小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

三年前にて その25

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「――――――かはっ!」
 吐血による嘔吐感から、ピオニーアは意識を取り戻した。
 左胸に受けた衝撃で気を失ってから、どれくらい時間がったのか確認しようとするも、
「ぴおにーあ?」
 上体を起こしたピオニーアが最初に見たのは、倒れている結城ゆうきの前で途方に暮れる媛寿えんじゅの姿だった。
「ぴおにーあ……ゆうきが……ゆうきが……」
 媛寿の顔はピオニーアが見たこともない程に絶望をたたえていた。
 それだけでピオニーアは状況を察した。
 結城は指先一本動かないどころか、呼吸すらしていない。
 ひろがりきった血溜まりの中で、結城は完全に息絶えていた。
「ゆうき……ああ……あああ……」
 動かない結城の前で、媛寿は言葉にならない声で泣いていた。
「媛寿ちゃん――――――ぐぶっ!」
 媛寿に声をかける間もなく、ピオニーアは再び大量に吐血した。
「ぴおにーあ!?」
(心臓が損傷している……左肺も……この吐血量……これでは私も……)
 自身の持つ医療知識から見ても、ピオニーアは負った傷の深さを悟った。
「ぴおにーあ! あああ……」
 息絶えた結城と血まみれのピオニーアを交互に見て、媛寿はいよいよ混乱の極みにあった。
 いかに座敷童子ざしきわらしであっても、瀕死の命を救うすべは持ち合わせていない。
(媛寿ちゃん……!)
 涙で視界がかすむ中、ピオニーアは目の端である物をとらえた。
 コチニールが落としていった短剣だった。
 それを見た瞬間、ピオニーアはこの場の全ての状況を頭の中でつなげた。
 短剣。
 泣き崩れる媛寿。
 倒れ伏す結城。
 そして、
「……」
 手のひらを濡らす、自身の血。
「うっ……ぐぅ!」
 一つの答えに行き着いたピオニーアは、残った力を振り絞って地をった。
 まずは短剣まで辿たどり着き、つかを握る。
 そこから結城と媛寿の元まで最短距離で這っていく。
「がっ! はあ……はあ……」
 途中、吐血と胸からの出血がひどくなるが、構わず二人のところまで急ぐピオニーア。
(もう少しだけ……もう少しだけって……私の心臓……)
 次第に重く、冷たくなっていく自身の体を引きずり、ピオニーアはようやく結城の前まで行き着いた。
「ぴおにーあ?」
 傷を負ったピオニーアが近くに来ていたと知った媛寿は、涙に濡れた目を向けた。
 媛寿と目が合ったピオニーアは、いつもの柔和にゅうわな笑みを浮かべた。
「媛寿ちゃん……大丈夫……結城さんは……私が助けますから……」
 ピオニーアは膝立ちになり、持っていた短剣を大きくかかげた。
「偉大なる始祖様、力をお貸しください」
 そう言うと、ピオニーアは短剣を自身の胸に突き刺した。
「ぴおにーあ!? なにして―――」
「う……くぅ……うああ!」
 深々と突き刺さった短剣を引き抜くと、ピオニーアの胸の傷から大量の出血がほとばしった。
「っ!」
 血で赤く染まった短剣を、ピオニーアは結城の胸に刺した。
「!?」
 媛寿が驚いたのも束の間、短剣が刺さった箇所を中心に、結城の体が燃え上がった。
 正確には炎に酷似した赤い光が、結城の胸に突き立てられた短剣から発せられていた。
 光は少しずつ弱まっていき、ピオニーアが短剣を引き抜くと、光の消失と同時に傷口もふさがった。
「……ゆうき?」
 不可思議な光景を目の当たりにした媛寿が、結城に顔を近づけてみると、
「すぅ……すぅ……」
「ゆうき!?」
 たった今まで生命活動を失われていた結城から、小さな呼吸音が聞こえていた。
「あ……ああ……」
 結城の死がくつがえされた事実に、媛寿は結城にすがりつくようにして泣いた。
「ありがとう……ありがとう……」
 媛寿が思わず感謝の言葉を口にする中、ピオニーアはコンクリートの地面に力なく倒れた。
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