慟哭の先に

レクフル

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リュカの記憶

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 朝食を済ませて、ウルと一緒に帝都に行くことになった。

 とにかく外に行くのは良いけど近場でってお願いされて、私も帝都は今世では初めてだったから行きたくなって、ウルの提案にアッサリ応じた。

 オルギアン帝国の帝都エルディシル。

 ここはとても大きくて、最先端の物で溢れている。高級感のある物から庶民的な物まで全てがここにはある、といった感じだ。大神殿にはいつも多くの人が集う。大きな劇場や美術館もあるから観光客も多い。

 露店もあって、それを見ているだけでも楽しめる。ここは前と変わらず凄く賑やかで活気がある。帝城の近くは高価な物を扱う店が多いけど、離れていくと徐々に庶民的なお店が増えてくる。
 ウルと話しながら歩いて店に入って色んな物を見て、それから広場にたどり着く。

 そこには噴水があってベンチがあって、小さな子が遊んだり休憩したりできる憩いのスペースとなっている。

 その一角に『黒龍の天使』像があった。

 思わず前まで行って、『黒龍の天使』像を……リュカの像を見詰めてしまう……


「姉ちゃとそっくりやなぁ」

「そう、かな? リュカの方が可愛いよ」

「勿論、リュカも可愛いで! ここの『黒龍の天使』像がな、一番リュカに似てるねんて。兄ちゃが言うてたらしいねん」

「そうなのか? そうなんだ……」

「その、リュカの魂って……今は姉ちゃが?」

「ディルクに聞いたの? ……私、リュカの魂を強引に連れて来ちゃったんだ。どうしてもエリアスにリュカを会わせてあげたくて。私よりリュカはきっとエリアスに会いたいと思うし、エリアスもリュカを求めてると思うから……」

「そんなん、兄ちゃはリュカだけやなくて姉ちゃにも会いたいに決まってるやん! リュカもそうやと思うし!」

「どうなんだろう……」

「兄ちゃは絶対姉ちゃを今も好きな筈やで! アホみたいに姉ちゃの事ばっかりやねんから!」

「……自信がなくて……」

「え?」

「愛される自信がない……」

「そんなん……!」

「あれからもう400年も経ってる。ずっと会えもしないのに、想い続けるなんて……」

「姉ちゃもずっと兄ちゃなんやろ? 一緒やん!」

「でも、他に誰かがいても仕方がないよ。きっと一人は寂しくて辛かった筈だから……」

「もう! 弱気になりなや! 姉ちゃらしくないで! 大丈夫や、絶対に! あたしが保証する!」

「そうだと良いんだけどな……」


 ウルに励まされて、私も何とか不安な気持ちを払拭させる。そうだな。こんなに弱気じゃダメだ。もし例えそうであったとしても、エリアスには笑顔で答えたい……あ、そんな考えがいけないんだった。

 ベンチに座って一休みする。ウルが露店で売っていたパイナポーって串に刺さった果物を買ってきた。二人でそれを食べる。冷たく冷やしてあって凄く甘くて酸味があって美味しい。
 
 不意に心臓が煩く脈打つ。胸を治めようとして手を置いて何度も何度も深呼吸する。それを見てウルは焦る。


「姉ちゃ、どうしたん?! 大丈夫?!」

「う、ん……大丈夫……」


 そっか……ここでリュカもパイナポーを食べたんだね。それはリュカにとって楽しかった思い出だったんだね。目の前は露店があって人々が行き交っているけれど、それは今の光景じゃない……? 

 リュカが見てる400年前と思われる光景がそこにあって、ふと横を見ると30歳中頃程のメイドの姿が見える。私を見て微笑みながらパイナポーを食べている。
 あぁ、そうか……こうやって一緒に買い物に連れてきて貰って、ここで私と同じように休憩したんだね。

 リュカの見ていた世界を垣間見れて、リュカの感情も流れてきた。
 
 リュカはこの場所が、ここにいる人達が大好きだったんだね。リュカの優しくて穏やかな感情が流れてくる。だから守りたかった。自分が広めてしまった呪いを、自分で終息させたかった。
 
 私がやらなくちゃ。私が他の国の村に蔓延していた呪いを帝都に広めてしまった。だから私が助けなきゃ。じゃないとエリアスが帰って来ない。自分のした事の責任はとらなくちゃ。だから私が皆の呪いを奪うんだ。私がやらなくちゃいけないんだ。私が……


「姉ちゃ!」

「え?」

「どうしたん?! どっか痛いん?!」

「あ……」


 知らずに涙が出ていた。ウルに声を掛けられて、周りを見たら今見えている風景に戻っていた。思わずキョロキョロ見渡して、さっき見えた光景と違うことをもう一度確認する。

 まだリュカの気持ちが胸に残っている。けど、すぐに涙を拭ってウルに大丈夫って微笑む。

 私を気にするウルだけど、本当にもう平気だと言って帝城へ戻る。とにかく今はリュカの感情を大切にしたかった。
 
 疲れたから休みたいって言って、一人でベッドに横たわる。
 今はリュカは落ち着いている。心臓が激しく脈打つ事もないし、思考はちゃんと自分のものだ。
 
 初めてこんな事になって驚いたけど、リュカを感じられた事が凄く嬉しかった。そして、凄く悲しかった。その時リュカが感じていた事が、ダイレクトに自分が感じたような感覚になった。

 はじめは楽しかった気持ちが流れてきた。でも帝都にいる人々を見て、徐々にリュカは何かを思い出すように感情が溢れ出してきた。
 怖くって悲しくって、そしてエリアスに会いたくて助けて欲しくてどうしようもなかった、そんなリュカの切なる感情。自分が呪いを奪って人々を助けなきゃ、エリアスが帰ってきてくれないって思ってた。

 リュカはあの時こんな気持ちだったんだね。
 ごめん、助けてあげられなくて……

 空間収納に入れていた魔石を取り出して胸に抱く。

 
「リュカ、ここにね、少しだけエリアスがいるんだよ。リュカもエリアスに会いたかったんだね。ずっと……ずっと一人でエリアスの帰りを待ってたんだね。会わせるから……きっとエリアスを見つけるからね……」


 まだあの感覚を思い出せる。リュカの不安な気持ちに胸を占領されてしまいそうになる。でもそれは仕方がない。リュカの魂は私より大きいんだから。

 慰めるように、何度も何度も「ごめんね、もう少し待ってね」って呟く。まるで幼い子供をあやすように、優しく優しく労るように。

 はやく……はやくリュカにエリアスを会わせてあげたい。

 ねぇ エリアス……

 今どこにいるの?
 

 

 
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