小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

事の始末 その4

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千春姉ちはるねえ!」
 ルーシーに肩を借りて天逐山てんぢくざんを下りてきた千春に、千夏ちなつは駆け足で近寄った。
「一体どうなってるんだよ!」
 キュウと千夏がふもとで待っていると、まず媛寿えんじゅとリズベルをかかえた須佐之男スサノオが下りてきた。
 それを追ってきたヴィクトリアと千秋ちあきが、リムジンから医療器具や薬品を出し、リズベルに幾らかの処置をほどこすと、リムジンに乗せてどこかへ運び去ってしまった。
 その後、マスクマンとシロガネにかつがれた結城ゆうきが現れ、キュウと千夏は大いに驚くことになった。
 とはいえ、結城も相当に弱っている状態にあったので、今はキュウが妖力を使い、生命維持に重要な器官を重点的に治癒している。
 謎の怪人物の襲撃と、唐突に出現した二つの強力な存在、死を覚悟していた結城の生存と、千夏にとっては聞きたいことが山ほどあったが、
「その前に、あの人とちょっと話させてくれない?」
 千春は結城を治療中のキュウへ取次ぐように言った。
「話って、なに話す気だよ。言っとくけど千春姉、キュウ様からの印象かなり悪いと思うぞ?」
「ただの情報売買ビジネスよ。ちゃんと交渉するから。アレの出どころを教えてもらうだけ」
 千春が指差したのは、天逐山の入り口で大破した、コチニールが乗ってきたワゴン車だった。

「クソッ! クソクソクソッ! コチニールあのやろう、全部失敗しやがって!」
 天逐山の戦いが終わって数時間後、眩浪げんろうは怒りに地団太じだんだを踏んでいた。
「どうすんだよ! 兄貴!」
「黙れ眩浪。いま考えている」
 机で頭を悩ませている箔元はくがんは、忌々しげにそう返した。
播海家はるみけが未だに三年前のことをぎ回ってるんだぞ! コチニールの野郎が失敗したせいで、今度こそ足がつくかもしれねぇ! そうなったら俺たちは……琥外家こがいけは……」
「黙れと言っている!」
「じゃあどうすりゃいいんだ!?」
「それを……いま考えている……」
「クソがっ!」
 何ら解決策を見出せない箔元にごうを煮やしたのか、眩浪はきびすを返して部屋から出て行こうとした。
「どこへ行く眩浪!」
「もうこうなったら琥外家も敷岐内家しきうちけもどうだっていい!  早くても遅くても全部バレたらお取りつぶしだ! そうなる前に俺は中立国スイスに逃げる! あそこなら何があったって手出しは―――」
「そんな遠くまで行かなくても大丈夫」
 その声が聞こえた途端とたん、眩浪は肩が異様に軽くなった。
 同時に、すぐ横で何者かが倒れる気配を感じた。
 首から下がなくなったその人物の服装に、眩浪は見覚えがあった。
(お……俺!?)
 眩浪はようやく、自身の首が水平になった刀身の上にあることを知った。
 その恐怖から絶叫しようと顔をゆがませたところで、眩浪の『首』は絶命した。
「う、うわああああ!」
 眩浪の凄絶な死を前に、箔元が代わりに絶叫する。
 人間ヒトの首を蝋燭ろうそくのように事もなげに斬ったのは、ブレザーの制服姿の少女だった。
「地獄に行ったら誰も手出しできないから」
 水平にしていた刀を軽く揺らし、少女は眩浪の首を床に払い落とした。
「ま、待て! お、お、俺たちは―――」
「知ってる。敷岐内家の裏仕事やってる琥外家でしょ?」
 少女にあっさりと看破されてしまい、箔元は混乱から一転、呆気あっけに取られて静かになった。
「ど、どうしてそれを……」
「敷岐内家の現当主、私立皆本学園 うちの卒業生だから」
 それを聞いた箔元は、頭の中が真っ白になった。
「真面目で堅物なだったけど、一度犯したらすっかり甘えんぼうになっちゃった。卒業後も時々相手してあげてるの。で、さっき電話したんだけど―――」
 少女は刀を上段にかまえた。
皆本千春あたしの邪魔をしたあなたたちのこと、もうらない、って」
「!?」
 その言葉に箔元は脱兎だっとごとく逃げようとしたが、
「はい、残念」
 身体を何かが通り抜けた感覚を感じた直後、箔元は縦に二つに分かたれて息絶えた。
「ルーシー、こっちは終わった。あとはいつも通り、綺麗に片付けて」
 スマートフォンでルーシーに連絡した千春は、刀に付いた血を払うために一振りした。
「……」
 明かりを受けて光る刀身を見つめながら、千春はわずかに目を細めた。

『やれやれ、よりにもよってただの流れ弾に当たってこのザマとはな』
『ホント、鬼の副長ともあろう者が、誰が撃ったかも分からない弾にやられるなんて』
『ったく、おめぇも最後まで口が減らねぇ奴だよ、はら
『それは副長も一緒。函館こんなとこまで付き合ったこと、逆に感謝してほしいくらいだけど?』
『そうだな。じゃ、ここまで付き合ってくれた礼だ』
兼定かねさだ? いい刀だけど、別に欲しくは……』
兼定こいつつかに紙が入ってる。松平まつだいら様から託された徳川家の隠し金のだ』
『!』
『政府軍の奴らに取られるのもしゃくだからな。お前にやる。代わりに頼みを聞いてくれねぇか?』
『頼み?』
『ほとぼりが冷めたら兼定こいつを俺の実家に届けろ。もう一つは俺の亡骸なきがらを誰にも見つからない所に隠せ』
『墓は要らないっていうの?』
『俺の亡骸が見つからなけりゃ、政府軍の奴ら、さぞ肝を冷やすことだろうよ。俺がまだ生きてて、またみついてくるんじゃないかってな。ははっ、とっておきの置き土産をしてやるぜ!』

 目を開けた千春は、静かに刀を鞘に納めた。
(今度イイお酒持って墓参りにでも行こうかな)
 そう考えながら、千春は血で汚れきった部屋を後にした。
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