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第4章
帝都の異変
しおりを挟むカルレスからの連絡は、今帝都で起こっている事についてだった。
「ゾラン様、帝都を警備している兵達から、幾つも同じような報告が上がってきておりますのでお伝え致します。最近流行り病が蔓延しているとの報告があり、現在薬屋、診療所等に住人が殺到しておりまして……」
「流行り病……そうなのか? ではまず重症患者を集めて、回復魔法で治癒して貰おうか。回復魔法を使える者を集めて……」
「いえ、そうではないんです! 住人が薬や医者を求めて集まった所に一人の少女が現れて、その病を治療したと言うんです!」
「一人の少女?」
「それを確認した兵達や住人からの証言で、それは恐らくリュカさんではないかと……!」
「なんだって?! なぜリュカが……! いや……帝都は本当に流行り病に侵されているのか?! どんな症状だったんだ?!」
「報告では皮膚が黒くなる、と言っておりました。その範囲が広がり、動けなくなり呼吸も困難になると……」
「それは病なんかじゃない! 呪いなんだ! しかし何故その呪いが帝都に……いや、それよりリュカは今どこにいるんだ?!」
「分かりません! 捜索させておりますが、まだ見つかっていないようです!」
「分かった、すぐに戻るっ!」
帝都が呪いに侵されている!
何故だ?!
ゲルヴァイン王国とオルギアン帝国はかなり遠い。他国でこの呪いが広がったとは聞かなかった。
だとすれば……リュカが……?
知らずにリュカが呪いをオルギアン帝国へ持ち込んでしまったのか!
それを知って、リュカは呪いを終息させようとしているのか?!
ダメだ! 一人で出来る事じゃない! すぐに止めさせないと! リュカはまだ子供なんだ! そんな重荷を一人で背負う必要なんか無い!
部下に指示を出し、ひとまずゲルヴァイン王国を離れオルギアン帝国へ帰ることにする。
すぐに馬車を出し帝都へ向かう。警備している兵を見つけ、リュカを見なかったのか確認する。
リュカの容姿は珍しいから、すぐに目撃証言を得ることが出来た。けれど、その姿はすぐにその場から離れてしまうと言っていた。
どういう事なのか聞くと、薬や医者を求めて集まっている人々の元へ行き、手を当てて治療していき、その場の呪いを取り除いたら翼を出して飛んで行ってしまうのだと言う。
その姿を見た住人や兵達は、ただ何も言えずに茫然と見送る事しか出来なかったそうだ。
帝都には薬屋は十軒以上あるし、治療所や診療所はそれより少ないけれど、帝都中に点在している。体の不調であれば普通は病だと誰もが思うだろう。だから薬を求め、医者を求めて皆が同じ場所に集まる。
これを知ってリュカはその場所まで龍の翼で駆けつけているのか?!
よっぽど急いでいたのか、翼を出すのに躊躇いは無かったのか? それともそんな事も気にならない位、追い詰められている状態だったのか?!
すぐに兵達に黒の石を装備させ、リュカを見つけたら僕が来るまで待つように伝えて欲しいと告げ、薬屋や診療所へと馬車を走らせる。と同時に、その場所全てに兵達を派遣させる。
リュカはきっと一人で苦しんでいたはずだ。エリアスさんがいない状態で誰に相談する事も出来ずに……!
もっと僕はリュカを見ていなければならなかった! あれだけエリアスさんに頼まれていたのに! 小さな女の子を一人にして、こんな事をさせるまで気づかずに放っておいたなんて!
薬屋に着いた。そこにも人は多くいて、皆が安堵の表情を浮かべていた。遅かったか!
住人が上を向いている。
目線をたどると、黒い翼をはためかせて飛んでいるリュカの姿があった!
「リュカっ! リュカっ! 僕だ! ゾランだ! リュカーっ!!」
必死で大声で叫ぶ。けれど、その声はリュカには届かずに、リュカはフッと姿を消した。
離れていたから分かりづらかったけれど、リュカの腕や足は黒くなっていた……!
ダメだ、これ以上呪いを奪っちゃダメなんだ!
じゃないとリュカの体が持たない!
このままじゃリュカが呪いに侵されて、取り返しのつかない事になってしまうじゃないか!
その後もリュカを探したけれど、あれから見つけることは出来なかった。
どうすれば良い?
もし家に帰ったのなら、そこには立ち入れない。
いや、無理をしてでも立ち入る必要がある……
リュカをこのまま一人にさせる訳にはいかない。リュカはまだ子供なんだ。女の子なんだ。今家には他に誰もいないんだ。きっとずっと寂しかった筈なんだ!
すぐに魔力の高い者と護衛のSランク冒険者を数人連れて、ベリナリス国にあるエリアスさんの家の近くまで転送陣で飛んでいく。
そこは深い森の奥にあって、小高い丘の上にひときわ大きな樹木が生い茂っている。
あれがニレの木か……
その近くに家はあるんだろうけれど、それは見えないようにしていると、以前エリアスさんが言っていた。だからニレの木は確認できたけれど、家は見ることが出来なかった。
遠くからでも見える大きな大きなニレの木目掛けて進んでいく。
この森には魔物が多かったが、どの魔物も襲っては来なかった。僕たち人間を見ると、皆顔を背けて去って行くのだ。
きっとこれはリュカの成せる技なんだろう。そうやってリュカは魔物から人間を守っていたんだ。
もしかしたら、僕やエリアスさんが知らない所でそうやって、魔物が悪さをしていないか確認しに行っていたのかも知れない。
リュカがフェンリルに連れ去られて、そこから逃げて帰ってきた時、街が魔物に襲われて多くの人が亡くなった。
その事をずっと気にして、空間移動の力を手にした事もあって、リュカは一人で魔物の脅威から人々を救っていたんじゃないのか?
そんな時に呪いによって苦しむ人々を見たんじゃないのか?
何故気づけなかった?!
一時期、リュカはエリアスさんに、魔物から人々を救いたいと言っていて、仕事に同行する事を強く申し出ていた。何度かエリアスさんと出掛けて行ったけど、そう言えば最近そんな事はめっきり聞かなくなっていた。
その事に僕は気づくべきだったんだ。
何度も思い付く度にピンクの石を握る。けれどエリアスさんからの返事はない。きっとリュカもそうだったんだ。連絡したくても、声が聞きたくても聞けない、一人で家にいて、自分が広げてしまった呪いをどうすれば良いのか悩んで悩んで、そうして呪いに侵された人々を救う事にしたんだ。
情けない……! 自分の身近にいる人の変化にも気づけないなんて!
そこまで考えて、ハッと気づいた。
まさか、リオやテオの熱も呪いが原因だったのでは?! なら、ミーシャにもそれが移って……そうだ……帝城も今呪いが蔓延っている状態なんだ!
すぐにカルレスに連絡をし、帝城にいる者にも黒の石を身につけて貰うように言う。これでひとまずは問題ない、はず……!
とにかく、リュカの行動を止めないと!
丘を登ってニレの木に近づいて行く。けれど、何かに弾かれるような、何かに侵食されるような、身体中が何とも言い様のない感覚に襲われて、進んでいく度に体の自由を奪われるようで、段々前に進む事が出来なくなっていく。
それは僕だけではなくて、一緒について来させたSランク冒険者も、魔力の高い魔術師も、同じ様に進む事が出来ない状態だった。
それでもリュカに会わないと!
会って、もう大丈夫だから、あとは僕達に任すんだってちゃんと言ってあげないと!
それは今もリュカは自分を責め続けているんだと考えられるからだ……!
一歩一歩、先へ進んでいくけれど、その度に何かに阻まれるようにして、それ以上進む事が出来なくなっていく。
それでも……! それでも進まなきゃいけないんだ……リュカに言ってあげないといけないんだ!
「リュカ! 僕だ! ゾランだ! もうリュカは何もしなくて良いんだ! リュカはよく頑張った! だからもう大丈夫なんだ! 聞こえてるかい?! リュカっ!」
何とか近寄れる所まで行って、それ以上進めそうにない場所まで行ってから大声で叫ぶように伝える。
外はもう陽が落ちてきていて、辺り一帯がゆっくりと闇色へと染まっていく。
そうすると、この場所にあった阻む力、異常な程多い魔力は更に多くなっていくようで、今いる場所からも弾かれるようになって、後退せざるを得ない状態へとなっていく。
聞いてはいたけれど、ここはとんでもない場所だ。ここに平然といれる、いや、この場所が心地良いと感じられるエリアスさんとリュカは、やっぱり凄いとしか言いようがない。
弾き出されるようにしてその場を後にする事しかできなくて、僕たちは成す術なくオルギアン帝国まで帰って来るしか出来なかった。
リュカに僕の声は届いただろうか?
エリアスさん、早く帰って来てあげてください!
やっぱり貴方しかリュカは救えない……!
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