小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

竜の忌み姫 その6

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媛寿えんじゅはそのあと、結城ゆうきをアパートに連れ帰った。結城が目を覚ましても、ピオニーアが死んじゃったことしか言えなかった。約束……したから」
 結城は改めて、媛寿がどれだけ苦しい思いをしてきたかをめた。
 以前、キュウや千夏ちなつから聞いた話では、妖怪をはじめとした人外たちの世界は、まだ人間社会のように明確な法律が定められていない場合が多いそうだ。
 よって個々の間での『約束』が、非常に重い意味合いを持ってくるのだと。
 媛寿はピオニーアと交わした約束を守ろうとし、結城に何も話すことはできず、リズベルの誤った復讐さえも止めることはできなかった。
 それは媛寿にとって、断腸の思いを超える程の選択だったはずだ。
(媛寿、ごめんね……)
 直接言えば、媛寿のこれまでの思いを無下にしてしまうような気がしたので、結城は心の中でびた。
「リズベル」
 媛寿に名前を呼ばれ、リズベルはわずかに肩を震わせた。
「ピオニーアが最後に約束したのは、リズベルのことだった。それ、リズベルのことが一番大切だったと思うし、リズベルのこと心配してたからなんだ」
 媛寿は改めて、リズベルに真剣な目を向けた。
「ピオニーアにとっての一番はリズベルだ。ピオニーアはこうなったこと、絶対おこったりしてない。だから結城をもう一回生き返らせてくれたんだ」
 結城は無意識に胸に手を当てていた。
 媛寿の言う通り、死の境界で会ったピオニーアの記憶・・は、媛寿の行動にも、リズベルの復讐にもいかってはいなかった。
 唯一いかりをあらわにしていたのは、結城の判断のみだ。
「でも、媛寿は約束の守り方を間違えた。リズベルが結城のこと恨んでるなら、それは仕方ないって思った。だから、リズベルが結城に仕返ししようとしてるなら……させてあげようと思った。ピオニーアからリズベルのこと……頼まれてたから」
 そう語る媛寿の表情と言葉は、とても固く張り詰めていた。
 取り得る行動が制限されていたとはいえ、媛寿は一時、結城の命をはかりにかけてしまった。
 本来それは媛寿にとって、魂と引き換えにしてもやりたくないことだったのだから。
「それでリズベルが嫌な思いをしたなら、媛寿も謝らなきゃいけない」
 媛寿はひたいがテーブルにつくほどに頭を下げた。
「ごめん、リズベル」
「僕も、ピオニーアさんの気持ちを知らずに、君の復讐がげられるのが正しいって思ってた。でも、それが君にとって一番つらい思いをさせた。本当にごめん」
 結城もまた媛寿と同様に、精一杯の謝罪として頭を下げた。
 そんな二人を見て、リズベルは無意識に手を伸ばそうとしていた。
 媛寿も結城も、未だピオニーアのことを深く想い、そして同じくらいリズベルのことも想っている。
 その二人のり方があまりにも輝かしく、温かいと感じたリズベル。
 そこへと近付きたい。二人に触れたい。そんな思いから伸ばされた手だった。
「はい、そこまで」
 リズベルが伸ばそうとした手は、隣にいた千春ちはるに止められた。
「リズベルちゃん、忘れてないよね? あなたはもう何一つ、自由にできることなんて無いんだから。そう――――――この手を伸ばすことさえ」
 掴んだリズベルの手を、千春は骨のきしみが聞こえる程に力を込めた。
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