慟哭の先に

レクフル

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 ウルに、邪神ガタノトーアを討伐した際の報告をする。

 エリアスは私の横にピッタリ椅子をつけて座っていて、腰に手を回していた。

 離れていると不安だって言って、とにかく何処かに触れていたいみたいだけど、エリアス程じゃないけどその気持ちは私も分かる。
 でも、私とピッタリくっついてる状態を見られるのは、なんだかやっぱり恥ずかしい。

 ウルはため息をつきながら、この状況は仕方がないって諦めたようだし、メアリーは少し顔を赤らめながらも、チラチラと私達を見ているし、ザイルも何故か嬉しそうにエリアスを見ていた。

 やっぱり見られるって恥ずかしいな……
 でも、エリアスはそんな事は全く気にならないのか、時々手を握ってきたり頬を撫でてきたりする。
 エリアスは恥ずかしくないのかな……?


「兄ちゃ、あんまり姉ちゃを人前で触りすぎなや。姉ちゃが恥ずかしがってるやん」

「え? そうか? アシュリー、何が恥ずかしいんだ?」

「何がって……見られてるの、とか……」

「俺は気にしないけどな。これくらいなら良いだろ? これ以上は我慢すっから」

「これ以上って……」

「ホンマに姉ちゃしか見えてないな。全く……で……リュカは姉ちゃから離れて行ったんやな。姉ちゃを助ける為に……」

「うん……」

「そうだ。最後まで笑顔でな。また俺達の子供として生まれて来るからって言ってくれてな」

「出来た子やなぁ。スゴいわ」

「あぁ、自慢の娘だ」

「そうだね。自慢の娘だよ」

「けど、それで漸く姉ちゃに回復魔法が効くようになってんな。良かったわ。その、それで身体にあった傷とかは……」

「うん、全部無くなった」

「そうなんや。良かったな!」

「そうだ。アシュリーはすっげぇ綺麗な身体なんだぞ?」

「エリアス、なに言って……」

「はいはい、もう分かったっちゅーねん。で、これから姉ちゃは兄ちゃと住むねんな?」

「当然だ。ベリナリス国のニレの木のある丘に建てた、俺とアシュリーとリュカの家で住むんだ。な?」

「うん……」

「え……嫌なのか?」

「あ、ううん、そうじゃないんだ。ただ……」

「なんだ?! 何が気になってる?! あの家の何処か気に入らない所があるのか?! それとも足らない物でもあんのか?!」

「あ、いや、そうじゃない……」

「じゃあ何が気になる?! 増築でも改築でも何でもするぞ?! アシュリー、何でも言ってくれ! アシュリーが住みたい家にするから!」

「お、落ち着いて! そうじゃないんだ! あの家に不満なんて何もないよ!」

「じゃあ場所か?! 他に住みたい場所でもあんのか?!」

「兄ちゃ、ちょっとは落ち着きいや。姉ちゃが喋られへんやん」

「そう、だな……すまねぇ……」

「うん。その、家に不満があるわけでもないし、ニレの木の側にある家は凄く心地良い場所だから気に入ってるんだ。エリアスの家は落ち着くし……」

「俺の家とか言うなよ! 俺達の家だろ?!」

「あ、うん、そうだね」

「兄ちゃ、落ち着きって! で、それやったら何が気になるん?」

「うん……私一人でいた時、昔住んでた村の跡地にいてね。そこで少しずつ私が住んでた家を修復してたんだ。私のいない時に魔物にあっという間に壊されちゃったけど……」

「そうだったな。リュカが言ってた」

「そうだったんだ……そこはね、誰も何もしないまま時が過ぎて、ボロボロに朽ちた家があちこちにあって、それは全部が私のせいで……」

「アシュリーが悪い訳じゃねぇだろ……?」

「うん。そうなんだろうけど……過ぎた時間は戻せないけど、あの優しくて穏やかな村を少しでも元に戻せたらって思って……」

「そっか……じゃあ俺が復元させる。それならすぐに元に戻せるぞ?」

「ふふ……エリアスならそう言うと思った。でもね、それは自分がしなくちゃいけないって思うんだ。ああなったのは私の責任だから」

「そんな……責任とか言うなよ……」

「エリアスにはエリアスのお仕事があるし、だから私はあの場所を少しでも元に……せめて自分が住んでた家くらいは元通りにしたいって思ってて……あ、もしちゃんと家が修復できたとしても、そこに住みたいとか、そんなんじゃないんだ」

「けど……それじゃ別々にいるって事なの、か……?」

「あ、ううん、そうじゃないよ。毎日エリアスの元へ戻るようにする。寝るだけになってしまうかも知れないから、それでも良いのかなって思って……」

「嫌だ……離れたくねぇ……いつでも一緒にいるって決めたんだ……俺は離れねぇ……」

「エリアス……」

「なぁ姉ちゃ、兄ちゃが手伝うのはアカンの?」

「それは……」

「もう一時でも離れたくねぇんだ。俺がいない間に、またアシュリーに何かあったらとか、いなくなったらとか、そう考えるだけで俺は……っ!」

「もう何も言わずにいなくなるとかしない。必ずエリアスの元へ戻るよ?」

「ダメだ……それでも嫌なんだ……頼むからそんな事言わないでくれよ……」

「でも……」

「なぁ、兄ちゃは回復魔法で復元出来るようになってんやな?」

「え?……あぁ。アシュリーがいなくなってから俺が緑の石を持つことになって、その時から復元は出来るようになったな。今は緑の石は手元にねぇけど、復元の感覚は覚えてたからそのまま使えたんだ。それがどうした?」

「姉ちゃは今はそれが出来ひんねんな?」

「うん。今は緑の石は持ってないから、回復魔法は使えるけど復元までは出来ない。やっぱりエリアスは凄いね」

「前に姉ちゃとディルクと、3人でインタラス国のイルナミの街へ行ったやん? その近くのダンジョンに緑の石があるって、その時言うてなかった?」

「……言ってた……」

「緑の石は魔素が多くなる日じゃないと細道が表れんくて、その先にあるからまた今度行こうって話したやんな?」

「話、した……」

「その魔素の多くなる日って、いつ頃なん?」

「……もうすぐ……だ……」

「ほな、緑の石を取りに行って、姉ちゃが復元出来るようになったら良いんちゃうん?」

「ウル……すごい……」

「姉ちゃは色々あったから忘れてたかも知らんけど、あたしはちゃんと覚えててんからな!」

「緑の石のある場所を知ってたんだな! じゃあ一緒に行こう! アシュリーも復元出来るようになったら、村の復興に時間はかからねぇよな?!」

「そうだと思う……!」

「ウル、ありがとな! 流石はウルだ!」

「こんな時ばっかり言うな!」

「ハハハ! すまねぇ! ハハハハ!」


 エリアスはウルにまた頭を叩かれていた。でもエリアスはいつも嬉しそうだ。

 魔素が多くなる日。正確に知るには、イルナミの街へ行って星の動きを見なくちゃいけないけど、多分もうすぐそうなる日の筈だ。

 エリアスは安心したように、私の腰をグイッて引き寄せてから、頬をくっつけてスリスリしてきた。
 本当に行動が子供みたいで可愛いって思ってしまう。

 
「じゃあ、これから姉ちゃは兄ちゃと一緒に暮らして、仕事も一緒にするって事なん?」

「あ、うん……村の修復が終わったら……そうなる、かな……?」

「嫌か?」

「嫌じゃないよ。その……私に勤まるのかなって思って……」

「危険な事はさせねぇ。それにアシュリーは俺が必ず守る。今度こそ絶対守る!」

「それはそんなに気にしてないんだ。エリアスは強いから」

「邪神に捕まって帰って来ぉへんかったけどな」

「それは悪かったって!」

「ふふ……そうだけどね。その、エリアスは他に色んな場所を巡って行商みたいな事をしてるよね? 各地にいるゴーレムに魔力を補充したり、何か問題が起これば率先して解決させたりもしてるよね?」

「よく知ってんな……」

「うん……エリアスの事をずっと探してたし、目が見えてない時に連れて行って貰った街での様子でも分かったから……」

「そうか。けど、それのどこが不安なんだ? 何も難しい事はしてねぇぞ?」

「エリアスにはそうだろうけど、私は今世でも人と触れ合う事なく生きてきたんだ。人との距離感が分かってないと思うんだ」

「じゃあ、少しずつ慣れていけばいい。俺もフォローするし、もちろん嫌な事は一切させねぇ。アシュリーは俺の横にいてくれるだけで良いんだ。な?」

「うん……」


 エリアスと暮らすことになった。それに一緒に仕事も手伝うことになった。これは私が生まれ変わってから求めていた事で、それがやっと叶ったんだ。

 けど、じゃあこれからどうするのか。

 私はエリアスの魂を解放しに生まれてきた。私の左手の能力、魂を奪うという力を使って、エリアスに死を与える為だ。

 でも……

 私はエリアスを死へ導く事は出来るのだろうか……

 その命を、魂を、この手で本当に奪う事は出来るのだろうか……?

 私の事をニコニコ笑いながら見ているエリアスを見て、胸がズキリと痛みだす。

 でもそれはまだずっと先。

 まだまだずっと先。

 私の命が尽きる前までは猶予がある。

 まだ……きっとまだまだ大丈夫……

 微笑むエリアスに、私もニッコリして微笑み返す。エリアスは安心したような顔をした。

 またちゃんとこの事も話さないといけない。

 でもまだ今は……

 エリアスと蟠りが無くなって、こうしていられる時間を、幸せを堪能していたい……

 今はまだ……



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