黒龍の娘

レクフル

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第3章

やり過ぎない

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 夜リュカが眠ってから、もう一度捕らえた奴等の思考を探るのに収監されている場所まで行く。まぁ、読まなくても俺に操られてる状態だから、聞けば素直に何でも答えてくれんだけどな。

 捕らえた奴等は帝城の東側にある地下三階の牢獄に入れられている。ここにはトラップなんかも仕掛けてあるから、勝手に入り込んだり脱走しようもんなら、そのトラップで殆どの者が絶命する。迷路みたいにもなってて、知ってる者しか自由に行き来は出来ねぇようになっている。まぁ俺には効果はねぇけどな。
 今回捕らえた奴等は恐怖で声を上げている者ばかりで、遠くからでも声が響いて聞こえてきた。
 俺が前に立つと、恐ろしいモノでも見るようにして恐怖に顔を歪ませるも、震える体で近くまでやって来て整列する。
 副リーダーと思われる男のそばまで行って話し掛ける。


「あんまり大声を出すなよ。迷惑だろ?」

「はい……申し訳ありません……っ」

「お前の恐怖って何だったんだ?何にそんなに怯えている?」

「私には常に……貴方の姿が……」

「ハっ!俺が怖いか!ハハハ!そっか!」

「…………」

「その恐怖は今までお前が手に掛けた人達の恐怖だ。その罪が無くなるまで、お前の恐怖は続く事になる。」

「は、い……っ!」

「お前の知っている組織の事を全て話せ。怖がら無くていい。一時幻術を解くから。……あ、けどお前は俺が怖いんだったな。術を解いても一緒なのか。まぁいい。……インタラス国に裏組織はあったんだな?」

「はい、そうです。ですが他の国にも点在しております。」

「どこの国にだ?」

「アクシタス国、グリオルド国、ベリナリス国、シアレパス国、オルギアン帝国です。」

「あちこちにあんだな……で?どんな事をしてたんだ?」

「強奪や人殺しも請け負っていましたが、主に人身売買です。特に最近は魔物に襲われた村や街が多かったので、親が亡くなった子供を保護する役人として赴き、子供を連れ去りました。」

「ったく……つくづくお前等は外道だな……で?女はどうやってだ?」

「それも魔物に襲われた村や街で、働き口が無くなった女に仕事を斡旋すると言って連れ出しました。公にならないように身内が亡くなった者で、自分の村を出る覚悟のある者に限定しました。」

「だから足が付かなかったのか……襲われたばかりだと、他人の事には無頓着になっちまうしな。マジで悪どいよな、お前等は。」

「はい。」

「拐った人達は何処で売り捌くつもりだったんだ?」

「シアレパス国です。」

「シアレパス……の……どこでだ?」

「北側にある街です。」

「シアレパスの北側……いつもそこで取引してたのか?」

「他にも取引する場所はありますが、多いのはやはりシアレパス国です。」


 シアレパス国の北側……と言えば、フレースヴェルグが住んでいると言われている場所で、なんだったら信仰していたりもする地域だって言ってたな。たまたまか?けど調べる必要があるな。
 それからも情報を聞き出し、あまり大声を出さないように言って幻術をかけ直し、その場を後にする。

 翌朝、朝食を済ませてからゾランの元へ行こうとすると、リュカに「今日は早く帰ってきてね!」って言われた。その言い方が可愛くて、そう言われた事も嬉しくて、思わず抱きしめて頬にキスをして、「なるべく早く帰るようにする」と言ってゾランの仕事部屋まで行く。

 昨日牢獄へ行ってから、ゾランに取引先や他のアジトの場所を言って、今日討伐に向かう場所を決め、作戦を練った。
 まずはアクシタス国だ。ここが一番人が多くいるらしい。悪い事をする奴等の朝は遅い。夜に動き出す事が多いから、朝は遅くまで寝ていることが多い。

 聞いていた場所まで、ひとまず俺が一人で探りに行く。そこは国境近くの村で、俺がいた孤児院があったマルティノア国と隣接している村だった。この近くで俺は盗賊に捕らえられて奴隷にされたな。ったく、この辺りにはロクな思い出がねぇ。

 ここは小さな村だ。のわりに外壁はしっかりしていて、二メートル程の石壁が村の周りを取り囲んでいる。門番も二人いて、俺の事を不審者を見るような感じで睨み付けている。
 村に入る前に魔力を這わせて村人たちの感情を探っていくと、この村全体が組織となっている事が分かった。ここはヤベェな……

 知らずに迂闊に入り込むと、強奪されるか取り込まれるか殺されるか……だな。子供もいる。子供にも犯罪の手伝いをさせてんだな。許せねぇな……!

 村を覆うように結界を張る。それから、覆った村全体に、雷魔法を発動させる。すると、中にいた村人達は全員感電してその場に倒れていった。
 念のため結界を張ったまま、帝城へ戻ってこの事を報告する。


「ゾラン、ひとまず皆を気絶させた。」

「はい?!」

「村人全員が裏組織の連中だったからな。捕らえられていた人達もいたけど、誰が組織の人間がそうでないかは俺が後から見れば分かるしな。取り敢えず村にいる奴等全員拘束してくれ。」

「は、はい!分かりました!」


 ゾランが慌てたように指示を出して兵達を動かしていく。流石のゾランもここまでは想定出来なかったみてぇだな。
 魔素をかき集めなくてもこれくらいの事は出来るようになった。昨日の事もあったから反省して、戦う前に方を付けたんだけどな。

 え?これってやり過ぎじゃねぇよな?

 俺と一緒に数人の兵達を空間移動でさっきのアジトまで飛んでいく。
 一時結界を解除して中に入り込んで、また結界を張りなおす。因みにこの結界に触れた者も感電するようにしておいた。
 兵達が簡易転送陣を設置する。見ると村人達は全員があちらこちらで倒れていた。
 
 転送陣から兵達が続々とやって来る。辺りを見て、皆が倒れているのを見て、驚きの表情を隠せない様子だった。って、ゾランから聞いてたろ?んな驚くなよ。

 建物内にいる奴等も全員が倒れていて、村の中心部にある広場に兵達が、一人を二人がかりで連れて来る。これはこれで大変そうだな……

 人が多く倒れている場所に行って、そこにいる人達全員を風魔法で浮かせて広場まで連れて行く。うん、こうしてやると楽で良いよな。その様子も、兵達は驚いた顔をして見ている。これくらいなら驚く事でもねぇだろ?
 そうやってこの村にいる人達全員がこの場所に集められた。全部で百人程か?で、三十人程が被害者だな。
 
 被害者のみ、まずは帝城の騎士舎まで移動させる。次に回復魔法を大きく広げて放ち、怪我を全て無くす。それから被害者に光魔法で浄化させてやると、体に残った雷魔法が無くなって皆がゆっくり目を覚まし、何が起きたのか辺りをキョロキョロ見て、兵達がいることで自分が助けられた事に気づいていく。
 昨日と同じようにして、記憶を消して出身地を探っていく。これで一安心だ。

 ゾランがその様子を見ていたので、話しをしに行く。


「なぁ、俺、やり過ぎてねぇよなぁ?」

「え?あ、はい、大丈夫です。」

「いや、皆が俺をビックリした顔で見るからよ……」

「凄い能力なので驚いているんですよ。怖がってる訳ではないと思います。」

「今日は自粛したんだぜ?昨日リュカに怒って貰ったしな。」

「へぇ?リュカが怒ったんですか?」

「反省するくらいなら、初めからするなって。」

「アハハ!成る程!良いですね!」

「まぁな。あ、村人が収容出来たら俺に言ってくれ。思考を探って罪の重さを調べるからよ。」

「はい、助かります!ありがとうございます!」

「あの場所には当分兵達を常駐させておいた方が良いな。出入りする奴等は大半が裏組織の奴等だろうからな。」

「そうですね。そうします。」

「ほとぼりが覚めたら、俺、あの村欲しいんだけど。」

「え?村を?」

「あぁ。今回の事もそうだったけど、帰る場所がない、身寄りもない子供が多かったろ?俺の孤児院じゃ引き受けるのに人数が多すぎてな。あの村で面倒見れねぇかなって思ってよ。」

「それは!素晴らしいです!ありがとうございます!」

「仕事を探している女性も多かったしな。子供の面倒見ながら働いて貰うか。」

「流石エリアスさんです!僕も協力しますし、アクシタス国にもその旨伝え、援助させます!」

「それは助かる。でもまぁ、まだ裏組織の奴等の出入りがあると思うからな。それまでは何処かに仮住まいでもさせてやって欲しい。」

「分かりました!それは僕にお任せください!」


 魔物に襲われた村や街が多かったから、孤児になった子供も多くいた。面倒を見て貰える人や施設があるなら構わねぇけど、身寄りもなく何処にもいけない子供もいる。そんな子を引き取ったから、今俺の孤児院は子供が四十五人に増えた。あの場所ではこれ以上は引き受けるのが難しくなってきたから、この村はちょうど良かった。建物もあるし、家畜もいた。畑もあったし、まぁそれは形だけだったみてぇだけど、種を植えたら野菜も育つ筈だ。自給自足しながら村全体で子供の面倒を見る。うん、理想だな。

 ちょっと休憩してから、帝城にやって来た組織の奴等の思考を探り、罪の重さを横にいる兵士に伝えていく。これがなかなか疲れる。
 被害者の怯えや恐怖を楽しんで見ている映像が頭に流れ込んできたり、嫌がる女性や子供を無理やり犯したり、虫を殺すように無抵抗の人を殺していたり、マジで反吐が出るくらい気分が悪い!メンタルがヤられちまうな、これ。

 あまりに疲れて、四十人程見たところで今日は止めさせて貰う。これ以上続けたら俺が病んでしまうわ!けどこれは他の誰かが出来る事じゃねぇからなぁ。俺がするしかないんだよなぁ。

 あー疲れた。癒されてぇー。

 そう言えば、「今日は早く帰ってきてね!」って、朝リュカが言ってたな。

もうすぐ陽が暮れる頃だし、帰るとするか。

 
 


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