小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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狭丘市探索

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 狭丘市は谷崎町からから電車で二駅先にある。それほど大きな街ではなかったが、古墳時代の遺跡が発見されたり、大きな神社が建立されていたりで、なかなかの賑わいを見せていた。最近では高速道路のインターチェンジも繋がり、人の流入が著しく活発化している。
 駅を降りてすぐ目に留まった喫茶店の中で、結城たちは朝食を摂っていた。
 媛寿とアテナはともかくとして(二人ともそれなりに目立つ容姿ではあるが)、マスクマンとシロガネの格好は目立ちすぎるので、マスクマンはフード付きのジャンパーを、シロガネはエプロンドレスに合わせた白のケープを羽織っていた。
「さて、昨日の依頼の件だけど・・・」
 モーニングセットのトーストを齧りながら、結城は話を切り出した。
「事が起こったのはここ狭丘市なので、まずは探索から始めようと思う」
「妥当ですね。戦いも敵を調べるところから始まります」
 隣で品良くゆで卵を食べていたアテナが同意する。空いている左手には喫茶店に置いてあった『現代オリンポス』が開かれているが。
「XΔTⅢ5? QQ‡8V↓(訳:だが遺体なんて失せ物をどう見つける? 隠すのも探すのも骨が折れる代物だ)」
「ある意味、動物を探すより難しい」
 マスクマンとシロガネも話に参加してくるが、依頼の難度を危惧しているのか、少し顔をしかめている・・・おそらく。二人ともマスクと鉄面皮なので表情は読み取れないのだが。
「やり方は二つほど考えてある。一つは媛寿と一緒に街をとにかく歩き回る」
「うん?」
 それまでフルーツパフェを夢中でパクついていた媛寿が、初めて結城に顔を向けた。頬に生クリームが付いているので何も聞いていなかったのが窺える。
「媛寿と歩いて回って、運が良ければ失せ物に当たる、ですか。まぁ何も指針が無いよりは有効な手段ですね」
「でもえんじゅ、死んだひとなんて探したことないよぉ。しかもカラダのほうなんて」
 アテナは指を顎に当て納得しているが、媛寿は自分に変なお鉢が回ってきたのが癪なのか、スプーンを小さく回して抗議してくる。
「やるだけやってみるのさ。依頼してきた人だって困ってるんだから、早く何とかしてあげようよ」
 「う~、じゃあプリン・アラモード。だったら、えんじゅがんばる」
 納得してくれた媛寿の頭を、結城は優しく撫でた。奔放なところはあるが、なんだかんだで人に優しいからこそ、彼は縁寿についつい甘くなってしまうのだった。
「A☆1TK#8(訳:それでもう一つの考えは何だ?)」
 トーストの欠片を口に入れながら、マスクマンは結城の策について掘り下げてきた。余談だが、マスクマンのマスクは縦方向に大きいため、口部分が胸元に来てしまっているので、見方によっては胸元で租借しているように見える。ちょっと異様である。
「そっちは連絡待ち。でもむしろ媛寿の方が当てになると思うんだけどね」
「あとは、時間との勝負・・・」
 作戦が定まったところで、コーヒーを啜っていたシロガネが鋭い視線で宙を見つめた。彼女も俄然やる気を漲らせている。
「じゃあ腹ごしらえも済んだところで、いよいよ―」
「待ちなさい、ユウキ」
 勢い良く立ち上がろうとした結城を、アテナが静止させた。その声にはいつになく真剣味が漂っている。
「善は急げとも言いますが、その前に私は重大なことに気付きました」
 鬼気迫るオーラを発しているアテナは、震える手でとある紙面を結城に突きつけた。
「この喫茶店には特製チーズケーキなるものがあるということを!」
 喫茶店のメニューである。たしかにデザートの項目に『当店特製チーズケーキ』と書いてある。
「これを食べずして今日という日は始まらないと我が全知全能の父も言っているような気がします。これを注文しようと思います。よろしいですか? よろしいですね!」
 ほとんど脅しのように迫る金髪の美女を前に、結城はこう答えるしかなかった。
「・・・・・・はい」
「スミマセン! 特製チーズケーキを!」
(このお方、チーズケーキになるとホントに目の色が変わる)
 かくして探索開始はアテナがチーズケーキを食べた後、ということで話はまとまった。
 アテナが特製チーズケーキに舌鼓を打った後、結城たちは狭丘市内を西から東に横断する形で歩いていた。依頼者の姉の遺体がまだ市内にあるとは限らなかったが、持ち去られたとしても痕跡はあると踏んだからだ。
 結城は縁寿を肩車し、人通りの多い商店街を真っ直ぐに歩く。媛寿の頭には某有名妖怪マンガの主人公よろしく、一房の毛がみょんみょんと跳ねていた。もっとも、こちらは曲がった釣竿のように垂れ下がっているのだが。
「どお、媛寿? 何か分かった?」
「むむむ~、まだ~」
 結城の頭の上で、難しい顔で唸っている媛寿。元々『何かを探す』力に長けているわけではないので、今回の件はある種の無茶振りでもあった。
「いつもは何も言わなくても変な物を見つけてきますのに」
「あれは落っこちてるのをひろってるだけだもん! 探してるわけじゃないもん!」
 アテナの一言に猛抗議する媛寿だったが、結城も密かに、
(まぁ、確かにね)
と、思っていた。
 媛寿と一緒に出かけると、高確率で落し物を拾うことが多かった。ダンボール一杯のジャガイモであったり、食玩1ケース分だったり、最新の家庭用ゲーム機を拾うことさえあった。それらを交番に届けて、時に謝礼として一割をもらえたり、時に落とし主が現れずにそのまま受領できたりしていたので、それが結城たちの収入の一部になっていた。
(媛寿は狙って何かを引き起こせるわけじゃないから、遺体を捜して当てるっていうのは無茶だったかな)
 媛寿との付き合いが一番長い結城だからこそ、彼女の力を当てにしているし、その限界もよく理解していた。
 出会ったこと自体、まさに運命の悪戯だったように思う。通販サイトの商品を漁っていて、偶然目に留まった『ワケあり駄菓子の詰め合わせダンボール1箱分』を注文し、自宅に届いて開封してみたら着物を着た少女がスヤスヤと寝息を立てていたのだから。おまけに駄菓子はほとんど食べられてしまっていた。
 もと居た場所へ帰る方法も無く、結城以外の人間に彼女は姿を見せようとはしなかったので、自然と媛寿は結城の所に居座ることとなった。とんでもない災難に見舞われることも少なくなかったが、結城は縁寿を嫌いにはならなかったし、媛寿も結城のことは大いに気に入っていた。だからこそ、強い信頼を以って様々な依頼に対して来れたのだ。
「はっ! ゆうき、あっち!」
 不意に媛寿はある方向を指差した。商店街の一角にある店舗に人だかりができている。
(もしかして何かあったのか?)
 あるいは異常事態に野次馬が群がっているのかもしれない。ならば、今回の依頼の手掛かりか。媛寿の力と直感を信じ、結城は人ごみを掻き分けて進む。
 果たして、その先にあったのは、
「さぁ、いらっしゃい、いらっしゃい! 本日はこの『ぱたぱた屋』のたい焼きが全品半額! 全品半額ですよ! お一人様10個まで! さぁ、いらっしゃい!」
 たい焼きと今川焼きの専門店『ぱたぱた屋』の半額セールだった。
「・・・・・・なにこれ」
「ゆうき、えんじゅ、カスタードがいい」
 一瞬、大切な何かが揺らぎかけてしまうのを感じつつ、結城はカスタードクリーム入りのたい焼きを5個購入した。

 商店街を抜けた先、住宅地の手前に設けられた児童公園のベンチに座り、5人はたい焼きを齧っていた。媛寿は上機嫌でたい焼きのカスタードをチュウチュウと吸っているが、結城は難しい顔でモソモソとたい焼きの皮を咀嚼している。
 まさか本来の探し物とは180度ちがったものに当たってしまったのだから、当然といえば当然ではあるが。
「機嫌を直しなさい、ユウキ。物事は全てうまくいくものではありませんよ」
 結城の横に座り、たい焼きを優雅に食べるアテナが優しく諭してくる。
「怒ってるわけじゃありませんよ、アテナ様。ただ、ちょっとショックだっただけで・・・」
「エンジュの力は本物ですが、精神は子どもと変わりありません。こういうこともあると割り切るのも重要ですよ」
 アテナはあくまで冷静だった。チーズケーキさえ絡まなければ、やはり頼りになる神様だ。結城は依頼を完遂するため、たい焼きを頬張りつつ次の策を練った。
「マスクマンもけっこう探し物が得意だったよね? 何とかならない?」
「J☆8→MⅣ4DD(訳:相手が動物なら探せるが、死んだ後の体を探すのはオレの領分じゃない)」
 「そっか~。シロガネは?」
「山菜探しならデキる」
「ここ平地だけどね。う~ん」
 結城は眉根を寄せて考える。早く見つけてあげたいが、いま自分たちでできる手段はすでに八方塞がりだ。
(じゃあ考えてたもう一つの方法を・・・・・・あれ?)
 思案に耽っていた結城の目に、ある光景が飛び込んできた。公園で遊ぶ子ども達や通行人に混じって、妙な人物が歩いていた。
 地味な色合いの帽子とトレンチコート。パッと見で言えば、某世界的怪盗の三代目を追う警察機構の刑事にも見える。そんないかにもな人物は、少し猫背気味になりながら、何かを探す素振りで公園の端を歩いていた。
 そして、その人物を結城はよく知っていた。
「九木刑事!」
 思わず立ち上がって名前を呼ぶ結城。それに気付いたのか、九木と呼ばれた人物も、彼らが座るベンチに駆けてきた。
「よぉ、小林くん達じゃないか。どうしたの?」
「九木刑事こそどうして狭丘市に? ここって管轄区域でしたっけ?」
「あ~、ギリギリ管轄かな。ギリギリで。ていうか頼まれたんだよ。いま警察犬が出払ってっからって、オレに行ってこいって」
 中年一歩手前のトレンチコートの男、九木洸一は、これでもれっきとした警察官だった。どこの課に属するのかは秘密ということで教えてもらっていないが、周辺の警察の間では、ある種、優秀な刑事ということで名が通っていた。
 彼は少しだけ霊能力の素質があり、それをダウジングに応用することで捜査に貢献する奇特な刑事だったからだ。なので結城たちの依頼にかち合うことも多く、今ではすっかり顔なじみとなっていた。もちろん、媛寿やアテナのことも普通に認識している。
「皆さん方もお元気そうで」
 九木は結城以外の四人にも、帽子を取って会釈した。
「で、九木刑事は何してたんですか? 昼間からその格好で公園を怪しくウロついて・・・」
「うるさいな~、仮にも警察官を捕まえて怪しいとか。もちろん捜査だよ。遺失物の捜索だけどさ」
 やや不満そうな顔をした九木は右手を結城に差し出して見せた。五円玉が吊るされた紐の先端が、親指と人差し指でつままれている。簡易的なダウジングの道具だった。
「僕らも探し物して欲しいって頼まれたんですよ。ちょっとワケありなもの」
「そっか~。で、見つかったの?」
「媛寿にやってもらったんですけど、たい焼きの半額セールしか見つからなくって・・・」
「ははは。まぁ、媛寿ちゃんらしいじゃんか」
「む~、えんじゅ、ちゃんと探してるもん!」
 九木の言葉に少しカチンと来たのか、媛寿はたい焼きを持った右手をブンブン振って抗議した。
「あんまり怒らせるとまた変なことになりますよ」
「おっと、そうだった。前に媛寿ちゃんを怒らせた時はえげつない目に遭ったっけ。くわばらくわばら」
 以前、不用意に媛寿を怒らせた時、なぜか大型のブラウン管テレビが落ちてきて、しかも坂道を転がって追撃してきたので、逃げ切るのに大いに苦労したことを、九木は思い出した。
 このあたり、結城は割りと普段から気を遣って生活をしている。
「それで媛寿でできなさそうなら九木刑事に手伝ってもらおうかと思って。メール見てくれました?」
「見たけどさぁ、今はオレも捜査中だし、警察官だからって事件でもないのにホイホイ協力するのもなぁ・・・」
「そこをお願いします。時間が無いんです。家族の遺体が消えたから見つけて欲しいって言われて・・・」
「―今なんてった?」
 結城の言葉を途中で遮った九木の目が変わった。驚いたようでいて、真剣味もはらんだ強張った表情で見据えてくる。
「小林くん、今なんてった?」
「えっと、家族の遺体が消えたから見つけて欲しいって―」
「オレも探してるんだよ。遺体」
 九木の口から出た言葉に、今度は結城が驚愕の表情を見せた。
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