返った。
そこには稔丸の背後を取っているはずのキュウがいた。稔丸の方を見てみるが、間違いなくそこにもキュウの姿がある。
だが、それ以上に繋鴎を戦慄させたのは、金色の尾に拘束された女学生風の少女の有様だった。
「クド!」
「この付喪神とお知り合いですよね~?」
キュウはクドに巻きつけている尾の力を強め、その身体をぎしぎしと軋ませた。
クドは悲鳴を上げるが、口元を尾で塞がれているため、それは声にならない。
「ま、待て! やめろ!」
「安心してくださ~い。壊したりしませんよ~。ただ―――」
キュウは冷徹な表情でその場を静観していたリズベルに目を向けた。
それから足音もなく、すうっとリズベルの前まで近付く。
「あなたには少しお返しをしておこうと思います。私の大事な結城さんに手を出したお礼として」
「ま、待て! 何をする気―――ぐおぉあ!」
キュウを止めようとした繋鴎の手首を、千夏は容赦なくへし折った。
「動くな。次は左を折る」
千夏の殺気と骨折の衝撃で、繋鴎は動きを止めてしまった。
その間に、キュウの尾が再びクドの項に狙いを定め、
「~~~!」
先端の針がクドを刺した。またもクドは声にならない悲鳴を上げる。
「お次は~」
キュウはもう一本の針の付いた尾を持ち上げると、その先をリズベルに向けた。
「これが私からのお返しですよ~」
尾の先端の針は、リズベルの額にそっと触れた。
リズベルはそれに何の意味があるのか、しばらく理解できなかったが、
「っ!」
次第に目を見開き始めた。
「あ……あ……あぁ!」
それまでの鉄面皮とは打って変わり、リズベルの表情は恐慌でも起こしたように乱れていった。
「もう良いでしょ~」
キュウはリズベルから尾を離し、クドの項からも針を抜いた。
「この付喪神はお返ししますよ~」
キュウは稔丸の高級車まで尾を伸ばし、ぐったりしたクドをボンネットに寝かせた。
一方、リズベルは寒さに凍えるように両腕をかき抱き、強張った表情で虚空を見つめている。
「あ……あぁ……そんな……ピオニーア――――――ピオニーア!?」
リズベルはハッとした顔で天逐山の山頂を見た。
「ピオニーア……ピオニーア!」
矢も楯もたまらずといった風に、山頂へ続く道に駆け出すリズベル。
「ま、待て! リズベル―――ぐあああ!」
「ホントに片方も折るぞ?」
リズベルを追おうとした繋鴎の折れた手首を、千夏はぎりぎりと握り締めた。
「ぐあ……お……い、いったい何をしたんだ!」
骨折と、その部位を締め上げられる痛みを味わいながら、繋鴎はキュウに食ってかかった。
「大したことはしていませんよ~。ただ知りたがっていたことを教えてあげただけのこと~」
繋鴎に振り返ったキュウは、愉悦に満ちた笑みを何ら隠そうとしていなかった。
「あの可愛らしいくらいに愚かな復讐者さんに」
人間が辛苦を味わう様を心から愉しむ獣の笑みに、繋鴎は心の底からの怖気を覚えた。
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