小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

事の始末 その3

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「ヴィクトリア、先にふもとに行って。リムジンくるまでリズベルちゃんを病院に。私たちは後から行く。千秋ちあきはヴィクトリアを麓まで運んであげて」
 ルーシーに肩を貸してもらいながら、千春ちはるは二人に指示を出した。
「了、解」
「はいはい」
 指示を受け取ったヴィクトリアはうなづき、千秋はヴィクトリアをかついで須佐之男スサノオの後を追った。
「で? わたしたちはどうするの? 千春」
「もう一仕事ひとしごと片付けとこうかなって。ルーシー、あなたの会社のたちにちょっと残業頼める?」
 千春からの頼み事に、ルーシーは小さく鼻で溜め息をしたが、
「麓に着いたら連絡するわ。代わりに報酬はずんでよね。最近物価が高いし」
「ありがと♪」
「じゃあわたしたちも下りるわよ」
ったたた~……これホントに内臓いくつかやられてるわ」
 話がまとまると、遅れて二人もまた下山していった。
 ついに山頂に残ったのは、アテナと建御雷神タケミカヅチだけとなった。
御礼おれいべさせていただきます、タケミカヅチ様」
 細かなちりとなって失われていく耳飾りを見つめながら、アテナは静かにそうげた。
「なに、たまさか其方そなたが危機であると小耳にはさんだまで。われは大したことはしておらぬ」
 建御雷神タケミカヅチはアテナに振り返ることなく、飄々ひょうひょうとした態度に戻ってそう返した。
「むしろ我が戦女神のいかずちを拝むことが叶った。重畳ちょうじょう重畳」
「あなたとスサノオ様が駆けつけてくださらなければ、ユウキもエンジュも不幸なみち辿たどっていたことでしょう。これを感謝しなければ非礼にあたります」
 アテナのその言葉を聞いた建御雷神タケミカヅチは、振り返るとゆっくりアテナに歩み寄ってきた。
「では一つ、戦女神の危機にせ参じた褒美ほうびを頂戴してもよかろうか?」
「?」
 アテナが疑問に思っていると、建御雷神タケミカヅチは左手でアテナの腰を押さえた。
 普段のアテナであれば、そんなすきを見せることはなかったが、負傷と疲弊ひへいが重なって反応できなかった。
「今この場には誰もおらぬ。戦女神のくちびる、褒美として頂戴したてまつる」
 右手の人差し指をアテナのあごに添え、やや上を向かせる建御雷神タケミカヅチ
 アテナはわずかに表情をけわしくさせたが、何か思うところがあったのか、目を閉じてそれ以上何の抵抗もしなかった。
「了承と受けるぞ、アテナ殿」
 建御雷神タケミカヅチはゆっくりと、アテナの元へ顔を寄せていく。
 アテナは一切微動だにしなかったが、それでも緊張しているのが見受けられた。
 互いの吐息が分かるほどに近くなり、いよいよ触れ合うとなった時――――――――――建御雷神タケミカヅチの唇はアテナのほおに軽く触れた。
 その瞬間、アテナの右拳が突き出されたが、建御雷神タケミカヅチは難なくてのひらで受け止めた。
戯言ざれごとだ」
「戯言にも限度がありましょう」
「戦女神の唇、こんなところで奪ってしまっては勿体もったいなかろう。いまに其方から我の唇を求めてくる。そのくらいでなくば、な」
「そのような事態になるとお考えで?」
「ならぬ、とも言えぬであろう? ここは預けておこう。さて、我らも下山するとしよう。麓で須佐之男スサノオと合流し、雷雲があるうちに出雲に戻らねばな」
 建御雷神タケミカヅチきびすを返すと、どこか楽しげな足取りで山を下り始めた。
 その背中を見つめながら、アテナは改めて建御雷神タケミカヅチという神を認識した。
 この男神かみは、これまで会った神の中で最も厄介な相手である、と。
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