慟哭の先に

レクフル

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想い合う

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 楽しいデートになる筈だった。

 アシュリーが行きたいと言った王都コブラルには、俺達の思い出がいっぱいある。それを一つ一つ見て行って、思い出話をしながら歩いて買い物して……

 夜はレストランを予約してたんだ。

 そこは観劇を観ながら食事が出来る所で、今やっているのは俺達の物語だったんだ。時間的に省略されてるけど、アシュリーは観たことがなかったろ? 
 
 あの物語は事実とは全然違ってさ。そんなんじゃねぇって突っ込み所満載なんだけどな。でも、やっぱりすっげぇ懐かしく感じるんだよ。あの当時の事がリアルに思い出せて、暖かい気持ちになれんだよ。
 
 だからな。一緒に観ながら食事しようって思っててさ。レストランを貸切りにしてたんだ。

 で、そこで俺、渡したい物があってさ。

 前に俺がプレゼントした指輪が壊れてしまったから、変わりの物を用意してたんだ。アシュリーが俺の元からいなくなった時、いつでも渡せるように俺がデザインに立ち合って……
 そしてその指輪には前と同じく物理攻撃・魔法攻撃を防御する効果に加え、状態異常耐性・猛毒耐性・魅了軽減、その他諸々を俺が付与させた。

 左手薬指じゃなくていい。そこはディルクに譲るから、右手の薬指は俺が贈った指輪を嵌めていて欲しかったんだ。

 それをその時に渡そうと思ってた。
 それでアシュリーに結婚を申し込むつもりでいたんだよ。
 
 ついそんな事を考えて、でもそれを言うことも出来ず、アシュリーの右手を取って握りしめる。

 俺、守るって言ったのに……

 ちゃんと守れなくて……ごめん、アシュリー……

 
「アシュリー、寒くはないか? 痛い所はないか? 怖かっただろ? ごめんな……」

「エリアスが……心配したとおりだった……」

「ごめん……」

「エリアスが謝るなんて……私が不注意だった……ごめんなさい……」

「アシュリーは何も悪くねぇ。謝る必要なんか何にもねぇ」

「ううん……私……いきなり頭を殴られて……そうしたら動けなくなって……お、男の、人たち、が……ウルが選んでくれたふ、服……や、ぶって……」

「アシュリー、落ち着け、ちゃんと呼吸しねぇとダメだ。言わなくていいから、嫌な事は言わなくていい……!」

「わ、私、嫌で……! 頭がハッキリしなくってっ! でも、抵抗、したらっ! な、殴られて……そこから分からなくなって……っ!」

「大丈夫だ! アシュリーは何もされてねぇ! その後すぐに俺が行ったから、アシュリーはなんもされなかったっ!」

「ごめ……エリアス……」

「謝るな! アシュリーは謝る必要ねぇって言っただろ!」

「怒らないで……」

「あ……っ! 悪ぃアシュリー、俺怒ってねぇから……ごめん……」

「うん……エリアスも謝らないで……」

「あぁ……そうだな……分かった……寒くなってきたな……部屋に戻ろうか?」

「うん……」


 アシュリーの指は冷たくなっていた。ゆっくりアシュリーを抱き上げて家に入る。ソファーに座って、少し冷たくなったアシュリーの体を火魔法で暖める。

 アイツ等がアシュリーに何をしていたか……

 考えるだけで、その光景を思い出すだけでハラワタが煮えくり返りそうになる……!

 けどそんな事を俺が気にするよりも、アシュリーの方が気にして傷付いているんだ。だから俺が気にしちゃダメなんだ。

 アシュリーをしっかり抱きしめて、背中を優しく撫で続ける。
 

「温かいスープでも作ろうか? それともお茶にするか?」

「ううん……いい……少し休みたい……」

「分かった」


 そのまま寝室へ向かう。
 浄化させて着ている服を脱いで、アシュリーの服も脱がせて、軽装になって横たわる。

 
「エリアス……エリアスお願い……抱きしめていて……ずっと抱きしめていて……」

「あぁ……離さねぇ……絶対に離さねぇ……」

「お願い……」
 

 俺の腕の中でアシュリーは、声を上げることなく泣いていた。
 
 どうやったら癒せてやれる?

 アシュリーから悲しみや恐怖を無くしてやれる?

 思わず抱きしめる手に力を入れてしまう。けどすぐにその事に気づいて、力を緩める。
 ふと見るとアシュリーは意識を無くしていた。
 眠った、と言うよりは意識を手離した、といった感じかも知んねぇ……

 
「ごめんな……怖い思いさせて……アシュリー……ごめん……」

 
 俺が謝ってもどうにもならねぇし、謝らないでって言われた。けど言わずにはいられなかった。


「セームルグ……」


 セームルグを呼び出すと、アシュリーからゆっくりとセームルグが出てきた。


「エリアスさん、アシュリーさんはまた前のように一人で暗闇に佇んでいます。エリアスさんに申し訳ないと……泣いていて……」

「アシュリーにそんな必要は無いって言ってやってくんねぇか? 今回の事は俺の責任でもあるんだ。アシュリーはただの被害者なんだよ」

「分かっております。ですが私の言葉等届かないでしょう。今はディルクさんが傍にいてくれています」

「そうか……ディルクが……良かった……」

「エリアスさん、アシュリーさんは汚されていませんよ?」

「そうなのか?!」

「魅了が体から滲み出ている状態でしたから、男達は抑えることが出来なかったと思いますが、テネブレがアシュリーさんの意に反する者を受け入れさせる等する訳はありません」

「そう、か……そうか……」

「それでもどうにかしたくて、その魅了に抗えなくて、男達はそばを離れなかったんでしょう」

「そうであっても許せねぇけどな……!」

「貴方が冷静になれなくてどうしますか。女性にとって、これ程辛い事はないんです。例え未然に防げたとしても、心に大きな傷はついたままです」

「分かってる。俺がしっかりしねぇとな。すまねぇな、セームルグ」


 セームルグはため息をついて仕方なく微笑んで、それからアシュリーの中へと消えていった。

 男共に襲われた恐怖、俺に対する贖罪の気持ちに耐えきれずに、アシュリーは心を閉ざしてしまった。

 例えどうされたとしても、俺のアシュリーに対する気持ちは変わる事はない。

 けど、女性はそうではない。

 俺は何度かそういう場面に遭遇した事がある。

 連れ去られ、無理矢理男達に凌辱され、それを知った恋人と別れる羽目になったり、女性がそれを苦に自殺するなんて事もある。

 だから俺はそんな目にあった女性から記憶を奪う。余計な記憶は今後の生活に影響を及ぼす。必要のない事は消えてしまった方が良いんだ。

 だけどアシュリーからは奪えなかった。

 一番に守りたくて助けてやりたい存在なのに、それが出来ないなんて何の為の俺なんだよ?!

 
「アシュリー……愛してる……何があってもこの気持ちが変わる事はないんだ……愛してるよ……」

 
 前にリュカがアシュリーの中にいた頃、話し掛けていた言葉は忘れてしまうけど、気持ちが暖かくなると言っていた。

 だから俺は何度でも言う。

 何度でもアシュリーに伝える。

 アシュリー、愛しているよ……

 ずっとずっと、アシュリーを愛し続けるよ……

 
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