小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

三年前にて その24

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「僕は、ピオニーアさんが亡くなったのは自分のせいじゃないかって、それとなく思ってたんだ。そう思いながら三年がって、君が現れて、僕をピオニーアさんのかたきだと言ってきた」
 結城ゆうきは自身の左胸にそっと触れた。そこは丁度、リズベルが短剣で刺した箇所だった。
媛寿えんじゅにも確認して、僕がピオニーアさんの死に関わっていることを知った……あ! でも媛寿を責めないであげてほしい。媛寿はただピオニーアさんとの約束を守ろうとしただけなんだ」
「結城」
 媛寿を弁護していた結城を、媛寿自身が静かにさえぎった。
「これは結城だけ謝ったらいいんじゃなくて、媛寿も謝らなくちゃいけないんだ」
 伏せ気味だった顔を上げた媛寿は、リズベルに真っ直ぐな視線を向けた。
「リズベル、ピオニーアはリズベルのこと、本当に大切に想ってたよ」

 三年前、コチニールの投げた手榴弾を返し、難を逃れたと思った時。
「ここからどうしよう。ピオニーアさんをなるべく安全なところに連れて行かないと」
「えんじゅたちのあぱーとがいい」
「僕たちのアパートってあの悪い人たちが一度来てるからな~」
 結城と媛寿が行き先に悩んでいると、
「結城さん、媛寿ちゃん。私に伝手つてがあるので、ここを離れて連絡を取らせてもらえませんか? 結城さんと媛寿ちゃんの身柄の安全も保証してもらえるように頼みますから」
 ピオニーアがそう提案した。
「そうですね。ピオニーアさんに考えがあるなら―――」
「だいじょうぶ!」
 二人ともピオニーアの冷静な判断と見識を知っているので、安心してその提案を受け入れた。
 三人は用意していたゴムボートに乗り込もうとしたが、そこで結城はふと気になったことがあった。
「あっ、そういえばあの人どうしよう―――!?」
 手榴弾の爆風と破片を受け、後ろで倒れているであろうコチニールを振り返った結城は、顔を上げ、右手を突き出しているコチニールの姿を認めた。
 反射的にそれが銃器だと判断した結城は、
「ピオニーアさん! 危ない!」
 射線の先にいたピオニーアをかばうべく跳躍ちょうやくした。
 引き金が引かれ、轟音の銃声が鳴り響く。
 アフリカゾウすら一撃でほふる威力を持つ弾丸は、
「っ!?」
 結城の左胸に命中し、心臓を貫き、あっさりと背中へ突き抜けた。
 そして、
「うっ!」
 同じ弾丸はピオニーアの左胸にも食い込んだ。
 結城とピオニーアが鮮血を散らしながら同時に倒れる。
 その一瞬の出来事が、媛寿の目にはただただ信じ難い場面として映った。
 だが、これまでも人の死を目の当たりにしてきた媛寿には、意識よりも先に、その光景の意味が理解できてしまった。
「くっ! 凡俗ぼんぞくが余計なことを! しかしこれでピオニーア姫の御体ごたいは我が手中に―――」
「うあああああああ!」
 コチニールが動くよりも前に、媛寿の絶叫がその場を震わせた。
 媛寿が持つ座敷童子ざしきわらしとしての力が、結城とピオニーアが撃たれる場面を見たことで、いま限界以上に発揮されようとしていた。反転させた形で。
「っ!」
 コチニールをにらむ媛寿。
 その幼さに似つかわしくない殺気に、コチニールも思わずたじろいだ。
「しょ、小妖怪めが! 貴様もほうむって―――」
 銃を向けようとしたコチニールの正面から、目を開けられない程の突風が吹いた。
 突風にあおられ、コチニールは動きを止めるが、そのせいで後ろへの警戒心が薄くなってしまった。
 強烈な突風が送電線を揺らし、古くなっていた一本の電線の結合を破損させた。
 外れた電線は風の影響がなくなると、勢いよくを描いて垂れ下がってきた。
 まだ電気が通っていた電線の先端は、コチニールの後方から接近し、背中に接触した。
「ごばぎゃががあああ!」
 送られていた電気によってコチニールは感電し、閃光を発しながら絶叫する。
「ぐおおあああ!」
 さらには電熱で起きた火が燃え広がり、コチニールは火だるまになりながらもだえ苦しんだ。
 何とか火を消そうと川まで歩を進める。
 その際、短剣を一本落とし、川べりを踏み外したことでコチニールは落水し、姿を消した。
「ふう……ふう……」
 一部始終を見届けてさえも、媛寿はコチニールが消えた先を睨みつけていた。
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