過去に囚われたあなたに惜しみない愛を

レクフル

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幼馴染みの女の子

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 ヘレンさんが立ち去った後、すぐに扉がノックされた。誰だろうと思って中へ入って貰うように促すと、それはエヴェリーナ様だった。

 驚いて慌ててベッドから飛び起きて、エヴェリーナ様を出迎えるべく扉まで駆け寄っていく。


「ほら、やっぱりそうなんじゃない」

「はい? あの……どうされましたか?」

「貴女、仮病でしょ?」

「え?! 仮病?!」

「今元気にしてるじゃない。倒れたの、わざとでしょ?」

「ち、違います! 私は……!」

「ヴィルヘルム様とわたくしが楽しそうに話しているのが気にくわなかったのね。だからヴィルヘルム様の気を引く為にわざとあそこで倒れたんでしょ? 小賢しい子ね」

「いえ、それは……!」

「おかしいと思ってたのよ。ここの使用人は、年齢は様々だけど殆どが男性で侍女は二人だけ。一人は年若い女の子。あぁ、そう言うことか、と思ったわ」

「あの、そう言うことって……」

「貴女、ヴィルヘルム様の手付きなのでしょう?」

「え? 手付きって……何ですか……?」

「とぼけなくても良いわ。わたくしは寛大なの。貴女とヴィルヘルム様が男女の関係であったとしても、わたくしは気にしません。淑女として育てられてきましたから」

「だ、男女の関係だなんて! そんな事はありません!」

「誤魔化さないで。不問にすると言っているでしょう。だけどわたくしとヴィルヘルム様が婚姻を結んだ暁には、貴女はここから出て行って貰います。貴族の娘を側室として迎えるならまだしも、侍女の平民とだなんて……ありえませんわ」

「ですから私とヴィル様は……!」

「ヴィル様だなんて侍女ごときが呼ぶものではありません! 弁えなさい!」

「……っ!」

「わたくしはきっとヴィルヘルム様を手に入れてみせますわ。そうだ、貴女にも教えておいてあげる。わたくしはヴィルヘルム様の愛したアンジェリーヌという女性の生まれ変わりなの。この赤い髪がその証拠よ。この国で赤い髪は殆ど生まれないもの。だからわたくしとヴィルヘルム様は結ばれる運命なのよ。お分かりになって?」

「それは……」
 
「これ以上姑息な真似は許しません。侍女は侍女らしく、影になって控えていなさい。分かったわね」


 言うだけ言って、エヴェリーナ様は部屋から出ていこうとする。それを私は呼び止めた。


「待ってください、エヴェリーナ様!」

「貴女にわたくしの名を呼ぶ権利を与えた覚えはありません! 弁えなさいと言った筈です!」

「……申し訳ありません……その……どうか……ヴィル……ご主人様に……後悔していないと……そうされるのが望みだったと……そうお伝えください……」

「? 何を言っているの?」

「いえ……ですが……お願いします……」

「貴女の願いを聞く必要はわたくしにはありません。では」


 今度こそ、踵を返してエヴェリーナ様は部屋から出ていった。

 そうか。だからエヴェリーナ様は私に不快感を表したんだ。

 違うのになぁ。ヴィル様と私が男女の関係なんて、そんな事はないのになぁ。できるならそうなりたかった。遊びでも良いからって、そう思ってた。でもヴィル様はそんな人じゃない。それは私が一番良く知っている。

 前世で私は何人もの男の人に穢されてしまったけど、今のこの体はまだ清いまま。だからヴィル様に捧げたかったんだけどなぁ。あ、それが姑息というやつなのか。
 
「ハァーー……」
って思わずため息が零れた。
 エヴェリーナ様、印象と違ったなぁ。怖かったなぁ。でもそうか。あれが貴族令嬢ってやつなんだ。 

 ヴィル様、エヴェリーナ様と結婚するのかな。そうしたら私はここから出ていかなくちゃいけないのか……

 嫌だなぁ。ヴィル様が結婚して幸せになるのは良いんだけど。そう私も望んでるし。でも、ここから出ていかなくちゃいけないのは嫌だなぁ。
 追い出されたら何処に行けば良いんだろう。魔力もないし、他にできる事なんて何もない。家事ができても、平民を侍女として雇ってくれる貴族はほぼいないだろうな。あ、商人とかの富豪だったら有りかな。でもヘレンさんみたいに魔力提供してくれる人の確保は難しいかも……

 今度こそヴィル様の幸せを見届けて死んでいけると思ったんだけどなぁ。

 涙が溢れそうになる。ダメだ、こんなことで泣いちゃ……

 するとノック音がしてから扉が開いた。ヴィル様だ……

 
「サラサ、目が覚めたのか。良かった……」

「ヴィ……ご主人様……」
 
「まだ寝ていた方がいい。医師を呼んでいるが、到着まで暫く日がかかりそうなんだ。すまないな」

「いえ! 私なんかの為にお医者様は必要ありません!」

「そう言うな。暫く休むといい。仕事はするな。分かったな」

「ダメです! 今は凄く忙しいからみんな大変なんです!」

「では新しく人を雇おう。今まで無理をさせていたのかも知れない。申し訳なかった」

「違います! ヴィ、ご主人様が謝る必要なんてありません! 本当に!」

「サラサ、分かった。分かったから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ」

「ですが……」

「そんなところに突っ立ってないで休みなさい」


 そう良いながらヴィル様は私を抱き上げた。これがヘレンさんの言っていたお姫様抱っこ! うわぁ! 嬉しい! でも恥ずかしい!

 戸惑う私見て、目尻を3ミリ下げたヴィル様は、ベッドまで私を運んでくれた。
 優しくベッドに横たわらせると、ちゃんと布団も掛けてくれた。
 ダメだ、もう今死んでも良いかも知れないくらい幸せ! いや、でもやっぱりもうちょっと生きていたい!


「何か食べたい物はないか?」

「大丈夫です。何でも食べられます」

「そうか。必要な物はあるか?」

「ご主人様、そんなに私を甘やかさないでください」

「もう私を『ヴィル様』と呼んでくれないのか?」

「それは……」  

 
 私が何も言えないのを見て、ヴィル様は優しく額を撫でてくれた。それは前世で私とリノが孤児院にいた頃、寝付きが悪い私にリノがしてくれていた事だった。嬉しくて切なくて、そうされているだけでも涙が出そうになる。
 ヴィル様もその事を思い出したのか、ポツリポツリと話しだした。


「昔……幼馴染みの女の子がいてね。その子もとても元気だったんだ。サラサと同じようにね」

「え……?」

「いつも笑顔で優しくて……その子は私を助けてくれたんだよ」

「ヴィル、様、を……?」

「そうだよ。情けないだろう? 女の子に助けられるなんて。小さな頃からそうだった。助けたつもりでいたのに、いつも私はその子に助けられていたんだ。そして……最後は……」

「ヴィル様……?」

「いや、なんでもない。だから今度は私が助けたいんだ。サラサはその女の子とは違うが、何も出来ないのは悔しいんだよ」

「あの……きっと……きっとその子もヴィル様に助けられていたんだと思います。だから、その……」

「どうだろうね。そうだと良かったんだけどね。どうしてこんな事を言ってしまったかな……サラサは少しその子に似ているから、かな……」

「……っ!」

「ゆっくり休みなさい。暫く仕事はしてはいけないよ。これは命令だ。分かったね」

「はい……」


 私が頷くと、安心したようにヴィル様は部屋を出ていかれた。
 ヤバかった。もう少しで泣きそうだった。って、今既に泣いちゃってるけど!

 あー、どうしてもっと気の利いた事が言えなかったかなぁ。でも優しく額を撫でてあんな事を話し出すから戸惑ってしまったんだよ。ヴィル様、不意討ち過ぎです!

 だけど私たちの様子を、少し開いた扉の向こう側で覗き込んでいたエヴェリーナ様がいた事に、私はこの時気づかなかったんだ。

 

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