慟哭の先に

レクフル

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ウルの存在

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 ダンジョンの入り口の横辺りに休憩所があって、そこにはダンジョンに入る前の冒険者や、薬草や魔道具なんかを売ってる商売人もいた。

 そこで話そうとするアベルに、誰もおらへん方がいいからって、森の方へ一緒に行く。
 
 ギュッてアベルと手を繋いで、あたしが先導して森の中を進んで行く。アベルは何も言わずにあたしについてきてくれる。
 少し拓けた場所があったから、誰もいてないしそこで話をしようと立ち止まる。

 そこは適度に陽が入ってきてて、葉がキラキラ陽に反射して綺麗やな、と思った。
 って、こんなこと考えてる場合やないのに!

 
「ウル? どうしたん? なんかあった?」

「なんかあったとかじゃ無いけど……あたし、あれからちゃんとアベルと話せてなかったから……」

「そう、やな……けどなんで今なん?」

「あ、うん……その、さっきいた人達おるやろ? あたしと一緒に来た人。その人等に言われてん。話すんやったら早い方が良いって」

「あの人ウルの友達って言うてたけど、そうなん?」

「友達……うん、友達。けど兄ちゃはなんか……あたしの父親みたいな時があったり、弟みたいな時があったり……姉ちゃも友達みたいで、でもホンマのお姉ちゃんみたいで……大切な人達やねん……」

「そうなんや……なんか……ちょっと嫌やな……」

「え?」

「その人等の話をしてる時のウルの顔が優しくて穏やかやったから……俺じゃそんな顔させてやれてへん感じがしてな……」

「そんなん、ちゃうけど……!」

「分かってる。これは俺のただの焼きもちや。気にせんといて? で、話って……その……プロポーズの……答え?」

「うん……えっと……あんな?」

「ちょっと待って! 心の準備が出来てへん! ちょっと手、繋がせて!」

「え?」


 アベルはあたしと両手を向かい合う感じで繋いで、深呼吸を何回かして、それから下を向いて、うんっ! って気合いを入れた感じにして、顔を上げてあたしの目をちゃんと見た。


「うん。もう大丈夫。言うて?」

「あ、うん……あたし、な? その……アベルに言うてなかった事があるねん……」

「そうなんか?」

「うん……あたし……その……えっと……」

「ウル、大丈夫やから。俺、受け止めるから」

「うん……ありがとう……あんな、あたしな? 商人してるって言うてたけど、実は違うねん……」

「うん……それで……?」

「あたし、この国の……オルギアン帝国の皇族やねん」

「皇族……」

「えっと……皇太后とか言うヤツ……」

「…………」

「ごめん! その、騙すつもりは無かってん!
 ただ、一人の女の子とし、て……見て……欲しくって、な? ……えっと……」

「うん……」

「アベル……?」  

「うん……」

「ごめん……怒ってる……?」

「俺……知ってた」

「……え?」

「ウルが商人やなくて、この国の皇太后って知ってた」

「え?! なんで?! なんで知ってんの?!」

「って、逆に聞くけど、なんで騙せてると思ってたん? 店の人とかギルドの連中なんかも、皆ウルが皇太后やって知ってたで?」

「嘘ぉ! ホンマに?!」

「ホンマホンマ。だから俺にも教えてくれたで」

「うわぁ! マジで?! って言うか、今までのあたしの苦労はなんやってーん!」

「ごめん、なんか隠したがってたから言われへんかった……」

「そうなんやー……知ってたんやー……」

「うん。って言うか……俺も言ってなかったんやけど……」

「え?」

「俺、ウルに会いにここまで来てん」

「え? なに? それ、どういう事?」

「うん。俺もちゃんと言うな? 俺の島の村、ウルが昔住んでた村やねんけど、ウルは村では英雄みたいになってるねん」

「えぇ?! なんで?!」

「ウルが回復魔法、広めてくれたんやろ?」

「えっと、それはあたしがって言うか……その……まぁ、そうなるん、かな?」

「それまで回復魔法はどうやって使えるようになるか分からへんかったらしいからな。エルフでは当たり前に知ってる事でも、それが他国の人には知られてなかったやん? それは人とエルフに交流がほぼ無かったからやねんけど」

「そうやな……昔は回復魔法は女にしか使えへんって言われてて、しかも使える人はほぼいなかったから、使えると分かった時点で強制的に連れて行かれて捕らえられてしまう。それであたしのお母さんはオルギアン帝国に捕まって帰って来られへんようになって……」

「それでウルはあの島を出たんやろ?」

「うん。あ、その時に連れ出してくれたのがさっきの兄ちゃと姉ちゃやねん」

「え?! そうやったんか?! エルフちゃうやんな?! なんで生きてんねん!」

「それは……まぁ色々あって……また話すけど、それよりなんであたしが英雄とか言われてんのん?!」

「ウルのお母さんが連れ去られたのもそう言った事が理由やったみたいに、他の国にもエルフがそういう理由で捕まってたみたいやねん。ある日突然帰って来ぉへんようになってな。なんでかはその時は分からへんかったけど、昔からちょくちょくあった事やねん」

「そうなんや……」

「けど、ウルが回復魔法の原理をオルギアン帝国で広めたやろ? それからエルフが失踪する事が無くなってん!」

「ホンマに?!」

「あぁ! オルギアン帝国は戦争もせんと属国を増やしていったやろ? 回復魔法を使う方法を教えるって事も交渉材料となるらしいやん? で、各国で回復魔法が使える人が増えてきて、エルフが拐われる事は無くなってん!」

「そうやったんや……」

「あの物語……この前観た観劇の中で、アシュリー王妃が回復魔法広めたってなってたやん? 俺、てっきりそのアシュリー王妃とウルが協力して広めたとばっかり思ってて……って、ちょっと待って! さっきの人って、もしかしてアシュリー王妃か?!」

「え? あ、うん。生まれ変わりやけどな」

「ってなると……嘘やん! あの人、エリアスって! あのエリアスか?!」

「あぁ……そうやな。あのエリアスやな」

「凄いなぁ! ホンマに凄い! あの物語はどこの国でも有名やねん! マジで感動やー!」

「それは分かったけど……なんであたしが島で、その、英雄とか言われてんのかまだちゃんと教えて貰ってない……」

「あ、そうやな。ごめん。ウルは村を出る時にちゃんと「オルギアン帝国に行く」って言って出て行ったやろ? だからオルギアン帝国で回復魔法が広まったのはウルの功績やと分かったし、それからウルが皇帝と結婚した事で、エルフの地位って言うか、そんなんが上がってん」

「え?! ホンマに?!」

「ホンマに! まぁ、皇帝の結婚相手が村の娘って体裁を気にしてやろうけど、ウルがその当時の村長の孫やった事は確かやん? だからエルフの王女的な立場になったやん?」

「そうやけど、なんでそんなん知ってるん?」

「俺のお父んは村長やけど、ウルのお祖父ちゃんの弟が俺のお祖父ちゃんやねん。せやからウルと俺は遠い親戚になるんやけど、そういう事もあって、昔からウルの事は聞かされててん」

「遠い親戚やったんやぁー……まぁ、同郷やったらあり得る話やな……」

「オルギアン帝国は形だけ王女って事にした訳やなくて、エルフの森を開拓しよってん。そら立派な村にしてくれたで。それまでは同じ島の人でもエルフとは交流が少なかったけど、村が発展したのと、あの天下のオルギアン帝国へ嫁いだエルフの村って事で、村は観光名所的な感じになってん。それによって村は更に潤ってな。今までエルフも偏見を持って人と関わったりせぇへんかったけど、この恩恵は人からのモノやと分かってたから、それを機に人と交流が出来るようになっていってん」

「そんなふうになってたんや……」

「とにかく、そんな感じで人とエルフが交流もてるようになったんはウルのお陰やったりすんねん。それを俺は小さい頃から聞かされててな」

「なんか知らん間にそんな事になってて、あたしの方がビックリしてんねんけど……」

「そうやろな。ウルは村を出てから一度も帰って来てないやろ? 分からへんのも無理ないわ。でな? 俺、ずっと聞かされてたウルにいつしか会いたいって思うようになってん」

「そうなんや……」

「どんな凄い人なんやろうって。きっとむっちゃしっかりしてて、キリッとしてて、格好良い大人の女性なんやろうなって。皆を引っ張って行くリーダーみたいな感じな人とか、そんな風に思って憧れててん」

「ごめん、全然ちゃうくて……」

「うん。全然違うかった。初めてウルに会った時な。可愛い女の子やなぁって思った」

「何言うてんの……でも、じゃあ居酒屋であったんは偶然? それともわざとなん?」

「あれは偶然! どうやったら皇太后と会えるんかむっちゃ考えててんで? 会えた時は奇跡やと思った!」

「いつあたしが皇太后って気づいたん?」

「名前聞いた時。オルギアン帝国の帝都にいて、エルフで銀髪で名前がウルリーカってなったら、もうその人が皇太后でしかないやろ? さっきも言うたけど、皆ウルの事皇太后って知ってたし」

「知ってたんやったら、なんで他の皆も言うてくれへんかったんや……」

「それはウルが皇太后として接してないからや。一人のエルフとして、ただの女の子として皆に接してたから、皆もそうしてあげたいって思ってんて。それにウルは俺と会う前から帝都に来て色々見て回って、色んな人から話を聞いてたやろ? 相談を受ける感じでとか、愚痴を聞く感じでとかで」

「それは話すの好きやから……」

「そうやとは思うけど、ウルに愚痴っぽく言ってから、少しして改善される事が多くあったって聞いた。例えば、夜に変な人が徘徊してるみたいって言うた時は、その日の夜から兵士が巡回してくれるようになったって言ってたし、いきなり店舗の賃貸料を上げるとか言われて困ってたら、少しして値上げの話は無くなったって。他にも色々聞いたけど、それ全部ウルが手を回したんやろ?」

「それは……! 上まで声が届かん人の意見を聞くのも必要かなって思って……ただそれだけやん……」

「でも皆感謝してたで? だから皆がウルを温かく見守ってんねん。それは俺もやけど」

「あたし一人が何も知らんで……」

「そんなん思わんとって! 皆ホンマにウルが好きやからやねん!」

「あ、うん、ごめん、分かってる。皆あたしを気遣ってくれてたの、分かってるねん。だから帝都に来るのが好きやった。皆が優しくしてくれるから。あたしに普通に接してくれたから……」

「誤解せんといてな? 皆がウルの事、ホンマに好きやねんで? それは俺も同じや」

「アベル……」

「俺が思ってたウルのイメージと全部違って、ウルは思った事を何でもすぐに言ってしまう子で、よく笑って皆と仲良くて、厳しい事も言うけど、それはホンマにその人を思って言ってるからで、優しくて可愛くて……俺はそんなウルが好きやねん。ウルの全部が好きやねん」

「なによ、それ……そんなん言われたら……」

「うん、ごめん泣かせて……でも本心やねん。俺はウルに会う前から、そして会ってからもずっとウルに恋してた」


 アベルが優しくあたしを抱き寄せる。
 あたしは何も言えんくなって、胸がいっぱいで涙が止まらんくて、ただアベルの胸で泣き続けるしかできなかった。

 幸せやと涙が出るんやな。

 あたしはこの歳になってそれを初めて知った。



 
                      
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