乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件〜帰還エンドのはずが、様子がおかしい〜

勿夏七

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26章

176.四季による阻害

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「ロク、まだキノコ探してる……」

 ロクはまだラモグを倒したりないのか、下ばかり見ている。
 上を見れば綺麗な景色が広がっているのに――ちょっともったいない気がしてしまう。

 緑の葉がオレンジ色に変わり、枯れ葉となって落ちる。そして、次に目を上げた時には再びピンク色の花が咲いている――それを、すでに三巡繰り返した。時間はもう4時間くらい経っている。
 ルーパルドは眉間に皺を寄せ、口をひらいた。

「これ、やっぱり幻惑ですかねぇ」
「だが、綻びが見当たらないな」

 幻惑であれば、何かしら綻びが見える。例えば空間に歪みが生まれたり、長時間いると耳鳴りや吐き気がしたり。それが一切ないまま時間ばかり経過している。
 また紙の束をめくり、手がかりがないかと探す。感想やミマの考えているシチュエーションばかり書かれており、もう読むのをやめてしまおうかと思っていると、やっとそれらしきものを見つけた。

「"ずっと四季を回っている。これはもしかして上ばかり見ているからだろうか"だって」
「そういえば葉ばかり見ていましたね。……ロクは何か違和感に気づいたか?」

 青白く光るキノコを探していたロク。私達の中で唯一下ばかり見ていたはず。
 ロクに視線が集中する中、ロクは首を捻り顎に手を添えた。

「ちょっと待て。思い出すからこっちを見るな」

 集中できないと言って、私達から背を向けて静かになった。
 数分してロクは振り返り、「行くぞ」と道を外れ歩き出す。抜け出すための道でも見つけたのかもしれない。

「変な置物を見つけた」

 指を差した方向には、石造。そこそこ小さくて、苔が生え周りの景色に溶け込んでしまっている。
 上を見ながら歩いていたら見つけられなかったものだろう。
 杖のような形をしているが、もしかしてこれが原因なのだろうか。
 石造を触ってみても特に反応はない。何かないかとぐるりと見渡すと、杖の持ち手部分に人工くさい赤いボタンが見つかった。

「これ絶対何かあるやつでしょ」
「またリンだけ別空間に飛ばされる……なんてことはないでしょうね」

 ルーパルドもイナトも押したくなさそうな表情でボタンを凝視している。ロクだけは「押してもいいか?」と興味津々だ。

「私が押すから誰か手を繋いで欲しい」
 
「僕が」「俺が」と3人同時に名乗りあげる。分かりきってはいたが、誰かを選ぶのも面倒くさいな。
 
「そうだ。イナトがボタンを押して、もしどこかに飛ばされたら私がもらったブレスレットでここに呼び出せばよくない?」

 以前イナトにプレゼントしてもらったブレスレット。魔力を注入すればイナトを呼び出せる仕様。ということは、イナトがもし飛ばされてしまっても、すぐに呼び戻せるということだ。
 
「なるほど。名案じゃないですか。ね、団長」
「……その、使い方が……。いざという時のために贈ったのであって、こんな実験的な――」

 イナトは私のブレスレットの使い方に不服があるようだ。だが、1番簡単に呼び戻せるのはイナトぐらい。
 どうにか説得しないと……

「ダメ?」
「……ダ、ダメではありません。やりましょう」

 あっさり折れたイナトにちょっと拍子抜け。まあ、しつこくイナトにお願いしなくていいのはありがたい。

「ありがとうイナト! いざとなれば私が死に戻るから安心してね」
「何も安心じゃないですからね、それ」

 「やめてくださいね」とイナトは私に釘を刺した後、呼吸をした後ボタンを押した。
 カチッと音は鳴ったものの、特に変化はない。いや、静かに何かが始まっているのかもしれない。
 辺りを見渡すが特に異変はない。不発とか言わないよね?

「もう1回歩いてみる?」
「そうしましょう。ですが、今日のところは休みましょうね」

 この夜通し遊べない感じ、ちょっともどかしい。


 ◇


 白い箱に入り、諸々を済ませ、ベッドでごろごろ。そろそろ寝ようかと思っていると、トントンとベランダに続く扉を叩く音がした。
 ガラス張りの扉を見ると、2つ人影が見える。

 私と目が合ったマラカイトは、手を振っており、その隣ではヒスイがフェリネムらしき花を持って静かに立っていた。
 扉を開け、2人を見た。
 
「マラカイトさんとヒスイさん。どうしたんですか?」

 そういえば、マラカイトは照れくさそうに笑みを浮かべ私を見た。
 
「会いたくなったので、と言ったら困りますか?」
「あ、いえ。会うくらいなら全然」
「そうですか。それはよかったです」

 ほわほわという効果音が似合いそうな雰囲気を醸し出すマラカイト。それとは逆にヒスイは真顔。どんな気持ちでマラカイトの隣に立っているのだろう。

「フェリネムを2本用意いたしました。枯れないように施していますのでご安心ください」
「不思議でしょう? ヒスイがね、時間を止める魔法を少しだけかけてるんです」
 
 ヒスイは緑色と赤色のリボンで結んでいるフェリネムを私に持たせた。
 カチカチに固まっているようだが、冷たくはない。時間と言っていたし、冷やしたとはまた別なのだろう。よくわかっていないが。

「これはただ贈りたかっただけなので、告白とか結婚とか――重く受け取らなくて構いません」

 ヒスイはマラカイトの後ろへと隠れてしまった。照れ隠しと思って良さそうだ。
 マラカイトはそんな様子を微笑ましそうに眺めた後、私の手を取り、手の甲にキスを落とした。

「リン。これから私やヒスイを知ってください。願わくばいつまでも貴女の傍にいさせてください」

 その言葉を言った後、2人はお辞儀をして梯子も使わずに降りていってしまった。ふわりと降りたのできっと魔法を使ったのだろう。
 2人の後ろ姿が夜の闇に溶けていくまで、私はただ黙って――けれど、どこか穏やかな気持ちで――見送った。
 
 マラカイトは過激な面ばかりが印象に残っている。ヒスイだって複数回私を殺すために、薬品を何度も飲まされた。正直印象は最悪だ。
 けれど、今のあの2人はとても穏やかで憎めない私がいた。

「……さて。花瓶、花瓶っと」
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