慟哭の先に

レクフル

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再会

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 部屋に戻って眠ってから、朝、一階の食堂で朝食を摂ってから白の石を探し求める事にする。

 青の石は比較的簡単に手に入れる事が出来た。場所さえ分かれば、石を手に入れるのは難しい事ではないのかも知れない。

 困るのは誰かが所有していた場合だ。

 適正の無い者は手にしてもその力を宿す事は出来ないけれど、だからと言って簡単に手放す事はないかも知れない。

 けど、今はそんな事を気にしていても仕方がない。

 白の石は……

 ここから西の方に小さく白く輝いているのが感じられる。

 あの方面にはオルギアン帝国がある。

 詳しい場所はもっと近づかないと分からないけれど、とにかく西へ向かうことにする。

 オルギアン帝国は前世で縁のあった場所だ。でも今世で行った事はない。今世で行った事がなければ、そこまで空間移動で行くことは出来ない。
 なので、まずは行った事のある所で一番近くの場所まで飛んで行く事にする。

 宿屋を出て少し歩いた所で、いきなり周りを武装した兵達数十人に囲まれ一斉に槍を向けられた。
 
 この兵達は……シアレパス国の兵ではない。
 
 これは……


「やっと見つけたぞ! お前が『禍の子』だな!」

「捕まえろ! 慎重にだ!」


 ロヴァダ国の兵か? という事は、ロヴァダ国が私の村を襲ったという事だったのか……?

 ギリって唇を噛み締めてから、その場を空間移動で去ろうとするも、それは出来なかった。
 何がどうしたのか、と思って周りを見ると、取り囲む中に数人術者がいて、私の力を封じているようだった。

 ジリジリとにじり寄って来る兵達に、雷魔法で感電させようとするも、それも発動しない。私の事を知って対策でもしてきたのか?!
 
 このままでは捕まってしまう……それはダメだ。今ここで捕まる訳には行かない……!

 兵達は槍を私に向けて、逃げる隙を与えようとしない。これ以上近寄られたら、更に回避出来なくなる。

 私は勢いよく飛び上がった。高く飛び上がった所で風魔法を身に纏うと、体はフワリと浮いた。やはり上空では術者の力は届いていなかった!

 そのまま空間移動をする。

 
「逃がすな!」

「矢を放て!!」


 一斉に矢を放たれたが、私は空間移動でその場から何とか逃れる事が出来た。
 しかし、なぜ私が『禍の子』だと分かったのか……ロヴァダ国に立ち入ったから、私を『禍の子』と言った預言者のテリトリーの中に入ったという事なんだろうか……?

 とにかく、あの場を離れる事が出来て良かった……

 ホッとした瞬間、体に激痛が走る……!

 あぁ、さっきの矢は私を貫いていたのか……左腕に矢が見える。それから右の下腹部にも……

 そう言えば私は何処に移動してきたんだ……?

 見える所には木々が生い茂っていて、それだけではここが何処だか分からない。
 自分で来た筈なのに分からないって、なんて間抜けなんだろうか……

 もうあの宿屋には行けないかな……せっかくエリアスが買い取ってくれたのに。
 じゃあ何処に行こうか……? 私に行く場所はあるのか? 何処に行けば良い? 誰が私を迎えてくれるというの……


 私は今も一人だ

 行く場所なんて

 何処にも  

 ない


 座り込むようにして木を背にして、それから目の前が暗くなっていって、私はその場で眠ってしまったようだった。


 

 体が痛い……

 そうだ、矢を受けて私は移動してからその場で倒れてしまったのか……

 ゆっくり目を覚ますと、ベッドに寝かされていた状態だった。
 体を起こそうとして、痛みが体を襲ったのでそのまま力を抜いてまたベッドに身を任す。

 ここはどこだろうか……
 誰かが助けてくれたのか?

 辺りを見渡す。造りのしっかりした部屋の中だ。美しく重厚感のある家具があって、調度品も高価な物が並んでいる。
 ここは庶民の部屋ではなさそうだ。
 
 そうやって周りを確認していると、扉がノックされて誰かが入ってきた。
 それはメイドの格好をした明るい栗色の髪をツインテールに結った女の子だった。
 彼女は私を見て嬉しそうに笑った。


「あ! お目覚めになられたんですね! 良かったです!」

「君が助けてくれたのか?」

「いえ! 助けられたのはルディウス様です!」

「え?! ルディウス?!」

「はい! あ、お呼び致しますね!」


 メイドはそう言うなり急いで部屋を出て行った。暫くして、バタバタと足音が鳴ったと思ったら勢いよく扉が空いて男が駆けつけるようにして入って来た。


「アシュリー!」

「ディルク……っ!」


 そこにいたのは私の兄のディルクだった。

 驚いて起き上がろうとして、また痛みに襲われてそれもできなくて……

 会いたかった! 

 会いたかった!!
 
 触れたくて、何とか両手を伸ばす。その手を取って、ディルクは私を抱きしめた。


「アシュリー! 会いたかった!」

「私も……! ディルク! ……いっ……つっ!」

「あ、すまない! まだ痛むんだな、悪かった!」

「ううん、大丈夫っ……ディルク、会いたかった! 今までどうしてたの? ここはどこ? あ、お父さんは?!」

「あぁ、ちゃんと話す。だから落ち着こう。な?」

「うん……うん、分かった……」


 嬉しくて涙が込み上げてくる。ベッドの横の椅子にディルクは腰かけて、私の手を両手で握りながらゆっくり話してくれた。

 私が空間移動で来たのはアクシタス国の北側あたりだった。何故そんな場所に飛んでいったのかは自分でも分からないけれど、行った事のある場所に違いなかった。

 兄の事をディルクと呼んでいるけれどそれは前世の名前で、今世ではルディウスと言う名前だ。けれど、生まれてから喋れるようになってからは、私たちは二人の間だけで自分たちを前世の名前で呼び合う事にした。
 その方が前世の記憶を忘れないでいられそうだったからだ。

 ディルクも石を探していたんだそうだ。そして、やっと紫の石を手に入れる事が出来たようで、私に会おうとして空間移動でやって来た先がアクシタス国の森の中だった。
 そこで私が倒れているのを見つけて、凄く驚いたって言っていた。


「けど、助けられて良かった。あんな森の中だと誰にも見つけて貰えなかったかも知れないからな。間に合って良かった……」

「ありがとう。ディルクのお陰で助かった。ねぇ、お父さんは?」

「5年前に病気で、な……最後まで母さんとアシュリーの名前を呼び続けていたよ」

「そう、だったんだ……お父さんに……会いたかったな……」

「もっと早くに見つけてやりたかった。すまない、遅くなったな……」

「ううん! そんな事は……けど何故ここに? って言うか……ここはどこ?」

「ここはオルギアン帝国だ」

「オルギアン帝国……」

「父さんはオルギアン帝国の皇族だったんだ。母さんと出会って、お互い一目惚れだったらしくてな。父さんは身分を捨てて母さんの元へ来たって言ってたよ。村が襲われて離れ離れになって、父さんは皇族の力を使った方が母さんとアシュリーを見つけられると考えたらしくてな。それでここに戻ってきた」

「そうだったんだね……でも、つくづく縁があるよね……この国と……」

「ハハハ、そうだな。前は皇帝になってしまったがな。今は少し仕事を手伝いながら、気ままにやってるさ。皇帝は叔父がしっかり勤めているのでな」

「そうなんだね……」

「アシュリーは何があった? 母さんは……」

「ごめん……お母さんを……守れなかった……」


 私はこれまでの事をディルクに話して聞かせた。ディルクは私のせいじゃないって言ってくれたけど、それでも気持ちが晴れる事はない……
 けれど優しく微笑んでくれるその存在に、心がほぐれていくようで……

 
「アシュリー、誰に襲われた? なぜこんな怪我をしたんだ?」

「多分、ロヴァダ国の兵だったんじゃないかと思う。私を『禍の子』って言って襲って来て……」

「まだそうやってつけ狙われていたのか?! アシュリーは何もしていないのにっ!」

「向こうには向こうの言い分があるんだよ。それを肯定するつもりはないけど……」

「それでもだ! しかし……アシュリーに回復魔法を施しても傷が治らない。これは前からなのか?」

「分からない。私は回復魔法を使う事は出来るけど、自分に使う事は無かったから……」

「そうか……アシュリーの能力は確か、左手で触れるとその魂を奪ってしまい、右手で触れると記憶を操る事が出来る、だったな?」

「うん……」

「俺は左手で触れると能力を奪う事が出来、右手で触れると能力を与える事ができる」

「そうだったね。誰にも触れられなかった?」

「それはアシュリーもだろう?」

「うん……っ!」


 涙がポロポロ溢れてきて、暫くは涙を止めることができなかった。

 母以外に触れる事が出来なかった。触れると私はその魂を奪ってしまう。そうしたくなくても、その命を奪ってしまうのだ。

 精霊の血を受け継ぐ者とは触れても何も起こらないけれど、他者と触れると異能の力は容赦なく奪ってゆく。

 触れたかった。

 触れられたかった。

 人の温もりを感じたかった。

 もう大丈夫だよって言われたくて、私はずっと触れたくて、そして抱きしめられたかったんだ……

 



 
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