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リュカのゴーレム
しおりを挟む次の日もリュカを模した英雄を探し出す為に、昨日と同じようにメアリーとウルに言ってアーテノワ国にやって来た。
一度行った事のある街だから、空間移動で来ることは可能となった。
この街には数日は来ないだろうって事だったから、別の街へ行く事にする。乗り合い馬車に乗り、今いた街から北の方へ1時間半程かけて別の街へやって来た。
乗り合い馬車も昨日で少し慣れたから、まだ揺れて人に触れてしまうのにはドキドキしてしまうけど、落ち着いて乗っていられた。
街に着いて、馬車を降りて歩いていく。
不意に目の前の光景が変わりだした。
目の前に見える景色は今とは少し違う。建物も人々も今の人じゃなくて……
人々が私を見て恐怖におののいて逃げ出していく。どうして? って思っていたら、槍を持った人達に私は取り囲まれた。
えっ?! なんで私に攻撃してくるの?!
その状態に驚き戸惑っていると、槍で突き刺され、剣で切りかかって来られる。あちこちから石も投げられて、痛くて怖くて恐ろしくて、堪らずに私は翼を広げてその場から逃げ出した……
「あの、大丈夫ですか?」
「……え?」
周りを見ると、そこは今馬車から降り立ったばかりの街で、通りがかりの小さな子供を連れた女性が私を見て心配そうに声を掛けてくれていた。
私は震えてその場にうずくまった状態でいたのだ。声を描けてくれたという事は、私を心配してくれた、という事だ。だからこの人は悪い人じゃない。この人は私を攻撃したりしない。
何度もそうやって自分に言い聞かせて、ドキドキした心臓をおさめるように胸に手をやって落ち着かす。
「……大丈夫です……ありがとう。馬車に酔ったみたいだから、少し休めば落ち着きます」
「なら良いんですが……」
心配そうにしながらも、女性は子供を連れて去っていった。
まだ震えが止まらない。リュカの記憶がまた甦ったんだ。
黒龍の父親が亡くなって、リュカは人里に降りてきた。そこで今見えた事が起こったのか……
優しくて可愛い存在と教え込まれた人間は、リュカに容赦なく襲いかかった。それは凄く怖くて悲しくて、いたたまれない気持ちがずっと胸を燻り続ける。
人の目を逃れて、空間移動で帝城の部屋まで戻ってきた。あの場所にいるとずっと恐怖がついてまわって、立っていることすら出来なくなってしまうからだ。
「リュカ……怖かったね……辛かったね……一人になってどうしていいか分からなくて、リュカは人間に助けを求めただけだったんだよね……」
ベッドに倒れこむようにして横になって、リュカの魂を静めるように、リュカの気持ちに同調する。けれど、リュカの受けた傷やその時の感情が自分に起こった事のように思えて、人へ対する恐怖がまだ自分自身に残っている。
これを幼かったリュカが経験したんだ……
怖くて誰かに慰めて欲しくって、でも人知れず行動している事からそれを求める訳にはいかなくて、少しの間ベッドに横になったまま、エリアスの魂の欠片が付与された魔石を胸に抱く。
エリアスが傍にいてくれているような感じがして、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。リュカもきっとそんな感じなんだろうな。
少し休憩して、何とか落ち着きを取り戻す。
ゆっくり起き上がり窓の方を見る。その方角にはアーテノワ国がある。さっきの事があるから行くのが躊躇われる。また怖い思いをするんじゃないかって、そんな事ばかり考えてしまう。
いつから私はこんなに臆病になってしまったんだろう……?
誰かに守られるのは心地よかった。優しい人達の中で、食事に困る事なく温かい場所で眠れる事はなんて幸せな事なんだろう。それを当たり前の事だなんて思ってはいけない。私は自分の力でこの環境を手にした訳ではないのだから。
大きく息を吸ってから意を決して、もう一度さっきの街まで空間移動で行く。行き交う人々が私に攻撃してくるような気がして、そこからなかなか足を踏み出せない。
私は旅をする中で、獣を倒して盗賊を倒して魔物を倒して、それは生きていく為に必要な事として、倒した獣を食料とし、魔物を売りさばき、盗賊の持ち物を我が物としてきた。
だから恐怖を感じるなんて、そんな事はないはずで、これは私が感じている事じゃなくてリュカの記憶で錯覚しているだけなんだ。
そう何度も自分に言い聞かせて、何とか一歩踏み出す。
今もまた、人々が私を恐ろしいモノでも見るような目で見て逃げ出していく様が、今見えている景色とダブって見えている。それだけリュカの恐怖が強かったって事なんだろう。
飲まれるな。飲まれちゃいけない。また体が震えてくる。怖くて誰かに助けて欲しくって、すぐに足を止めてしまう。
そこで見た。
目の前を楽しそうに歩くリュカの姿を。
「リュカ……?」
違う。そんな訳はない。リュカじゃない。だけどその姿は、リュカが成長したらこんな姿になると思われる容姿をしていた。
黒に銀が混ざったようで艶やかなストレートの長い髪に黒い瞳。顔は私に似ているようで、露店の男が言っていたように、いるだけで華やかで周りが安らぐという感覚になる。
エリアスの想いがつまったゴーレム。これは間違いなく、エリアスが作ったゴーレムだ。リュカを模したゴーレムだ。
このゴーレムを……リュカの姿をしたゴーレムを、私は倒さなくてはいけない。
エリアス……
このゴーレムを作った時はどんな気持ちだったの?
愛しい我が子を愛でるように、愛情を込めて作ったんじゃないの?
人々から愛されるように、そんな想いを込めて作ったんじゃないの?
「ごめん……ごめん、エリアス……」
知らずに涙が溢れてくる。でも泣いちゃダメだ。判断が鈍ってしまう。考えすぎちゃダメなんだ。
通りすぎるリュカを模したゴーレムの後をついていく。近づいて肩に手をかけようとした時、凄い威圧で手が弾かれてしまった。そうか、近づき過ぎると、この威圧にヤられてしまうんだな。
自分にも威圧を纏い、ゴーレムの威圧に抗うようにして肩に手を置く。そうされた事に気づいたゴーレムは振り返る。
あぁ……
なんてリュカにソックリなんだろう……
思わずこの手で抱きしめたくなる。生んであげることも育ててあげることも出来なかった私に、母というのには程遠い存在の私にそんな権利等ないというのに。
唇をギュッて噛み締めて、リュカと共に空間移動で森へとやって来た。
ここはイルナミの街の南門から出た所にある森の中。前に聖女のゴーレムをディルクが倒した場所だ。少し拓けている場所で、街から離れているので何かあっても被害は街へと響かない。
ゴーレムは辺りを見渡して、さっきまでいた場所とは違うことを確認している。
そして、ここに連れてきた私を敵と見なしたようだ。
そうだ。それでいい。
私はこのゴーレムを倒すのだから。
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