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竜の恩讐編
三年前にて その26
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「ぴおにーあ!?」
媛寿は横たわったピオニーアに近付くも、その状態に絶句した。
銃弾による胸の銃創に加え、そこに短剣による刺傷が重なり、さらには大量の出血。
長くこの世で過ごすうちに、人の死を何度も見てきた媛寿には判ってしまった。
ピオニーアの傷は、もう手遅れだと。
「媛寿……ちゃん……」
「ぴおにーあ……どうして……」
「あの娘のため……だったのかもしれません……」
ピオニーアのその言葉に、媛寿は思い当たる節があった。
夏祭りの夜、ピオニーアが媛寿にだけ打ち明けた秘密。
『媛寿ちゃん、私は九つの時に子どもを産んでいるんです。いまは十一歳くらいになってるでしょうか。極悪島で一緒にお風呂に入った時、私のお腹の傷のことを聞いてましたね? あれは、そういうことなんです』
ピオニーアが実の娘のことを言っているのは解ったが、それでも媛寿には、ピオニーアがなぜこんな行動を取ったのか理解できなかった。
「どうして!? ぴおにーあは、そのこのために、いままで……」
「私はもう……助からないと思いました……でも、何もしなければ……結城さんも死んでしまう……媛寿ちゃんも悲しむ……なら、私ができることを……結城さんの命だけでも助けたかった……」
「でも、それじゃぴおにーあが……」
ピオニーアの命が失われる事実に悲しむ媛寿に、ピオニーアは微笑みかけた。
「誰かの命が危ない時に……何もできなかったより……自分にできることをして……誰かの命を助けられた……そんな風に誇れるように……あの娘に誇れるような……あの娘が誇れるような……そんな母親になりたかった……」
そのあとピオニーアは、『でも母娘の目的のためにあの娘を独りにしてしまった私ではおこがましいかもしれませんけど』、と自嘲していた。
「ゲホッ! ゲホッ!」
「ぴおにーあ!」
ピオニーアの吐血も、傷からの出血も酷くなり、いよいよ命の限界が差し迫っていた。
「媛寿……ちゃん……二つだけ……約束……して……」
「やくそく?」
「私が結城さんを助けたこと……このことは……結城さんには……言わないで……結城さん、優しいから……きっと責任を感じてしまう……から……」
「……うん、わかった! ぜったいにいわない!」
「もう……一つは……」
「ぴおにーあ!? なに!?」
「あの娘に……リズベルに……会ったら……優しく……して……あげて…………」
「りずべる!? ぴおにーあのこどものなまえ!? うん! もしあえたら……ぴおにーあ?」
媛寿が聞き返す頃には、ピオニーアはすでに事切れていた。
媛寿はピオニーアの目を静かに閉じさせ、少しだけ目を閉じると、ピオニーアの冥福を祈った。
「どこへ行った!」
「兄貴! こっちだ!」
すぐ近くに何者かが接近する気配を感じ、媛寿はハッと目を開けた。
「くっ!」
急いで振り返り、倒れていた結城を担いでゴムボートに乗せ、エンジンを起動させた。
ピオニーアまでは間に合わないと判断した媛寿は、ピオニーアの亡き骸を悔しげに見つめながら、
「ぴおにーあ、ごめん」
ゴムボートを発進させ、川から海へ抜けるルートを行った。
「対象の死亡を確認しました」
川の対岸から一部始終を見ていた人物は、耳に付けた無線機で淡々と状況を報告した。
『……分かった。遺体を回収して、すぐにその場を離れろ。迎えを寄越す』
「了解しました」
通信を終えると、女学生風の少女は右眼の眼帯の位置を直し、対岸へと素早く向かった。
媛寿は横たわったピオニーアに近付くも、その状態に絶句した。
銃弾による胸の銃創に加え、そこに短剣による刺傷が重なり、さらには大量の出血。
長くこの世で過ごすうちに、人の死を何度も見てきた媛寿には判ってしまった。
ピオニーアの傷は、もう手遅れだと。
「媛寿……ちゃん……」
「ぴおにーあ……どうして……」
「あの娘のため……だったのかもしれません……」
ピオニーアのその言葉に、媛寿は思い当たる節があった。
夏祭りの夜、ピオニーアが媛寿にだけ打ち明けた秘密。
『媛寿ちゃん、私は九つの時に子どもを産んでいるんです。いまは十一歳くらいになってるでしょうか。極悪島で一緒にお風呂に入った時、私のお腹の傷のことを聞いてましたね? あれは、そういうことなんです』
ピオニーアが実の娘のことを言っているのは解ったが、それでも媛寿には、ピオニーアがなぜこんな行動を取ったのか理解できなかった。
「どうして!? ぴおにーあは、そのこのために、いままで……」
「私はもう……助からないと思いました……でも、何もしなければ……結城さんも死んでしまう……媛寿ちゃんも悲しむ……なら、私ができることを……結城さんの命だけでも助けたかった……」
「でも、それじゃぴおにーあが……」
ピオニーアの命が失われる事実に悲しむ媛寿に、ピオニーアは微笑みかけた。
「誰かの命が危ない時に……何もできなかったより……自分にできることをして……誰かの命を助けられた……そんな風に誇れるように……あの娘に誇れるような……あの娘が誇れるような……そんな母親になりたかった……」
そのあとピオニーアは、『でも母娘の目的のためにあの娘を独りにしてしまった私ではおこがましいかもしれませんけど』、と自嘲していた。
「ゲホッ! ゲホッ!」
「ぴおにーあ!」
ピオニーアの吐血も、傷からの出血も酷くなり、いよいよ命の限界が差し迫っていた。
「媛寿……ちゃん……二つだけ……約束……して……」
「やくそく?」
「私が結城さんを助けたこと……このことは……結城さんには……言わないで……結城さん、優しいから……きっと責任を感じてしまう……から……」
「……うん、わかった! ぜったいにいわない!」
「もう……一つは……」
「ぴおにーあ!? なに!?」
「あの娘に……リズベルに……会ったら……優しく……して……あげて…………」
「りずべる!? ぴおにーあのこどものなまえ!? うん! もしあえたら……ぴおにーあ?」
媛寿が聞き返す頃には、ピオニーアはすでに事切れていた。
媛寿はピオニーアの目を静かに閉じさせ、少しだけ目を閉じると、ピオニーアの冥福を祈った。
「どこへ行った!」
「兄貴! こっちだ!」
すぐ近くに何者かが接近する気配を感じ、媛寿はハッと目を開けた。
「くっ!」
急いで振り返り、倒れていた結城を担いでゴムボートに乗せ、エンジンを起動させた。
ピオニーアまでは間に合わないと判断した媛寿は、ピオニーアの亡き骸を悔しげに見つめながら、
「ぴおにーあ、ごめん」
ゴムボートを発進させ、川から海へ抜けるルートを行った。
「対象の死亡を確認しました」
川の対岸から一部始終を見ていた人物は、耳に付けた無線機で淡々と状況を報告した。
『……分かった。遺体を回収して、すぐにその場を離れろ。迎えを寄越す』
「了解しました」
通信を終えると、女学生風の少女は右眼の眼帯の位置を直し、対岸へと素早く向かった。
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