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26章
172.あやしい赤い花
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翌朝、私たちは再び頂上を目指して歩き出した。
茂みがざわめいた瞬間、私は咄嗟にミニマップに目をやる。表示されたのは緑のマーク――敵ではない。
警戒している3人に敵じゃないことを伝え、茂みに声をかけた。
「そこに誰かいますか?」
「……」
「ゲムデース騎士のイナトです。もし遭難したとあれば町までお送りいたしますが――」
イナトは素性を明かし、町までの護衛を提案する。すると、ガサガサと音がした後、人がひょっこり現れた。
「構わなくて結構ですよ。私は山頂に用事があるので」
茂みから出てきたのはヒスイだった。葉っぱを頭や肩に乗せたまま、ヒスイはあくび混じりに私を見下ろしてきた。
もしかして茂みの中で寝ていたのだろうか。
ルーパルドはぼんやりとしているヒスイに問いかける。
「さっきまで寝てました?」
「だったら何ですか? この辺の魔物に私がやられるわけないでしょう」
口元を手で隠すものの、大きな欠伸をしているのは、見てわかるほど口が大きい。
体を伸ばし首や肩をボキボキと鳴らし、頭や肩、背中を叩いた後、私達を無視して歩き始める。
私はヒスイを追いかけるように足早に近づく。
「ヒスイさんもネクリアムを取りにきたんですか?」
「ええ。…………ちょっと待ってください。もしかしてあの男もウロスラの代わりを見つけたと言うことですか?」
足を止め、私を見たヒスイ。成分表を送った本人なのにそこまで驚くことだろうか。
「"も"てことは、アデルさんと同じ花をウロスラの代わりとして使おうと思ってるということですかね」
「不愉快ですが、そうなりますね」
大きなため息をわざとらしく吐き、ヒスイは頭を抱えた。
「あの男は自分で取りに来ないのですか?」
「基本引きこもってますからね。念の為、山頂に着いたら呼んでみようとは思ってますけど」
「呼ぶ? そんな魔法でもあるのですか?」
「召使――マラカイトさんがアデルさんに一瞬で私の元にワープできる道具を渡してるんです」
そんな魔法も使えてしまうのかと一瞬感心していたヒスイ。だがマラカイトの名前を聞いて、ヒスイは眉間に皺を寄せる。
「なるほど。あの方が言っていたのはあの男だったのか……」
道具の存在自体は知っていたようだ。
「ヒスイさんはマラカイトさんの道具に頼らないのですか?」
「必要ありません」
きっぱりと断ったあと、歩き始める。それを見送っていると、ヒスイが私を見た。
「何をしているのです? あなた方も山頂に行くのでしょう? あの男と話せるのなら、一緒に行く価値はあります」
さっさと行きますよ。そう言ってヒスイは大股で歩き始めたのだった。
◇
ヒスイが加わったことで、なんとなくギスギスしているパーティーになってしまった。
おそらく3人とも私がヒスイに何度も殺されていることを覚えているからだろう。
私としては、もう過去のことなので水に流して欲しいと思っているのだが……
そんな重い空気のままやっとの思いで山頂に到着。
そこには真っ赤な花の絨毯が広がっていた。
天気は悪くないはずなのに、この山のみ重く暗い。
まるで演出かのように、赤い花――ネクリアムはその暗がりで怪しく光っている。
彼岸花のような形をしている。きっとモチーフはそれだろう。
ロクは早速ネクリアムに近づいている。茎に毒があることはわかっているので、へし折らずその場で匂いを嗅いでみたり花の部分を触ってみたりしている。
「なんで発光してるんだ?」
「僕も理由は知らない。咲く場所が限定的で、一般人はそうそう来られないから、研究が進んでいないんだ」
「ま、俺達にかかれば山頂なんてすぐですけどね~」
得意げに言うルーパルドに呆れた表情を浮かべたイナトだったが、間違ってはいないからか否定の言葉を返すことはしなかった。
「ネクリアム……綺麗だけど、ちょっと不気味だね」
「まあ、そう感じるのも仕方のないことでしょう。……それで? いつあの男を呼ぶのですか?」
「あ、はい。今呼びます」
アデルにネクリアムの場所に辿り着いた旨を伝えると、「すぐに行く」とだけ返事がきた。
「来たぞ。すぐに収集する」
ヒスイには目もくれず、アデルは手袋をして、ネクリアムを摘み持参していた袋へと詰めていく。
あまりにも手際良く摘んでいくので、ヒスイはその様子をじっと眺めていた。
しかし、ハッとしたヒスイは慌てて自分も花を摘み袋へと入れ込む。
ずっと無言で摘んでいた2人だったが、アデルが袋を閉めたタイミングで、ヒスイは声をかけた。
「アデル、私を覚えていますか」
「誰だ?」
アデルは片目を細め、ヒスイをまじまじと見た。本当に記憶にないようで、アデルは首を傾げている。
覚えていないことが不服だったのだろうヒスイは、青筋を立てる。
だが、ヒスイは一度深呼吸をして、指を鳴らした。
その途端ヒスイは中型の龍へと見た目を変えた。ヒスイという名前だけあって、緑色の見た目をしている。
「これならわかるでしょう? 貴方が実験しようとした龍ですからね」
「……ああ、そんな奴いたな」
龍人が目の前で龍になったのに、あまり興味がなさそうだ。
おそらくウロスラの代わりになるネクリアムに今は興味が傾いてしまっているからだろう。
ヒスイに他の言葉を投げることなく私を見た。
「これだけあれば問題ないだろう。庭で育てて見るつもりだ。ついでにお前の方でも育ててみてくれ」
ネクリアムの花とその種子らしき黒い粒を私に持たせ、アデルはすぐさま帰っていってしまった。
「あんの研究バカ! 興味のないものに対しての雑さは相変わらずのようですね」
龍からまた人間の姿に戻り、ヒスイは苛立ちを露わにし、ネクリアムの茎をバキリと折る。その毒液が指先に垂れても、構わず握りつぶした。
「その液ついちゃって大丈夫ですか……?」
「龍人はそんなにやわではありません。ちなみに、液の毒性はフェリネムの花びら1枚で打ち消すことができます」
イナトは「へぇ」とメモをし感心するような声を出したが、すぐに首を横に振りヒスイを睨んでいたのだった。
茂みがざわめいた瞬間、私は咄嗟にミニマップに目をやる。表示されたのは緑のマーク――敵ではない。
警戒している3人に敵じゃないことを伝え、茂みに声をかけた。
「そこに誰かいますか?」
「……」
「ゲムデース騎士のイナトです。もし遭難したとあれば町までお送りいたしますが――」
イナトは素性を明かし、町までの護衛を提案する。すると、ガサガサと音がした後、人がひょっこり現れた。
「構わなくて結構ですよ。私は山頂に用事があるので」
茂みから出てきたのはヒスイだった。葉っぱを頭や肩に乗せたまま、ヒスイはあくび混じりに私を見下ろしてきた。
もしかして茂みの中で寝ていたのだろうか。
ルーパルドはぼんやりとしているヒスイに問いかける。
「さっきまで寝てました?」
「だったら何ですか? この辺の魔物に私がやられるわけないでしょう」
口元を手で隠すものの、大きな欠伸をしているのは、見てわかるほど口が大きい。
体を伸ばし首や肩をボキボキと鳴らし、頭や肩、背中を叩いた後、私達を無視して歩き始める。
私はヒスイを追いかけるように足早に近づく。
「ヒスイさんもネクリアムを取りにきたんですか?」
「ええ。…………ちょっと待ってください。もしかしてあの男もウロスラの代わりを見つけたと言うことですか?」
足を止め、私を見たヒスイ。成分表を送った本人なのにそこまで驚くことだろうか。
「"も"てことは、アデルさんと同じ花をウロスラの代わりとして使おうと思ってるということですかね」
「不愉快ですが、そうなりますね」
大きなため息をわざとらしく吐き、ヒスイは頭を抱えた。
「あの男は自分で取りに来ないのですか?」
「基本引きこもってますからね。念の為、山頂に着いたら呼んでみようとは思ってますけど」
「呼ぶ? そんな魔法でもあるのですか?」
「召使――マラカイトさんがアデルさんに一瞬で私の元にワープできる道具を渡してるんです」
そんな魔法も使えてしまうのかと一瞬感心していたヒスイ。だがマラカイトの名前を聞いて、ヒスイは眉間に皺を寄せる。
「なるほど。あの方が言っていたのはあの男だったのか……」
道具の存在自体は知っていたようだ。
「ヒスイさんはマラカイトさんの道具に頼らないのですか?」
「必要ありません」
きっぱりと断ったあと、歩き始める。それを見送っていると、ヒスイが私を見た。
「何をしているのです? あなた方も山頂に行くのでしょう? あの男と話せるのなら、一緒に行く価値はあります」
さっさと行きますよ。そう言ってヒスイは大股で歩き始めたのだった。
◇
ヒスイが加わったことで、なんとなくギスギスしているパーティーになってしまった。
おそらく3人とも私がヒスイに何度も殺されていることを覚えているからだろう。
私としては、もう過去のことなので水に流して欲しいと思っているのだが……
そんな重い空気のままやっとの思いで山頂に到着。
そこには真っ赤な花の絨毯が広がっていた。
天気は悪くないはずなのに、この山のみ重く暗い。
まるで演出かのように、赤い花――ネクリアムはその暗がりで怪しく光っている。
彼岸花のような形をしている。きっとモチーフはそれだろう。
ロクは早速ネクリアムに近づいている。茎に毒があることはわかっているので、へし折らずその場で匂いを嗅いでみたり花の部分を触ってみたりしている。
「なんで発光してるんだ?」
「僕も理由は知らない。咲く場所が限定的で、一般人はそうそう来られないから、研究が進んでいないんだ」
「ま、俺達にかかれば山頂なんてすぐですけどね~」
得意げに言うルーパルドに呆れた表情を浮かべたイナトだったが、間違ってはいないからか否定の言葉を返すことはしなかった。
「ネクリアム……綺麗だけど、ちょっと不気味だね」
「まあ、そう感じるのも仕方のないことでしょう。……それで? いつあの男を呼ぶのですか?」
「あ、はい。今呼びます」
アデルにネクリアムの場所に辿り着いた旨を伝えると、「すぐに行く」とだけ返事がきた。
「来たぞ。すぐに収集する」
ヒスイには目もくれず、アデルは手袋をして、ネクリアムを摘み持参していた袋へと詰めていく。
あまりにも手際良く摘んでいくので、ヒスイはその様子をじっと眺めていた。
しかし、ハッとしたヒスイは慌てて自分も花を摘み袋へと入れ込む。
ずっと無言で摘んでいた2人だったが、アデルが袋を閉めたタイミングで、ヒスイは声をかけた。
「アデル、私を覚えていますか」
「誰だ?」
アデルは片目を細め、ヒスイをまじまじと見た。本当に記憶にないようで、アデルは首を傾げている。
覚えていないことが不服だったのだろうヒスイは、青筋を立てる。
だが、ヒスイは一度深呼吸をして、指を鳴らした。
その途端ヒスイは中型の龍へと見た目を変えた。ヒスイという名前だけあって、緑色の見た目をしている。
「これならわかるでしょう? 貴方が実験しようとした龍ですからね」
「……ああ、そんな奴いたな」
龍人が目の前で龍になったのに、あまり興味がなさそうだ。
おそらくウロスラの代わりになるネクリアムに今は興味が傾いてしまっているからだろう。
ヒスイに他の言葉を投げることなく私を見た。
「これだけあれば問題ないだろう。庭で育てて見るつもりだ。ついでにお前の方でも育ててみてくれ」
ネクリアムの花とその種子らしき黒い粒を私に持たせ、アデルはすぐさま帰っていってしまった。
「あんの研究バカ! 興味のないものに対しての雑さは相変わらずのようですね」
龍からまた人間の姿に戻り、ヒスイは苛立ちを露わにし、ネクリアムの茎をバキリと折る。その毒液が指先に垂れても、構わず握りつぶした。
「その液ついちゃって大丈夫ですか……?」
「龍人はそんなにやわではありません。ちなみに、液の毒性はフェリネムの花びら1枚で打ち消すことができます」
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