小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

ピオニーアの想い その1

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 乱れた胸元を正し、立ち上がった木苺リズベルは、結城ゆうき媛寿えんじゅに向き直った。
 が、相変わらず目を伏せたまま、何も言葉を発することはなかった。
「……『今さら何も言う資格はない』、『どんな罵声を浴びせられても仕方ない』。そう思ってるんでしょ?」
「っ!?」
 先に口を開いたのは結城だった。
 そして、その指摘に木苺リズベルは肩を震わせた。
わかるよ。もし僕が同じ立場だったら、そう思うから」
「……」
木苺リズベルさん」
「……」
「ピオニーアさんは……君のことを一番大事に想っていたよ」
 結城は死の闇の中で、ピオニーアの『記憶』と会話した時のことを思い返した。

「……媛寿ちゃんとの『約束』について話す前に、結城さんには私がなぜ日本に来たのか、話しておかないといけないですね。媛寿ちゃんにはもう話してるんですけど」
「ピオニーアさんが日本に来たのって、留学のためなんじゃ……」
 首をかしげる結城に、ピオニーアは少し困ったように微笑ほほえんだ。
「それも本当なんですけど、実際の目的はその先にありました」
「その先?」
「私は日本での生活基盤を整えたら、国籍を取得して、そのまま日本に骨を埋めるつもりでした。もう故郷に戻らなくていいように」
「!? 戻らなくていいようにって、どういう意味ですか?」
 ピオニーアは右手を胸にえ、
「全ては、あの娘リズベルのため」
 結城が見たこともない真剣な表情で答えた。
「リズベルさんの、ため?」
 ピオニーアは胸に添えていた右手を、今度は下腹部へそっと移動させた。
「あのを身ごもった時、周りからは堕ろすように言われました。その時には、私もどうすればいいのか分からず、悩み抜きました。でも、ふと思ったんです。『この子のことを私が見放してしまったら、この子には見方をしてくれる人が誰もいなくなってしまうのではないか?』、と」
「……」
 ピオニーアの少し悲しげな表情に、結城は何かを言おうとしても言葉が出てこなかった。
「そして私は、この子とともに生きていく道筋を考えました。外国へ留学し、生活基盤を取得し、いずれこの子を呼び寄せ、故郷とのつながりを絶って生きていく。私にしてもこの子にしても、故郷の誰もが手放したい重荷でしかない。これなら全てを丸くおさめられると思って……」
「……」
「一つだけ計算外だったのは……結城あなたと媛寿ちゃんにったこと、かな?」
「!?」
「結城さん、私、これでもわりと人間嫌いだったんですよ?」
 ピオニーアは結城が知るいつもの柔和にゅうわな笑顔でそう告白した。
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