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一つに
しおりを挟むアシュリーとルディウスが結婚するかも知れない。
そんな話を聞いて、俺は一人で落ち込んでいた。
あれからルディウスに会うとアシュリーの事で詰め寄ってしまいそうだったから、俺はルディウスとはなるべく会わないように心掛けた。まだ俺の正体を明かしていないしな。
俺の大好きな二人だ。幸せになってほしい。けど自分が未熟者過ぎて、なかなかアシュリーを諦められそうもない。
あれからアシュリーの様子を見るのも怖くなって止めた。本当に俺は小ぃせぇ男だな!
そんな悶々とした日々を送っていた頃だった。
夜、仕事を終えて空間移動で帰ってきた時。
魔力を多く含むニレの木に癒して貰おうと、木のそばに戻ってきたら、そこにはアシュリーがいた。
突然の事にビックリして、何も言葉にする事が出来なかった。
会いたかった。すっげぇ会いたかった……!
会って抱きしめて、もう離さないって自分のモノにして、誰にも渡さないように繋ぎ止めて……
そんな自分勝手な感情だけが胸の中を占領する。
もうディルクの事とかどうでもいいから、俺の元に来てくんねぇかな? やっと目の前で姿が見れて、アシュリーの気持ちとかよりも自分の気持ちを優先させちまいそうになる……
一歩踏み出して、手を伸ばそうとした時だった。アシュリーは俺に謝ったんだ。ごめんって、そう謝ったんだ。
その言葉に思考は止まる。
それからアシュリーの様子を伺う。
あぁ……そうか……左手の薬指の指輪……
その指に指輪を嵌めているって事は、ディルクの気持ちを受け入れたって事なんだな?
アシュリーの後ろの方に、ディルクの姿が見えた。そうか。俺に結婚する事を報告しに来たってことか。
そうか……
覚悟はしてた。俺はアシュリーの幸せを一番に考えるって決めた筈だ。だから辛いけど、この二人を祝福してやる。心から幸せになって欲しいって気持ちは本当だ。それが俺じゃなかった事には虚しさしかねぇけどな……
アシュリーは俺を振る事に罪悪感を持つかも知れない。アシュリーは悪くない。何も悪くない。
だからありもしない事を言った。俺にもそんな人がいるんだと。だから気にしなくて良いんだと。
そう言った俺を見て、アシュリーは悲しそうな顔をして涙を流した……
なんでだ? なんで泣くんだよ? 泣く必要なんかねぇだろ?
さっきからアシュリーの感情を読み取りたいのに読めねぇんだよ。一番知りたい人の気持ちが全く分からないって、こんなにもどかしいのかよ!
そんな状況に戸惑っていると、目の前からアシュリーが消えた。空間移動で何処かに行ってしまったのか?
なんでアシュリーが泣いているのか分からないまま、俺はその場に茫然と立ち尽くしていた。それを見ていたディルクが俺の元まで走ってやって来る。
「エリアス! どうした?! アシュリーは何処に行った?!」
「え?! 知らねぇ! 急にどっか行って……」
「アシュリーに何を言った?!」
「いや、だから……ルディウスはディルクなんだろ?! で、ディルクはアシュリーと結婚するんだろ?! 俺はそれを受け入れようとしただけで……!」
「な、に……?」
「アシュリーはディルクの贈った指輪を左の薬指に嵌めてたじゃねぇか! それはディルクとの結婚を受け入れたって事だろ?! 良かったじゃねぇか!」
「貴様……っ!」
言うなりディルクは俺を殴り飛ばした。思いっきり左頬を殴られて、俺は何が何だか訳が分からなかった。なんで俺が殴られなきゃなんねぇんだよ?! 殴りたいのは俺の方なんだぞ!
すぐに立ち上がって、ディルクに詰め寄ろうとしたところで、胸ぐらを両手で掴まれ、ドカッと木に背中を押し付けられる……!
「お前は何も分かっていない! 俺達がどんな思いでこの世に生まれてきたのか!」
「そ、んなの、分かる訳……!」
「アシュリーはお前との約束を守る為だけに生まれてきたのだ! お前を助けると、必ず約束は守ると言ったあの日から!」
「え……約束……?」
「エリアスの魂を救うと! その為だけに!」
「魂を……」
「アシュリーはリュカの魂をその身に取り込んで! 自分より大きな魂に耐えられず、今立つのもやっとな程なんだぞ?!」
「リュカの魂?! なんだ?! どういう事なんだよ、それ!!」
「とにかく、俺はアシュリーの元まで行く! こんな奴の為に、俺はアシュリーを諦めなくてはならないのが悔しくて仕方がない……っ!」
「待ってくれ! まだどういう事か分かんねぇけど、俺が誤解してたって事なのか?!」
「それ以外何がある?! 400年前から、アシュリーはお前だけを愛し続けているんだ! その想いも分からずに……!」
「マジか?!」
「俺達が簡単に生まれ変わってきたと、偶然に生まれ変わってきたとそんなふうに思わないでくれ……! どれ程の状況でここまでたどり着いたか……頼むからそれを無下にしないでくれ……!」
「分かった……! まだよく分かんねぇけど、俺が悪かった! だから俺もアシュリーの所に連れていってくれ!」
「そうしてもらう! 当然だ!」
ディルクと共に空間移動でアシュリーのいる場所まで飛んできた。
そこは暗い森の中……と認識した途端に、大きな炎が目の前に表れた。
何がどうなっている?!
「アシュリーっ!!」
「え?!」
ディルクが走って行った先にアシュリーは倒れていた……! そのアシュリーに向かって攻撃をしようとする人物は……ディルク?!
いや、違う! これは俺の作ったゴーレムだ! ディルクに似せて作ったゴーレムがなんでアシュリーに攻撃してんだよ?!
「やめろぉぉぉっ!!!」
まだアシュリーに魔法で攻撃しようとするゴーレムの動きを、水魔法で包み込むようにして止めてやる! その水に溶けるように、ゴーレムは姿を崩していった。
すぐにアシュリーとディルクの元へ駆け寄る。
アシュリーはぐったりしていて、意識はない状態だった。すぐに回復魔法を施す。けど、アシュリーは目を覚まさない。
「エリアス、アシュリーに回復魔法は効かないんだ!」
「え?! な、なんでだよ!」
「知るか! しかし、何故アシュリーは襲われたんだ?!」
「あれは俺の作ったゴーレムだった……けど無闇に人に危害を加えるようにはしてない筈なんだ!」
「では何故……いや、今はそれより、アシュリーが心配だ! 炎を受けたが火傷は無さそうだが……アシュリー! アシュリーっ!」
「セームルグ!」
俺の体が光輝いて、それからセームルグが姿を現す。
「セームルグ、アシュリーが炎にやられた! でも火傷はしてねぇ! けど目覚めねぇ!何が理由でこうなってんだよ?!」
「アシュリーさん! ……火傷は……右手の指輪で守られましたね。ですがかなり強力な魔法だったのか、防ぎきれずに目を負傷されています!」
「なんだって?!」
「しかし目覚めない理由は……リュカ……リュカの魂がこの体にあるのですね?! なんということを……!」
「どうなっているんだよ?!」
「こんな体でよくここまで……そうとう苦しんでいた筈ですよ? 自分よりも大きな魂をその身に受けて、正常でいられる訳がない!」
「アシュリーはエリアスにリュカを返してやりたいと……! 自分よりもリュカはエリアスを求めているだろうし、エリアスもそうだと言って……!」
「なんだよ、それ……!」
「そんな事、許される筈はありません! 禁忌を犯したのですよ! 貴方たちは!」
「分かっている! だから俺達におそらく次はない! 今世限りの命だってことくらい、全て分かっている!」
「それ、マジか?!」
「とにかく、このままではアシュリーさんは持ちません! アシュリーさん自身が生きようともしておりません!」
「な、なんでだよ?!」
「お前のせいだろうが!」
「ディルクさん! 止めてください! 今エリアスさんに詰め寄っても仕方ないでしょう?!」
「すまねぇ……俺、何も知らずに……!」
「セームルグ……俺はお前に会わなければならないと思っていた。お前にしか無理だからな……」
「ディルクさん……良いのですか……?」
「元よりそのつもりで生きてきた。俺の全てはアシュリーの願いを叶える為にある……!」
「覚悟をなさっているのですね……」
「な、に……? なんの話をしてんだ……?」
「アシュリーを救うためだ。俺の魂をアシュリーと一つにする」
「また一つになって別の人物になるって言うのか?」
「いや、違う。アシュリーを生かす為に、俺をなくす。俺の魂だけをアシュリーに渡すのだ」
「待てよ……そんな事をしたらディルクは……!」
「覚悟の上だと言った筈だ。これはセームルグがいないと出来なかった事だ。それにそうしなければアシュリーはリュカを産む事は出来ない。前と同じようになるだけだ」
「確かにそうですが、本当に良いのですか?!」
「元は一つの命だ。それが戻るだけだ」
「けどディルク!」
「エリアス……頼むからもう二度とバカな事はしないでくれ……アシュリーを泣かせるな……必ず守ってやってくれ……! 必ず! 必ず幸せにしてやってくれ!」
「ディルクっ!!」
「セームルグ、アシュリーの左手は魂を奪う。この力を解放させてくれないか。アシュリーに俺の魂を奪わせて欲しい」
「分かりました……」
「ディルク! 止めてくれ! 他に方法を探そう! アシュリーを助ける方法を……!」
「時間がない! もうギリギリだったんだ! もっと早くにエリアスに会えていたら何とかなったかも知れないが、アシュリーの体はもうリュカの魂に耐えられない!」
「……っ!!」
「アシュリー……もう傍にいてやる事はできない。いや、違うな。つねに傍にいる事が出来るんだな。これからはエリアスが守ってくれる。もう一人で寂しい思いはしなくて良いんだ。もうアシュリーは一人じゃない」
「ディルク……っ!」
「俺はいつまでもアシュリーを愛している。永遠にだ。この魂が朽ちるまで……」
「ディルクさん……良いですか?」
「あぁ、頼む」
「ディルク……! すまなかった!」
「俺にではなくアシュリーに言ってやってくれないか。アシュリーは俺に会うまでも辛い思いをしてきたのだ。アシュリーを……頼んだぞ!」
「分かった! 約束する!」
セームルグがアシュリーの中へ入り込む。ディルクに抱き支えられている、眠ったままのアシュリーの左手だけがゆっくり動き、ディルクの胸に触れる。
その手が淡く青く光輝いて、ディルクの胸からアシュリーの左手へとおさまっていった。
その瞬間ディルクは、支えていたアシュリーと共に倒れてしまった。それを俺は急いで受け止める。
アシュリーの体が光だし、セームルグが出てきた。
「セームルグ……俺に戻らなくていい……アシュリーの……アシュリーとディルクの力になってやってくんねぇか……? 頼む……」
「……分かりました」
俺の願い通り、セームルグはアシュリーの中へと戻っていった。
俺は二人を抱きしめたまま、暫くその場所を動くことができなかった。
ディルク……
アシュリー……
すまなかった……
俺の考えが浅はかだったが為に、二人にこんな負担を与えていたなんて……
ディルクの最後の願い、必ず守ると誓う。
もう二度とアシュリーは離さない。
絶対に離さない……
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