慟哭の先に

レクフル

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贖罪

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 アシュリーが表れてくれた。けど、俺の声は聞こえないみたいだ。それはなんでだ? リュカの時は聞こえていたし、俺の声以外の音は聞こえてる。

 ……まるで俺の声は聞きたくないと言われてるみたいだ……

 いや、実際そうかも知んねぇ。アシュリーと最後に話した事は、一緒になりたい人がいるって事を言った時だった。俺の口から、もうそんな事は聞きたくないと思ってくれたって事か? だから俺の声は聞こえなくなったのか?

 自業自得だ……

 仕方ねぇ。自分で蒔いた種だ。自分で刈り取らなきゃな。

 アシュリーはあれから何も言わず、少しスープを口にしてから、またベッドの隅へ行って膝を抱えている。

 これは虐げられていた奴隷の子供や、虐待を受けていた子供なんかの仕草に似ている。今、アシュリーの体は万全な状態でなく目も見えていないから、自分を守る術はそうするしか無いのかも知れない。

 俺はアシュリーの様子を椅子に座って見ている。アシュリーは少しの音にも敏感で、俺が動く度に体をビクッとさせる。


「アシュリー……? ここには怖いモノは何も無いからな? 誰ももう、アシュリーを傷つけたりしない。アシュリーの傍には俺がいる。ずっといる。これからは俺が必ず守る。何があっても守る。そして、もう一人にはしない。絶対だ。約束する」


 そう言ってもアシュリーは無反応だ。俺の声が聞こえてないなら仕方ねぇ。けど言わずにはいられなかった。安心させてやりたい。ここが無害だということを教えてやりたい。どうしてやれば良いかな……

 
「あ、の……」

「えっ!? なんだ?! アシュリー!」

「貴方は……怒って……ない?」

「怒ってねぇよ? 怒る必要は何にもねぇからな」
 コツン

「そう、か……良かった……見えなくて……分からなくて……貴方に不快感を与えているかも知れないけど、どうしたら良いか分からなくて……」

「そんな事、絶対思わねぇって! 大丈夫だから!」
 コツンコツン!

「すまない……ここはどこなんだろう……アクシタス国かな?」

「違うよ。ベリナリス国だ」
 コツンコツン

「私がいたのがアクシタス国だったと思うから……じゃあインタラス国かな? あ、あそこは知っている場所があるんだ。アクシタス国の国境近くの街でイルナミっていう所で。あと王都コブラルにも住んでた事がある」

「そうだな。コブラルでは一緒に住んでたよな。幸せだったよな……」

「少し前にもイルナミの街へ行ったんだ。そこには聖女が……いたんだ……」

「アシュリー……気にしなくて良い。俺のゴーレムを倒した事は気にしなくて良いからな?」

「あ、何でもない! あの、貴方に仕事はないのだろうか?」

「あるけど、今は良いんだ。今はアシュリーが一番だからな」
 コツン

「そうなのか? 私がいるから仕事に行けないんじゃないのか?」

「大丈夫だ。俺が一緒にいたいんだ」
 コツンコツン

「あの、私の事は気にせずにして貰って構わないから……貴方の邪魔はしたくないんだ」

「俺の事なんか気にしなくて良いんだぞ?」
 コツン

「その、部屋の中がどうなってるのか知りたいんだ。少し歩き回っても良いかな?」 

「あぁ、もちろんだ」
 コツン


 アシュリーがベッドから出ようとする。俺は脱がした靴を履かせようとしてアシュリーに止められた。アシュリーは自分で靴を履いて立ち上がった。それから辺りをキョロキョロ見ている。

 アシュリーの肩をトントン叩いて、肘辺りの服を引っ張った。そんなふうにして歩き、部屋の中を案内する。アシュリーは一つ一つを手で触りながら、それから匂いを確かめるようにして場所を覚えようとしていた。キッチンと俺の寝室、それから風呂も案内する。


「お風呂……? ここにはお風呂があるのか?! すごい!」

「ハハ、そうだ。アシュリーは風呂が好きだったろ? だから大きいのを作ったんだ。後で入ればいいぞ?」

  
 アシュリーは風呂があると分かって、やっと少し緊張した表情が和らいだ。思わずアシュリーの頭を撫でてしまう。


「あ、その、すまない、はしゃいでしまって……」

「全然だ。嬉しいよ」
 

 コツンコツンと二回壁を叩く。返事を聞いて、アシュリーはホッと安心したようだ。それから俺の部屋とリュカの部屋も案内した。アシュリーならどこの部屋に行ってもらっても問題ねぇし、好きな場所があればそこを自分の部屋にしても……あ、でもリュカの部屋はダメかも知んねぇな。

 ってか、リュカはどうなったんだ? アシュリーの中にはいるんだろうけど……アシュリーが表れてくれたのは嬉しい。良かったって思った。けどリュカは? もう会えないのか? ちゃんとお別れも言えてねぇ。また普通に会えると思ってたからな……

 普通に会えるとか、そんな事は無いんだよな。リュカもアシュリーも、俺の前からあっという間にいなくなった。そんな事も忘れて、すぐに次また会えるとか、簡単に考えちゃダメだったんだよな……

 そんなふうに考えてると、俺の肘辺りの服を掴まれる。


「アシュリー……」

「あ、なんか、寂しそうな感じがしたから……」


 アシュリーは不安な事があったり気になる事があった時は俺の肘の服をよく掴んでた。それを思い出して、思わず涙が出そうになる。

 やべぇ……抱きしめてぇ……!

 思わず抱き寄せそうになって、けどまだそれはダメだろって思い止まって、もて余した手を頭にやってワシャワシャする。


「あ! な、何するんだ! もう! エリアスみたいに!」

「え……」

「あ、えっと、エリアスって言うのは、昔一緒に旅をしてた人で……なんか今のがエリアスにされたみたいな感じがして……ごめん……」

「謝らなくていい! 俺がエリアスだから! 俺がエリアスなんだ……っ!」

「案内、ありがとう。少し疲れたからベッドに帰っても良いかな?」

「あぁ……そう、だな……無理はしちゃダメだからな」
 コツン


 俺がエリアスだと分かって貰えねぇってのは結構キツいな……いや、仕方ねぇ……これくらいどうってことねぇ。

 俺の贖罪が始まったって事だ。これはしっかり受け止めねぇといけねぇからな。 
 
 
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