小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

代価 その4

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 天逐山てんぢくざんでの戦いが終わり、建御雷神タケミカヅチがアテナと須佐之男スサノオを伴って戻ってきた時のこと。
「ふ~ん、そんなことが」
 出雲大社の奥社おくやしろにある天照アマテラス専用の個室。
 そこには建御雷神タケミカヅチが招かれ、革張りのソファに深々と座り、事の顛末てんまつを話し終えたところだった。
 天照アマテラスは執務机に座り、建御雷神タケミカヅチの話を聞いて今後のことを思案した。
「さて、どうする? 天照アマテラス。これは其方そなたにとって、千載一遇の好機というものではないか?」
 建御雷神タケミカヅチはテーブルに積まれた桃を一つ取ると、てのひらから生やしたやいばで器用に皮をむき始めた。
「う~ん、結城ゆうきちゃんが無事だったのは確かに好ましい状況なんだけどね……」
人間ヒトが死のふちから蘇るっていうのは神としてちょっと意見はあるけど、今はそこには目をつむろっか)
 天照アマテラスは執務机に頬杖ほおづえをついて壁の方を見た。
「ただ結城ちゃん一人にこれ以上肩入れしちゃうっていうのもどうかと思うんだよね。神として」
 須佐之男スサノオ建御雷神タケミカヅチという最上位神をつかわせただけでもそれなりに大事おおごとであっただけに、天照アマテラスにとって次の一手が難しくなっていた。
 ちなみに須佐之男スサノオ媛寿えんじゅの危機に颯爽さっそうと現れて活躍できたことがよほど嬉しかったのか、奇稲田クシナダ神大市カムオオイチの二人を連れて温泉に入っている。まだ興奮が治まっていないらしい。
「あまりやり過ぎるとホントに贔屓ひいきだって言われちゃうしな~」
「では好機を棒に振るか?」
 皮をむき終った桃を、建御雷神タケミカヅチは端からかじって食らう。天照アマテラスの思索にはあまり関心がなさそうに。
「それも惜しいな~。ここでアテナちゃんに借りを作っておきたいし」
 アテナがいるであろう方向の壁を、天照アマテラスは悩ましげに見つめた。
 アテナは今、天照アマテラスからあてがわれた部屋で休息している。
 天逐山での戦いは、アテナにとって体力以上に精神に負荷がかかっていたためだ。
「ん~、何かいい案ない? 建御雷神兄タケミカヅチあんちゃん」
われが口をさしはさむ事ではないな。これは其方そなた采配さいはい次第よ、天照アマテラス
「む~」
 桃の種をんで器用にチェスの歩兵ポーンの形にした建御雷神タケミカヅチは、それをもっともらしくテーブルに置いた。
「……そうだな。盤上では一対一だが、他ではその限りではないやもしれんぞ?」
「他? う~ん……あっ! そういうこと!」
 言葉の意味に気付いた天照アマテラスを見て、建御雷神タケミカヅチは密かに微笑びしょうを浮かべた。
「いや~、ヤッたヤッた! 媛寿えんじゅちゃんの前でカッコイイとこ見せられたし! その足で奇稲田と神大市ふたりとハッスルしたし! 超キモチイイってこのことだよな!」
「……せめて何か羽織はおりなさい。それと温泉でノビてる奇稲田と神大市ふたりを部屋まで連れて行って寝かせなさい。他の神が驚くでしょ」
 温泉から全裸でやって来た須佐之男スサノオに対し、天照アマテラスは低く冷たい声で言った。
「わ、悪い、姉貴! すぐに―――」
「あっ、ちょっと待った」
 すぐにきびすを返そうとした須佐之男スサノオを、天照アマテラスは急に呼び止めた。
須佐之男スサノオ、たしかアレまだ持ってるって言ってたわね?」

 喫茶『砂の魔女』の入店を知らせるカウ・ベルが鳴り、千春ちはるは来店者に目を向けた。
「誰?」
「誰って言われると、そうね~……」
 来店者は向日葵ひまわりのアップリケが付けたつば広帽の端を、人差し指でわずかに持ち上げた。
「通りすがりの『行商人』、ってとこかしら?」
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