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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その13
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「く―――」
アテナの左腕に異様な感覚が走った。痛みはないが、肉体を断裂された感触だけが伝わってくる。
日本刀による鋭い斬撃が、痛覚をも追い越したダメージを見舞ってきたのだ。
アテナは焦りから罠に飛び込んだことを歯噛みした。
天坂千春は、これまで戦ってきた相手とはまるで違うと、アテナ自身が知っていたはずだったからだ。
だが、幸いにもアテナの左腕は切断までには至っていなかった。
アテナ愛用の手甲が斬撃を鈍らせ、決定的なダメージまでは防いだ。
深手には違いないが、まだ戦いを継続できる状態は保っていた。
「―――おおお!」
足払いからさらに切り返し、アテナは槍を右に振るった。
「くお!」
返ってきた槍の穂先は、宙に跳んでいた千春の右脹脛を斬りつけた。
アテナは左腕を深く斬られ、千春は右脹脛を割られた。
互いに予想外の傷を負ってしまい、二人はバランスを崩して倒れこんだ。
「はあ……はあ……はあ……」
「痛っつつ……あそこからあたしの脚を切りにくるなんて……女神サマもやるわね……」
静かに血を流す脹脛を見つめながら、千春はアテナの戦いぶりを賞賛した。
「手甲諸共に私の腕を斬ったその武練……この現代において幾人とも在りはしないでしょう……しかし……それでも!」
アテナは槍を杖代わりにして立ち上がった。
「ユウキの元へ行かせるわけにはいきません!」
「あはは……面白い……だったら―――余計にその面子へし折りってやりたくなる!」
脹脛からの出血をものともせず、千春もまた立ち上がる。
「止めてみせます! アマサカチハル!」
「ぐうの音も出ないくらいに降してやる! 女神アテナ!」
とはいえ、千春も脹脛を切られたことは浅い傷とは言えない。
利き足でなかっただけ僥倖だが、機動力は確実に落ちている。
アテナと戦いながら結城を仕留めるのは難しくなったと思われたが、
(そうだ、いい方法がある)
名案が浮かんだ千春は、アテナに気付かれないように口角を上げた。
近くで何かが落下する音が聞こえてから、結城はその方向をぼんやりと見つめていた。
カメーリアが処方した麻酔のせいなのか、それとも肉体を蝕む『毒』のせいなのか、結城は周りへの反応が薄くなっている。
(いよいよ、なのかな……)
刺客が山頂まで辿り着くのが先か、『毒』によって命を落とすのが先か。
どちらにしても結城は自身の命運が尽きかけていることを感じ取っていた。
(僕は……)
結城の中で、死別した人々の姿が浮かんでは消えていく。その良し悪しに関わらず。
(ピオニーアさんに……会えるのかな……)
最後にピオニーアの姿が浮かび、結城は再び重くなってきた目蓋を閉じようとした。
もう少しで完全に視界が閉ざされるという時、近くの林が掻き分けられる音がした。
とうとう刺客が来たのかと目を開いていった結城だったが、視界に入ってきた人物を見て目を疑った。
背を曲げて息せき切るその姿は、ブレザーの制服こそ着ていたが、プラチナブロンドの髪と端正な顔は、記憶にある人物と瓜二つだった。
「ピオニーア……さん?」
すでに感覚が喪失した脚で立ち上がり、結城はその人物の名前を呼んだ。
「ハア……ハア……ち……違う……私は……ピオニーアじゃ……ない」
呼吸が回復してきたその人物は、途切れ途切れの言葉で否定した。
やがて結城に真っ直ぐ向き直り、縋るような目で問い質す。
「答えて……お前は……知ってたの?」
アテナの左腕に異様な感覚が走った。痛みはないが、肉体を断裂された感触だけが伝わってくる。
日本刀による鋭い斬撃が、痛覚をも追い越したダメージを見舞ってきたのだ。
アテナは焦りから罠に飛び込んだことを歯噛みした。
天坂千春は、これまで戦ってきた相手とはまるで違うと、アテナ自身が知っていたはずだったからだ。
だが、幸いにもアテナの左腕は切断までには至っていなかった。
アテナ愛用の手甲が斬撃を鈍らせ、決定的なダメージまでは防いだ。
深手には違いないが、まだ戦いを継続できる状態は保っていた。
「―――おおお!」
足払いからさらに切り返し、アテナは槍を右に振るった。
「くお!」
返ってきた槍の穂先は、宙に跳んでいた千春の右脹脛を斬りつけた。
アテナは左腕を深く斬られ、千春は右脹脛を割られた。
互いに予想外の傷を負ってしまい、二人はバランスを崩して倒れこんだ。
「はあ……はあ……はあ……」
「痛っつつ……あそこからあたしの脚を切りにくるなんて……女神サマもやるわね……」
静かに血を流す脹脛を見つめながら、千春はアテナの戦いぶりを賞賛した。
「手甲諸共に私の腕を斬ったその武練……この現代において幾人とも在りはしないでしょう……しかし……それでも!」
アテナは槍を杖代わりにして立ち上がった。
「ユウキの元へ行かせるわけにはいきません!」
「あはは……面白い……だったら―――余計にその面子へし折りってやりたくなる!」
脹脛からの出血をものともせず、千春もまた立ち上がる。
「止めてみせます! アマサカチハル!」
「ぐうの音も出ないくらいに降してやる! 女神アテナ!」
とはいえ、千春も脹脛を切られたことは浅い傷とは言えない。
利き足でなかっただけ僥倖だが、機動力は確実に落ちている。
アテナと戦いながら結城を仕留めるのは難しくなったと思われたが、
(そうだ、いい方法がある)
名案が浮かんだ千春は、アテナに気付かれないように口角を上げた。
近くで何かが落下する音が聞こえてから、結城はその方向をぼんやりと見つめていた。
カメーリアが処方した麻酔のせいなのか、それとも肉体を蝕む『毒』のせいなのか、結城は周りへの反応が薄くなっている。
(いよいよ、なのかな……)
刺客が山頂まで辿り着くのが先か、『毒』によって命を落とすのが先か。
どちらにしても結城は自身の命運が尽きかけていることを感じ取っていた。
(僕は……)
結城の中で、死別した人々の姿が浮かんでは消えていく。その良し悪しに関わらず。
(ピオニーアさんに……会えるのかな……)
最後にピオニーアの姿が浮かび、結城は再び重くなってきた目蓋を閉じようとした。
もう少しで完全に視界が閉ざされるという時、近くの林が掻き分けられる音がした。
とうとう刺客が来たのかと目を開いていった結城だったが、視界に入ってきた人物を見て目を疑った。
背を曲げて息せき切るその姿は、ブレザーの制服こそ着ていたが、プラチナブロンドの髪と端正な顔は、記憶にある人物と瓜二つだった。
「ピオニーア……さん?」
すでに感覚が喪失した脚で立ち上がり、結城はその人物の名前を呼んだ。
「ハア……ハア……ち……違う……私は……ピオニーアじゃ……ない」
呼吸が回復してきたその人物は、途切れ途切れの言葉で否定した。
やがて結城に真っ直ぐ向き直り、縋るような目で問い質す。
「答えて……お前は……知ってたの?」
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