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確かめるように
しおりを挟むベッドでアシュリーを抱きしめたまま、俺は眠ることもせずにただアシュリーの温もりを感じていた。
眠ってしまって、起きた時にまたアシュリーがいなくなっていたらって思うだけで怖くなる。
それに、これは本当に現実なのかと疑ってしまう自分がいる。さっきまで幻覚を見せられていて、俺はずっとアシュリーとリュカと共にいるという幸せを感じていたのだ。
今、俺の腕の中にアシュリーがいる。これが、この幸せが本当に現実なのかと何度も確かめるようにアシュリーの体に触れて、その体温を確認する。
この温かさって、本当に俺、感じてんだよな?
このアシュリーは本物だよな?
これが幻覚だったらどうしようって、俺はそればっかり考えてしまって不安になっちまう。
「エリアス……?」
「アシュリー、目覚めたか? 体調はどうだ?」
「うん、もう平気。エリアスが治してくれたの?」
「あぁ。回復魔法が効くようになったからな」
「リュカが……いなくなっちゃったから? だから私に回復魔法が効くようになった?」
「そうだな……」
「ごめんなさい……」
「なんでアシュリーが謝るんだよ?」
「私、エリアスにリュカを返そうって思ってて……だけど、ただ悪戯にリュカを留めてしまっただけで、結局エリアスに何もしてあげられなくて……」
「そんな事ねぇ……こうやって生まれて来てくれた。それだけで充分だ」
「でも……」
「俺、ちゃんとリュカと会って話できてたんだ」
「そうだったみたいだね。リュカが私の体を借りてたって言ってた」
「あぁ。もうそれだけで、俺には充分過ぎたんだ。これ以上求めちゃいけねぇんだ。いけなかったんだ」
「エリアス……」
「リュカな、親孝行がしたかったって言ってくれたんだ。天へ上がってその姿が見えなくなるまで、ずっと笑顔でいてくれたんだ」
「リュカは私を守る為に……」
「強くて優しい子だった。自慢の娘だ」
「そうだね。自慢の娘だね」
「また生まれてきてくれるって言ってた。俺達の子供に生まれて良かったって言ってくれて……」
「うん。また会えるかも知れないね。約束するって言ってくれた」
「そうだな。けどその約束に縛られて欲しくはねぇな」
「うん、そうだね。リュカがどうしようとも、私達の元に来れなくても、幸せであってくれるならそれで良い」
「それは俺も同感だ。リュカは幸せになる権利がある。それを願う。それしか俺には出来ねぇ……」
「うん。私もそう願う。リュカの幸せを心から願う」
「あぁ。それと……アシュリー、ごめんな? 俺、嘘をついた。他に一緒になりたい人がいるって言ってしまったけど、それは違うんだ」
「うん……手紙、読んだよ」
「俺、ディルクとアシュリーが結婚するって勘違いしちまってな。なら、二人を祝福しなきゃって思って……あの時アシュリーは俺に謝ったから、ディルクを選んだ事を謝ったのかと思ってしまったんだ。たがら謝る必要ねぇって、俺にも他にいるから気にしないでくれって、そういうつもりで言ったんだ」
「そうだったんだ……」
「けど、あの時ちゃんと話してたら良かった。アシュリーからハッキリと拒絶されるのが……振られるのが怖くって、俺はちゃんとアシュリーの言葉を聞けずにいたんだ。それがこんな事になった。マジで情けねぇ」
「なんか……エリアスらしいって言うか……バカだよね?」
「そう言われると何にも言えねぇな……確かに俺はバカだな」
「うん。バカだ。本当にバカだよ。私がエリアス以外の人を好きになるなんて、そんな事ないのに」
「マジか……?」
「嘘は言わないよ。エリアスじゃあるまいし」
「そっか……そう、だな。すまなかった」
「うん……いいよ。今はこうしてくれてるから。こうやって一緒にいられるから……」
「あぁ。もう絶対に離さないからな? ずっとだ。これからはずっと一緒だからな?」
「うん……一緒。ずっと一緒にね」
「これ、夢……じゃねぇよ、な……?」
「そうだね……でもどうしよう、夢とか幻覚だったら……!」
「それは嫌だ! 絶対に嫌だ!」
「私もそれは嫌だけど……でもどうやって確かめたら良いんだろう?」
「俺に触れてくれ。俺もアシュリーに触れて確認する」
「もう触ってる……」
「じゃあ……もっと触れ合おう? お互いの体温が分かるように。これが夢じゃないって、幻覚じゃないって確認できるように……」
「うん……」
お互いの頬を両手で触れて、その温かさを確認する。アシュリーの頬は少し冷たくて、けど触れてるうちに俺の手の温もりで暖かくなってくる。
俺の頬に触れてるアシュリーの手を取って、その指に口づける。唇から指先のヒヤリとした感触が伝わってきて、なんかそれが心地良い。
頬に唇を落とすと、指先よりも暖かくって俺の体温が移ったのかと嬉しくなってくる。
アシュリーは潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
そんな可愛い顔で見られて、俺が冷静でいられるわけなんかなくて、今にも零れ落ちそうな涙を唇で拭う。
何か言いたげなその唇に、そっと触れるように唇で塞ぐ。
何度も優しく、その唇の柔らかさと温度を確認するように、アシュリーの存在を確認するように口づけていく。
「アシュリーだ……ここにちゃんと……アシュリーがいる……」
「エリアスだ……エリアスの匂いがする……優しくて温かくて……私の大好きなエリアスの匂い……これは夢や幻覚じゃない……」
「アシュリー……会いたかった……ずっとずっと会いたかった……っ!」
「うん……私も……ずっと会いたかった。エリアスに会いたかった……」
お互いを強く求めるようにして抱き合って、それから口づけをする。
何度も何度も、会えなかった時間を埋めるように唇を重ねていく。
唇の感触と舌の感触、伝わってくる熱に酔いしれながら、アシュリーの存在を感じていく。
温かい……
俺より少し低いアシュリーの体温が、俺の熱を奪って温かくなっていく。
遮ってる物が邪魔で、全てを脱ぎ捨てて肌で肌を感じていく。
「あ、れ……?」
「どうした? アシュリー?」
「うん……腕にあった傷跡と……火傷の跡が無くなってて……」
「あぁ……回復魔法で身体中の傷跡は消えたかな……」
「消えちゃった……」
「消したくなかったのか?」
「分からない……自分にある傷跡を見るたびに悲しい記憶が甦ったんだけど……でも母が私に残してくれたモノでもあったから……」
「ごめん……」
「ううん……エリアスがね……前にエリアスに奴隷紋があった時、これは自分の戒めだって言ってたでしょ? 幼い頃、能力が暴発して母親を殺してしまったって……だから傷跡が治らなくても、夜に痛みが襲ってきても、それは自分の戒めだから仕方がないって言ってたでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「その気持ちが少し分かったんだ。私は母から全てを奪ってしまって……だから仕方がないって、これは受けるべき事なんだって、そう思ってたんだ」
「そんな事ねぇ。アシュリーがそんな傷を受ける必要なんか無かったんだ。アシュリーは何も悪くない」
「でも……」
「俺の為の事だろ? アシュリーに起こった全ては、俺の為の事なんだよな? だったら、アシュリーが悪いんじゃねぇ。全部俺の責任なんだ」
「そんな事……っ!」
「良いんだ。それで構わねぇ。そう思って欲しい。だからもう……そんな事で傷つかないでくれねぇかな……」
「エリアス……」
「アシュリーの全てを俺にくれないか? 良いモンも悪いモンも、全部俺に……」
「ならエリアスの全部を私にちょうだい? 私もエリアスの全てを受け入れたい……」
「もちろんだ。俺の全部を……アシュリーに……」
「私の全てを……エリアスに……」
あぁ、もうどうして良いか分かんねぇくらいに幸せだ。
アシュリーが可愛くて可愛くて仕方ねぇ……
アシュリーの身体中に唇を落として、肌と肌でお互いの体温を確かめ合う。
触れてないところが無いように、全部が俺のモノになるように、優しく壊さないように触れていく。
アシュリーの息使いと甘い声が俺の頭の中を占領していって、他になにも考えられなくなっていく。
「ん……っ! あ……っ……!」
「アシュリー……?! 大丈夫か?!」
「ん……平気……」
「ごめん、俺、自分の事しか考えてなかったよな……」
「ううん、良いよ……大丈夫だから……」
「でも……アシュリーにはもう痛みとか与えたくねぇ……」
「私は感じたい……エリアスから貰う痛みを……エリアスを感じたい……」
「あぁ……アシュリー……優しくする……から……」
「う、ん……あ……」
アシュリーは痛みに耐えながら俺を受け入れてくれた。
アシュリーの中は温かくて、ずっとこのまま一つでいたいと思った。
優しく優しく、壊さないように、大切な人を守るように、だけど何度も何度もその存在を確認するように、俺達はお互いを求め合った。
やっと、今まで生きてきて良かったって思えた。
こうなって、俺はやっとそう思えたんだ。
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