小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

代価 その9

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「じゃ、コレはもらっていくわね」
 千春ちはる八塩折ヤシオリの酒が入ったたるを肩にかつぎ、喫茶『砂の魔女』を退店しようとした。
 が、扉を開けたところで、結城ゆうき媛寿えんじゅに向けて笑みを浮かべた。
「最初はつまんない依頼だと思ってたけど、あなたたち結構オモシロかったわ。また依頼があるようなら、今度はもっと好みのやり方で殺戮しあそびたいな」
 屈託のない笑顔でそう言う千春を、結城と媛寿はにらみつけた。
 『二度と会いたくない』とでも言うように。
「んふふ♪ それじゃ」
 その怒りの視線すら軽く受け流し、千春は上機嫌で店を去っていった。
店主ママさん、ちょっと」
 千春が去ったことを確認すると、『行商人』はカウンターにいたカメーリアに歩み寄った。
「彼らと内密な話がしたいから、少~しだけ席を外してもらえるかしら?」
 カメーリアの手をそっと取った『行商人』は、その手のひらに何かしらの植物の種を持たせた。
「特別な『ハハカ』の種。市場では絶対に手に入らないやつ」
 『行商人』から小声でそう聞いたカメーリアは、一瞬だけ体を震わせると、うやうやしく一礼して店の奥へ下がっていった。
「……ありがとうございます、天照アマテラス様」
 カメーリアの姿が見えなくなったことを確かめた結城ゆうきは、『行商人』の真の名前を口にした。
「ふふ♪ 『偶然現れた行商人』をうまく演じられたかな?」
 ベネチアン仮面マスクを外し、天照アマテラスは上機嫌でカウンター席に座った。
「アマテラス様」
 席から立ち上がったアテナが、天照アマテラスの前で深々と頭を下げて礼を示した。
「ユウキとエンジュに助力していただいたこと、私からも御礼を申し上げます」
「いいっていいって。頭を上げてよアテナちゃん。最強の戦女神いくさめがみにそんなにされたら、わたしだって恐縮しちゃうし」
「ですが、『利益』とは如何いかなるものを指すのでしょうか?」
 その指摘に一瞬だけ天照アマテラスの動きが止まったことを、アテナは見逃すことはなかった。
「やだなぁ~、そんな深い意味は無いよぉ~。行商人が『見返りなしで人助けしに来ました』って言ったらウソくさいでしょぉ~?」
「……他意はない、と?」
太陽神わたしがウソつくと思ってるの? アテナちゃ~ん?」
 余裕たっぷりの笑みを浮かべながら見返してくる天照アマテラスに、アテナは一層の疑念をつのらせたが、
「分かりました。今は深く追求することはしません……今は」
「そうそう。今は事態が丸くおさまったことを喜ぼう。ところで木苺きいちごちゃん」
 アテナとの話に決着がついた天照アマテラスは、今度はリズベルこと木苺に目を向けた。
「結城ちゃんと媛寿ちゃんに言いたいことがあるなら、今ここで遠慮なく言っておいた方がいいよ。わたしが許可してあげるから」
 少女の容姿に似つかわしくない真剣な表情で、天照アマテラスは木苺にそうすすめた。
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