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14章
83.夢の館
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外装はゆめかわ系と言えば伝わるだろうか。パステルカラーがふんだんに使われており、雲の上で気持ち良さそうに眠っている動物達の姿があった。夢関連だということがすぐにわかる。
扉を開けると、ドアベルが鳴る。
すると、清楚なブラウスに動きやすいフレアパンツを着こなしている女性が、嬉しそうに奥の部屋から出てきた。
「アタイの夢の館へようこそ~! アタイはリムよ。よろしくね」
簡単に挨拶を済ませ、流れるように席へと座らされ、私の前に紅茶を置いた。リムは私の隣に座り、ボディタッチを始める。触診のようなものだろうか。
「ふぅん。特に仕掛けられてるわけではなさそうね」
一通り触った後、リムは少し残念そうな表情を見せた。仕掛けられていたら面白かったのだろうか。
「じゃ、イナト様から聞いた救世主様の夢については入眠して調べるとして――」
リムは私から離れ、イナト達の元へと歩く。
「貴方達は外で好きに遊んでなさい。5時間あれば全部終わるわ」
5時間、なかなかの長さだ。今は14時なので19時まではここにいることになる。入眠と言っていたので私の体感だともっと短いのかもしれないが、そんなに時間を要するものなのだろうか。
「ここで待たせてもらえませんか?」
「5時間ここで待つつもり? イナト様がいたら営業妨害になるわ。アタイはこの子貸切だけど、他の子は仕事してるんだから」
イケメンはうちの従業員の目に毒よ~。と3人まとめて背中を押し外へと追い出した。
「さて、説明し忘れてたけど、その紅茶を飲んで待ってて。眠くなってくるから」
「わかりました」
紅茶を飲み、リムの話をひたすらに聞く。女性にしては少し低めの声。それが鼓膜を揺らし眠気を誘う。この声を聞きたいがために訪れる客もいると聞く。こんなにも心地良いのだからその気持ちはわかる。
「そろそろ眠れそうね」
うとうとし始めた私をリムは軽々と横抱きし、広い部屋へと入る。そこにある天蓋付きのベッドへとゆっくりとおろし、布団をかけた。ホットアイマスクを着けられたかと思えば、ベッドが軋み私の隣に誰かが寝そべっているのがわかる。
「おやすみ。アタイもすぐにそっちに行くから」
頭を撫でられ、私は瞼を閉じた。
◇
目を開けるとベッドの天蓋ではなく、青い空だった。おそらく夢の中なのだろう。
身体を起こすと同時にイナトが目の前に現れた。夢の続きのような展開だ。
「起きたのですね。おはようございます……と言ってももう昼ですけれど」
クスクスと笑いながら、イナトはトレイを私の前に置いた。トレイにはサンドイッチと水が乗っている。
「どうぞお食べください」とイナトは笑顔で言うが、私はサンドイッチに手を伸ばさない。
リムから夢で出されたものに手を出してはいけないと言われているからだ。
イナトは目を瞬かせ、首を傾ける。
「お腹は空いていませんか?」
「うん、空いてない」
「そうですか……せっかくリン様のために作ったのですが」
しゅんとするイナトに私はただ微笑む。後で食べるなど約束事も極力避けるよう言われているからだ。
どうにかリムが来るまで口を開かないようにしておきたい。
「私は何か貴女に嫌われるようなことをしましたか?」
「……」
顔を覗き込むイナトを無視して別の方向を見る。本物のイナトを無視しているようで少々心が痛い。早く来てくれと願っていると、遠くに人影が見える。
「リンちゃん、遅くなってごめんね~」
リムは私を見つけた途端かなりのスピードで走ってきて、私を抱きかかえた。イナトとの距離を取りリムは笑顔を向けた。
「見た目はまんまだけど、中身はお粗末ね。なりきるのなら、もっと内面を真似しなきゃ」
「……何を言っているのですか? なりきるも何も、私はイナトですよ?」
イナトが私と言っている時点で間違っているのだが、指摘する必要はない。精度を上げられても面倒だし。
「それで、リムさん。これからどうするんですか?」
「こうして、こうよ!」
まず相手をロープで拘束し、小瓶に入っていた液体を頭へとかける。リムは夢の中でなら最強らしく、指を振るだけで思い通りに事が運ぶのだそうだ。私の夢の中なのに、夢を見ている者よりも自由がきくという謎仕様。ちょっと羨ましい。
「ちっ!」
イナトだったそれは見たことのない男へと早変わり。ロクのように全身黒で統一されている。渡者が依頼されて私を殺しにきた可能性が高そうだ。
「誰に依頼された?」
「言うわけないだろ」
「ふぅん? じゃあ、アタイが勝手に調べちゃう」
リムは男を縛ったまま空に浮かせ、ぐるぐると回す。何かを探っているようだが、男は悲鳴ひとつあげない。だが、自身の体から取り出されたペンダントをリムに奪われ目を見開いた。
「なっ!? なぜそれが俺の体に!?」
「家に置いてきたのにって? あんた、頭の中で考えちゃったでしょ。敗因はそこよ」
ペンダントトップで光る鮮やかな赤。アクセサリーに疎い私でも高価なものだとわかるほどだ。
「ああ、イケメン大好きなあの令嬢の仕業ね」
「知ってる人ですか?」
「かなり有名なのよ。むしろ貴女がまだ出会ってないことに驚いたわ。きっとイナト様のおかげね」
リムは奪ったペンダントをその場で消し、次に男もあっさりと夢から追い出した。
「あの男が入ってくることはもうないわ。安心して。でも、イケメン好きの令嬢は、きっと貴女に会いたがるでしょうね」
覚悟しておいた方がいいわ。そう言ってリムは同情の眼差しを向けてきたのだった。
扉を開けると、ドアベルが鳴る。
すると、清楚なブラウスに動きやすいフレアパンツを着こなしている女性が、嬉しそうに奥の部屋から出てきた。
「アタイの夢の館へようこそ~! アタイはリムよ。よろしくね」
簡単に挨拶を済ませ、流れるように席へと座らされ、私の前に紅茶を置いた。リムは私の隣に座り、ボディタッチを始める。触診のようなものだろうか。
「ふぅん。特に仕掛けられてるわけではなさそうね」
一通り触った後、リムは少し残念そうな表情を見せた。仕掛けられていたら面白かったのだろうか。
「じゃ、イナト様から聞いた救世主様の夢については入眠して調べるとして――」
リムは私から離れ、イナト達の元へと歩く。
「貴方達は外で好きに遊んでなさい。5時間あれば全部終わるわ」
5時間、なかなかの長さだ。今は14時なので19時まではここにいることになる。入眠と言っていたので私の体感だともっと短いのかもしれないが、そんなに時間を要するものなのだろうか。
「ここで待たせてもらえませんか?」
「5時間ここで待つつもり? イナト様がいたら営業妨害になるわ。アタイはこの子貸切だけど、他の子は仕事してるんだから」
イケメンはうちの従業員の目に毒よ~。と3人まとめて背中を押し外へと追い出した。
「さて、説明し忘れてたけど、その紅茶を飲んで待ってて。眠くなってくるから」
「わかりました」
紅茶を飲み、リムの話をひたすらに聞く。女性にしては少し低めの声。それが鼓膜を揺らし眠気を誘う。この声を聞きたいがために訪れる客もいると聞く。こんなにも心地良いのだからその気持ちはわかる。
「そろそろ眠れそうね」
うとうとし始めた私をリムは軽々と横抱きし、広い部屋へと入る。そこにある天蓋付きのベッドへとゆっくりとおろし、布団をかけた。ホットアイマスクを着けられたかと思えば、ベッドが軋み私の隣に誰かが寝そべっているのがわかる。
「おやすみ。アタイもすぐにそっちに行くから」
頭を撫でられ、私は瞼を閉じた。
◇
目を開けるとベッドの天蓋ではなく、青い空だった。おそらく夢の中なのだろう。
身体を起こすと同時にイナトが目の前に現れた。夢の続きのような展開だ。
「起きたのですね。おはようございます……と言ってももう昼ですけれど」
クスクスと笑いながら、イナトはトレイを私の前に置いた。トレイにはサンドイッチと水が乗っている。
「どうぞお食べください」とイナトは笑顔で言うが、私はサンドイッチに手を伸ばさない。
リムから夢で出されたものに手を出してはいけないと言われているからだ。
イナトは目を瞬かせ、首を傾ける。
「お腹は空いていませんか?」
「うん、空いてない」
「そうですか……せっかくリン様のために作ったのですが」
しゅんとするイナトに私はただ微笑む。後で食べるなど約束事も極力避けるよう言われているからだ。
どうにかリムが来るまで口を開かないようにしておきたい。
「私は何か貴女に嫌われるようなことをしましたか?」
「……」
顔を覗き込むイナトを無視して別の方向を見る。本物のイナトを無視しているようで少々心が痛い。早く来てくれと願っていると、遠くに人影が見える。
「リンちゃん、遅くなってごめんね~」
リムは私を見つけた途端かなりのスピードで走ってきて、私を抱きかかえた。イナトとの距離を取りリムは笑顔を向けた。
「見た目はまんまだけど、中身はお粗末ね。なりきるのなら、もっと内面を真似しなきゃ」
「……何を言っているのですか? なりきるも何も、私はイナトですよ?」
イナトが私と言っている時点で間違っているのだが、指摘する必要はない。精度を上げられても面倒だし。
「それで、リムさん。これからどうするんですか?」
「こうして、こうよ!」
まず相手をロープで拘束し、小瓶に入っていた液体を頭へとかける。リムは夢の中でなら最強らしく、指を振るだけで思い通りに事が運ぶのだそうだ。私の夢の中なのに、夢を見ている者よりも自由がきくという謎仕様。ちょっと羨ましい。
「ちっ!」
イナトだったそれは見たことのない男へと早変わり。ロクのように全身黒で統一されている。渡者が依頼されて私を殺しにきた可能性が高そうだ。
「誰に依頼された?」
「言うわけないだろ」
「ふぅん? じゃあ、アタイが勝手に調べちゃう」
リムは男を縛ったまま空に浮かせ、ぐるぐると回す。何かを探っているようだが、男は悲鳴ひとつあげない。だが、自身の体から取り出されたペンダントをリムに奪われ目を見開いた。
「なっ!? なぜそれが俺の体に!?」
「家に置いてきたのにって? あんた、頭の中で考えちゃったでしょ。敗因はそこよ」
ペンダントトップで光る鮮やかな赤。アクセサリーに疎い私でも高価なものだとわかるほどだ。
「ああ、イケメン大好きなあの令嬢の仕業ね」
「知ってる人ですか?」
「かなり有名なのよ。むしろ貴女がまだ出会ってないことに驚いたわ。きっとイナト様のおかげね」
リムは奪ったペンダントをその場で消し、次に男もあっさりと夢から追い出した。
「あの男が入ってくることはもうないわ。安心して。でも、イケメン好きの令嬢は、きっと貴女に会いたがるでしょうね」
覚悟しておいた方がいいわ。そう言ってリムは同情の眼差しを向けてきたのだった。
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