慟哭の先に

レクフル

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討伐

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 アシュリーが帝城にいる。

 そう思うだけで、凄く心が安定する。

 やはり俺たちは離れて暮らすなんて事はしてはいけなかったのだ。一つの魂を持つ俺たちは、互いに求め合うのは仕方のない事だからだ。

 アシュリーにウルリーカを会わせると、二人は嬉しそうに抱き合った。

 俺が父に連れられて帝城に戻ってきた時、父が子供を連れ帰ったとして顔合わせがあり、その時に俺たち親子は皇族たちから吟味されるように嫌な目付きでジロジロ見られたのだが、その時ウルリーカだけが俺に微笑えんで優しく接してくれた。
 そして後日、自分は生まれ変わりでディルクであると告げ、アシュリーと離れ離れになった事実を知らせた。
 その時からウルリーカは俺の一番の理解者となった。

 仕事も重要なポストに就かせる事はせず、いつでも自由に動けるように、主に雑務をこなすのみで良いとされる仕事を与えられた。これには感謝しかない。

 それでも官僚達が無能だと国が立ち行かない。時々垣間見る不正等を見付けては報告し修正し、改善に勤めていく。これがなかなかに骨がおれる。放っておけば良いのかも知れないが、知ってしまったら見過ごす事が出来ない性分だ。
 そんな訳で、自らに仕事を増やしてしまう事が多かったが、それでも前世の頃よりは比較的に自由がきく。

 いずれ俺はアシュリーと一つになる。だから俺は責任のある立場になってはいけないのだ。

 アシュリーにウルリーカを会わせてから、毎日のように二人は会って話をするようになった。楽しそうに話をするアシュリーはとても嬉しそうに微笑んでいて、その笑顔を見れるだけで俺も嬉しくて仕方がないのだ。

 そしてその間、俺はアシュリーのすべき事をしに行く。

 それはこの世界にいると言われる5人の英雄を滅する事だ。

 恐らく英雄と言われている者の正体はエリアスなのだろう。今エリアスはとてつもない力をその身に宿している。その力で世界の安寧を担っているのだろう。

 しかし、アシュリーはエリアスの魂を解放しに生まれてきたのだ。アシュリーの左手の能力は触れた者の魂を奪う、と言った最悪とも思える能力だ。これによりアシュリーは身内以外では、精霊の血を受け継いだ者にしか触れる事ができなくなっていた。
 今アシュリーには能力制御の腕輪があるが、それまでは誰にも触れられずに12年間過ごしてきた筈だ。

 そんな能力を持って生まれたのも、不死になってしまったエリアスを天に還す為だと、俺は思っている。

 そしてその為には、世界に蔓延っているエリアスの分身とも言える存在を滅していかなければならない。
 
 恐らくそれが『禍の子』と言われる由縁なのだろう。世界の平和を維持する存在を滅しに来たのだから、それを『禍』として阻止しようとするのは仕方のない事かも知れない。
 
 だが、そんな事は関係ない。

 400年前は英雄等いなくとも、世界は自力で何とかできていたのだ。皆が今、英雄と言う存在に甘えているに過ぎないのだ。
 というか、エリアスが甘やかした、と言ったところか。

 アイツは優しい。自分よりも常に人の為に動こうとする。しかし、それが全てに関して良いことではないのだ。

 それを分からせないといけない。アシュリーはこの世界を守る事よりも、たった一人の男を救うためにこの世に生まれてきたのだ。

 その負担を少しでも俺が受け持ってやりたいと思っている。だからアシュリーが療養中に、出来る限りエリアスの分身である英雄の存在を滅する事にする。

 情報は常に各地にいる諜報員に報告させていて、ある程度どこにどの英雄がいるのかは確認出来ている。
 今一番確実に分かっているのは、武力に秀でた英雄だ。数日前からその存在を確認出来ているようで、その姿を捉えたと連絡が入った。

 それを、聞いて俺はすぐにその場へ向かった。

 やって来た場所はゲルヴァイン王国の北の方
に位置する山間の小さな村だった。エゾヒツジを飼い慣らしている牧場主がいて、広大な山間の土地でエゾヒツジを放牧させていた。

 その牧場主が武力に秀でた英雄と思われた。

 一見、どこにでもいる三十代半ば頃のエゾヒツジ飼いの男だが、その体に潜んでいる魔力が異常に高いのが分かる。と言うか、普通の人であれば、魔力は体全体に馴染んでいるのだが、この男の魔力は心臓部分に異常に高濃度に留まってあるのが何とも異様なのだ。

 こうやって普通に村人に馴染んで生活しているんだな。監視しながらあちこちを旅するでもなく、一つの所に留まって、気配を飛ばして危険を察知し対処していく、といった具合にしているのか。

 ……よくよくエリアスは人が好きなのだと思い知らされる……

 誰かに関わって生きていきたいのだろうな。強くなりすぎた為に、大切に思う人から離れるように生きてきたエリアスたが、それでも人を求めてしまうのだな。でなければ、こんな風に村人の一人として生活する事などない。

 エゾヒツジの様子を穏やかな表情で見ていて、その近くで遊んでいる子供達を愛しそうに眺めているその眼差しは、顔は似ていなくともエリアスのそれだと感じさせるのだ。

 この男を俺は殺さなくてはならない。

 世界を守るため、人々の生活を守るために存在するこの男を、俺は殺さなくてはならないのだ。

 これはエリアスが作りだしたモノなんだろう。感覚を辿ると、人間の温かみが感じられない。が、村人からすればこの男はよく働く牧場主で、子供の面倒もよく見てくれる優しい人という存在なのだろう。

 思わずその場で躊躇ってしまう。

 俺とエリアスは前世では友人だった。俺はそう思っている。容姿は違うが、その男は雰囲気がエリアスに似ているのだ。
 しかし、やはりこれをアシュリーにさせる訳にはいかない。全ての負担をアシュリーが背負う必要はない。これは俺が請け負わなければならないのだ。

 意を決して威圧を放って男に近づくと、すぐにその威圧を感じ取って男が勢いよくこちらを見る。
 ここは子供達がいる。この場所では戦う事は避けたい。

 殺気を放ち、ついてこいと言わんばかりに顎で山の方へ誘い、その場を去ると男も俺の後を追ってきた。
 此方に来るときに、火魔法を上空に上げていたから、それを見た親は子供を迎えに来るだろう。ちゃんと子供の事を考えて行動させているんだな。流石はエリアスの分身だ。

 山の中腹にある程度の広さがある場所で俺は男を出迎えた。  

 男は俺を睨み付けるようにして威圧を放っている。それだけで体がビリビリしてくる。

 ここで俺はこの男と戦い、そして殺す。

 これは仕方のない事なんだ。

 この男はエリアスではない。

 だから気に病むな。

 自分にそう言い聞かせて、俺は剣を抜いた。
 
 
 
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