過去に囚われたあなたに惜しみない愛を

レクフル

文字の大きさ
14 / 33

心の傷

しおりを挟む
 思ったよりも早く街に着いた。さすが私!

 まずは花屋さんに行こう。そこにも薬草類の苗は売っていた筈。それから雑貨屋に行って魔力回復薬を買って、ドーナツ屋さんでクリスピードーナツ買おう。
 買い物ついでに自分のできる仕事があるかも探さなくちゃね。
 
 花屋さんに行って苗を見ていたんだけど、なんか視線が痛い。盗んだりしないでちゃんと買うよ? なんて思いながら魔草を探す。あ、あった。やっぱり高いけど、買っておこう。そう思ったんだけど……

 
「アンタに売る物はない。サッサと出て行ってくれ」

「え?」

「出て行け! 迷惑だ!」

「な、なん、で……」


 店員さんに睨み付けられて、私は苗を買えずに店を追い出されてしまった。どうして? 私、何も悪いことしてないよ? それとも誰かと間違われたのかな……

 仕方なく店を後にして雑貨屋へと向かう。その間もなんだかジロジロ見られていて、その視線は悪意のあるもののように感じた。
 
 怖い……なんで? 私のなにがそんなに……

 わけが分からないまま、視線から逃れるように早く歩く。その時、額にガツンっ! って、何かが当たった。


「痛いっ!」

「悪魔だ! やっつけろ!」

「え?!」

「この街から出て行け! 悪魔めっ!」


 子供達が私に向かって石を投げてくる。悪魔? 私が?
 ふと店のガラスに映った自分の姿が目に入った。私の髪は深紅に戻っていた。

 え……どうして?! 魔法が解けてる!

 ヘレンさんの魔法は1日は持つ。いつも朝魔法をかけてもらったら、夜寝る時も翌朝起きた時も髪は黒いままだもの。それでもいつ魔法が解けるか分からないから、毎朝ヘレンさんに髪を黒くしてもらっているのに……!

 石は何度も何度も私に向かって飛んでくる。

 痛い! 痛い! やめて!

 子供たちの行為を大人は誰も止めない。それどころか、いつそれに参加するか分からないような雰囲気になっている。

 私はそこから逃げるように走り出した。

 その間も街の人たちの私を見る目は蔑んだような、恐ろしいものを見るような、そんな目をしていた。

 怖い怖い怖い! 

 ここまで嫌われていたんだ。ここまで恨まれていたんだ。分かっているつもりで分かってなかった。

 でも仕方ない。私は血濡れのアンジェリーヌ。

 『ブラッディ・ローズ』 

 それだけの事をしてきた。何人も無慈悲に人を殺してきた。戦争だったからと言っても、それで殺された身内を持つ人たちが納得なんかできる訳がない。忌み嫌われるのは当然のこと。

 私は悪魔だと言い伝えられてきてたんだね。
悪魔、血濡れ、無慈悲……

 外套のフードで髪を隠すように目深にしっかり被って誰の目も見ないように下を向く。
 そして追い出されるようにして街を出て、走って走って走って……

 あの温かな場所へ……いつも笑顔で私を迎え入れてくれるヴィル様の邸へ……

 そう思って走って、邸が目に入ったところでハッとした。

 私がこんな髪色だったら、みんなは街の人たちのように、私を嫌いになるかも知れない。その考えに漸くいきついた。

 私の髪は深紅。血のようにどす黒い赤。それはまさしく血を浴びたようで、エヴェリーナ様の鮮やかな朱赤とは同じ赤でも全く違う。

 ここは辺境の地。戦争で最も被害を受けた場所。だからこの髪色を忌み嫌う思考は何処よりも根強い。邸で働く人たちのご先祖を、私が殺してしまった可能性はあるんだ。

 知っているのはヘレンさんだけ。私の髪色を知ってもいつもと態度は変わらなくて、自分から魔法で髪色を変えようかと提案してくれて……

 足はいつの間にかピタリと止まっていた。

 街から離れて、生い茂っていた木々が拓けた場所に美しくそびえているヴィル様のお邸。庭園には季節の花々が美しく彩り、野菜や果物なんかも栽培されている。
 働く人々は勤勉で気の良い人たちばかりで、何よりヴィル様がいる場所。
 私にとっては楽園のような場所……

 ダメだ、こんな姿で帰れない。誰にも見られたくない。 

 外套をしっかり被って木に寄り添うようにして立って、遠目に邸を眺める事しか今の私にはできなくて……
 帰れない。なら何処にいけば良いの? こんな髪で、誰が私を受け入れてくれると言うの?

 帰りたい。帰れない。

 目の前にある私の楽園。それが滲んで見えてくる。

 泣くな 泣くな 泣くな……!

 私には泣く資格なんてない。自分がしてきた結果だ。国が悪いとか、時代が悪いとか、そういう事じゃない。たくさんの人を殺してきた。それが事実だ。そうしてきたのは私だ。

 1人殺したら殺人。でも1000人殺せば英雄なんだって。そうは言うけれど、そんなのは詭弁だよ。人を殺せば、それは何人であっても殺人。多く殺せば殺すほど、その罪は増えていく。

 頭がズキズキする。あぁ、そうか。石が当たったからだ。あれ? クラクラもしてきた。おかしいな。まだ時間は大丈夫なはずなのに……
  
 ズルズルと木を背に崩れ落ちるようにしゃがみこむ。
 
 お邸までは近いのに凄く遠く感じる。それはまるで私とヴィル様みたい。近くにいるけれど、決して近しい存在にはなれない人。
 それでも良かった。傍にいられるのなら、私はそれでも良かったの……
 目が霞んでいく。邸が見えなくなっていく……


 
「……ちゃ……ちゃん……」

「ん……」

「サラサちゃん!」

「あ、れ……ヘレン、さん?」

「もう! なんでこんな所でそんな事になっているのよ!」

「えっと……なんでヘレンさんは泣いてるの?」

「探したのよ! 皆で帰って来ないサラサちゃんを心配して! こんな所で倒れてるなんて思わないじゃない! しかも怪我してるし!」

「あ、あぁ、これ……あ、そうだ、ごめんなさい! 私、ヘレンさんに言われてたクリスピードーナツ買ってないの! 賄賂の!」

「賄賂だなんて人聞きの悪い事を言うのはやめなさい! ドーナツなんてどうでも良いわよ! それより、早く帰りましょ! 傷の手当てもしないといけないから!」

「……帰っていいのかな……」

「え?」

「私……あの場所に帰っても……」

「良いに決まってるでしょ? あのお邸はみんなの家なんだから」

「みんなの……? 私も……?」

「髪色が戻ってたわ。魔法で黒にしたけど。街で苛められたの? その怪我もそれで?」

「……うん……」

「そう……あの街は一番被害を受けた場所だからねぇ。私の息子もよく苛められたのよ」

「え?! ヘレンさんの息子さんも?!」

「そうよ。赤っていうよりはピンクに近い色だったんだけどね。それでもよく苛められてたわ。近所の子供達や大人にも。仕方ないのかもしれないけど、息子は一時期引きこもっちゃってねぇ」

「そう、なんだ……じゃあ今息子さんは?」

「今は兵士になったのよ。王都にいるわ。ここは差別が酷いけど、王都はそうでもなかったの。だからね、ご主人様が紹介してくださったのよ」

「え?! ヴィル様が?!」

「えぇ、そうよ。何処からか息子が赤い髪で差別にあっていると聞かれて、家を訪ねてくださったのよ。夫には先立たれて私が稼がなくちゃいけなかったんだけど、子供がそうだからって仕事も取り上げられるように雇ってもらえなくなってねぇ。そんな時、ご主人様が私たちを助けてくださったのよ」

「ヴィル様……」

「それから私はここで働かせて貰ってね。それでも息子は髪色を気にしていたから、それを知ったご主人様から髪色を変える魔法を教わったのよ。その後息子は成人して王都へ行って、現在に至るってわけ。だからサラサちゃんの気持ち、少しは分かるのよ?」

「ヘレンさん……!」


 みんな何かしらの傷を心に持っている。それは私だけじゃない。
 そして傷があるからこそ人に優しくなれる。

 やっぱり私はここにいたい。

 ずっとここにいたいよ……

 




 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...