荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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竜殺しの忘れ形見

四神角 その8

「こ、これは、どうすれば……ん?」
 強豪たちが次々と四神角ししんかくの力に押されていく中、残った勇男いさおは一人、恐慌きょうこうに陥りそうになった。
 だが、右往左往していると、あるものが目に留まった。
「これって……」
 四神角が放った飛礫つぶての一部は、勇男がいた場所の近くまで届いていた。
 勇男自身には当たらなかったが、すぐ横に立っていた木に数発が命中していた。
 しかし、弾丸のような勢いで飛来した石が衝突したにもかかわらず、木に巻きついていたつたには小さな傷しか付いていなかった。
「ん~?」
 勇男は地面に目を落とすが、木の根元に飛んできた石は、固い土に深々とめり込んでいた。
「もしかしたら!」
 一刻を争う中、勇男は自身の直感を信じて、腰にいた『何も斬ることができない剣』を抜いた。

(策はいくつかある! けれどあと一つ! あと一つ必要なものが足りていない!)
 勝ち筋はあるが実行できないミトラは歯噛はがみしかかった。
 だが、
「ミトラ!」
 後ろからの声にミトラは振り返った。
「これを使おう!」
 勇男いさおが引っ張ってきた物を見て、ミトラの中で足りていなかった要素が埋まった。
「蔦! 確かに使える! けれどあの四神角かいぶつをどこまで縛れるか」
「これはさっきの石が当たっても千切れなかった! 頑丈さは証明済みだ!」
「待って! それをどうやって切ってきたの!?」
「コレで蔦の一部を砕いてきた!」
 勇男は腰に佩いた剣を軽く叩いた。
「切れ味は無いが、コレも相当に頑丈だ! 叩きまくって強引に千切ってきた!」
 ミトラが目をらすと、勇男の両の手のひらには血がにじんでいた。
「……イサオ! この蔦の一端をエーラのところまで届けて! もう一方はわたしが準備するから!」
「分かった!」
 作戦の大まかな部分を確認し合い、勇男とミトラは互い違いに駆け出した。

「よし! 切れてない!」
 四神角の脚を見事に転ばせた蔦を見て、勇男は拳を握り締めた。
「エーラ! このまま蔦で四神角こいつの脚をグルグル巻きに―――ごわあああ!」
 勇男がエーラに振り返ったすきに、四神角はひづめで勇男を蹴り飛ばした。
「ごばばばば!」
 またも顔面で土を削りながら進んでいく勇男。
「イサオー!」
 エーラが勇男を気にかけている間に、四神角はすでに立ち上がりかけていた。
「くっ!」
 今度は至近距離で角が振るわれようとした瞬間、
「ガフッ!?」
 四神角の顔面に黄金の斧が叩きつけられた。
「オオォ……」
 刃こそ立っていなかったが、常人では到底持ち上げることができない巨大斧が命中しては、さすがの四神角もあたまを揺さぶられた。
「よっくもイサオを……叩きつぶして煮込み料理の具にしてやるぅ!」
 四神角の蹄からようやく開放されたビーが、怒りに震えながら怒号を発した。
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