12 / 33
幼馴染みの女の子
しおりを挟むヘレンさんが立ち去った後、すぐに扉がノックされた。誰だろうと思って中へ入って貰うように促すと、それはエヴェリーナ様だった。
驚いて慌ててベッドから飛び起きて、エヴェリーナ様を出迎えるべく扉まで駆け寄っていく。
「ほら、やっぱりそうなんじゃない」
「はい? あの……どうされましたか?」
「貴女、仮病でしょ?」
「え?! 仮病?!」
「今元気にしてるじゃない。倒れたの、わざとでしょ?」
「ち、違います! 私は……!」
「ヴィルヘルム様とわたくしが楽しそうに話しているのが気にくわなかったのね。だからヴィルヘルム様の気を引く為にわざとあそこで倒れたんでしょ? 小賢しい子ね」
「いえ、それは……!」
「おかしいと思ってたのよ。ここの使用人は、年齢は様々だけど殆どが男性で侍女は二人だけ。一人は年若い女の子。あぁ、そう言うことか、と思ったわ」
「あの、そう言うことって……」
「貴女、ヴィルヘルム様の手付きなのでしょう?」
「え? 手付きって……何ですか……?」
「とぼけなくても良いわ。わたくしは寛大なの。貴女とヴィルヘルム様が男女の関係であったとしても、わたくしは気にしません。淑女として育てられてきましたから」
「だ、男女の関係だなんて! そんな事はありません!」
「誤魔化さないで。不問にすると言っているでしょう。だけどわたくしとヴィルヘルム様が婚姻を結んだ暁には、貴女はここから出て行って貰います。貴族の娘を側室として迎えるならまだしも、侍女の平民とだなんて……ありえませんわ」
「ですから私とヴィル様は……!」
「ヴィル様だなんて侍女ごときが呼ぶものではありません! 弁えなさい!」
「……っ!」
「わたくしはきっとヴィルヘルム様を手に入れてみせますわ。そうだ、貴女にも教えておいてあげる。わたくしはヴィルヘルム様の愛したアンジェリーヌという女性の生まれ変わりなの。この赤い髪がその証拠よ。この国で赤い髪は殆ど生まれないもの。だからわたくしとヴィルヘルム様は結ばれる運命なのよ。お分かりになって?」
「それは……」
「これ以上姑息な真似は許しません。侍女は侍女らしく、影になって控えていなさい。分かったわね」
言うだけ言って、エヴェリーナ様は部屋から出ていこうとする。それを私は呼び止めた。
「待ってください、エヴェリーナ様!」
「貴女にわたくしの名を呼ぶ権利を与えた覚えはありません! 弁えなさいと言った筈です!」
「……申し訳ありません……その……どうか……ヴィル……ご主人様に……後悔していないと……そうされるのが望みだったと……そうお伝えください……」
「? 何を言っているの?」
「いえ……ですが……お願いします……」
「貴女の願いを聞く必要はわたくしにはありません。では」
今度こそ、踵を返してエヴェリーナ様は部屋から出ていった。
そうか。だからエヴェリーナ様は私に不快感を表したんだ。
違うのになぁ。ヴィル様と私が男女の関係なんて、そんな事はないのになぁ。できるならそうなりたかった。遊びでも良いからって、そう思ってた。でもヴィル様はそんな人じゃない。それは私が一番良く知っている。
前世で私は何人もの男の人に穢されてしまったけど、今のこの体はまだ清いまま。だからヴィル様に捧げたかったんだけどなぁ。あ、それが姑息というやつなのか。
「ハァーー……」
って思わずため息が零れた。
エヴェリーナ様、印象と違ったなぁ。怖かったなぁ。でもそうか。あれが貴族令嬢ってやつなんだ。
ヴィル様、エヴェリーナ様と結婚するのかな。そうしたら私はここから出ていかなくちゃいけないのか……
嫌だなぁ。ヴィル様が結婚して幸せになるのは良いんだけど。そう私も望んでるし。でも、ここから出ていかなくちゃいけないのは嫌だなぁ。
追い出されたら何処に行けば良いんだろう。魔力もないし、他にできる事なんて何もない。家事ができても、平民を侍女として雇ってくれる貴族はほぼいないだろうな。あ、商人とかの富豪だったら有りかな。でもヘレンさんみたいに魔力提供してくれる人の確保は難しいかも……
今度こそヴィル様の幸せを見届けて死んでいけると思ったんだけどなぁ。
涙が溢れそうになる。ダメだ、こんなことで泣いちゃ……
するとノック音がしてから扉が開いた。ヴィル様だ……
「サラサ、目が覚めたのか。良かった……」
「ヴィ……ご主人様……」
「まだ寝ていた方がいい。医師を呼んでいるが、到着まで暫く日がかかりそうなんだ。すまないな」
「いえ! 私なんかの為にお医者様は必要ありません!」
「そう言うな。暫く休むといい。仕事はするな。分かったな」
「ダメです! 今は凄く忙しいからみんな大変なんです!」
「では新しく人を雇おう。今まで無理をさせていたのかも知れない。申し訳なかった」
「違います! ヴィ、ご主人様が謝る必要なんてありません! 本当に!」
「サラサ、分かった。分かったから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ」
「ですが……」
「そんなところに突っ立ってないで休みなさい」
そう良いながらヴィル様は私を抱き上げた。これがヘレンさんの言っていたお姫様抱っこ! うわぁ! 嬉しい! でも恥ずかしい!
戸惑う私見て、目尻を3ミリ下げたヴィル様は、ベッドまで私を運んでくれた。
優しくベッドに横たわらせると、ちゃんと布団も掛けてくれた。
ダメだ、もう今死んでも良いかも知れないくらい幸せ! いや、でもやっぱりもうちょっと生きていたい!
「何か食べたい物はないか?」
「大丈夫です。何でも食べられます」
「そうか。必要な物はあるか?」
「ご主人様、そんなに私を甘やかさないでください」
「もう私を『ヴィル様』と呼んでくれないのか?」
「それは……」
私が何も言えないのを見て、ヴィル様は優しく額を撫でてくれた。それは前世で私とリノが孤児院にいた頃、寝付きが悪い私にリノがしてくれていた事だった。嬉しくて切なくて、そうされているだけでも涙が出そうになる。
ヴィル様もその事を思い出したのか、ポツリポツリと話しだした。
「昔……幼馴染みの女の子がいてね。その子もとても元気だったんだ。サラサと同じようにね」
「え……?」
「いつも笑顔で優しくて……その子は私を助けてくれたんだよ」
「ヴィル、様、を……?」
「そうだよ。情けないだろう? 女の子に助けられるなんて。小さな頃からそうだった。助けたつもりでいたのに、いつも私はその子に助けられていたんだ。そして……最後は……」
「ヴィル様……?」
「いや、なんでもない。だから今度は私が助けたいんだ。サラサはその女の子とは違うが、何も出来ないのは悔しいんだよ」
「あの……きっと……きっとその子もヴィル様に助けられていたんだと思います。だから、その……」
「どうだろうね。そうだと良かったんだけどね。どうしてこんな事を言ってしまったかな……サラサは少しその子に似ているから、かな……」
「……っ!」
「ゆっくり休みなさい。暫く仕事はしてはいけないよ。これは命令だ。分かったね」
「はい……」
私が頷くと、安心したようにヴィル様は部屋を出ていかれた。
ヤバかった。もう少しで泣きそうだった。って、今既に泣いちゃってるけど!
あー、どうしてもっと気の利いた事が言えなかったかなぁ。でも優しく額を撫でてあんな事を話し出すから戸惑ってしまったんだよ。ヴィル様、不意討ち過ぎです!
だけど私たちの様子を、少し開いた扉の向こう側で覗き込んでいたエヴェリーナ様がいた事に、私はこの時気づかなかったんだ。
10
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる