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イット・カムズ・アット・ナイト
ルールその3:犬を飼ってはならない
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*内容をさらにわかりやすくした『映画チャットノベライズ(笑)』のブログもよろしくお願いします。
映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2020/01/04/134402)
俺たちは彼らが入ってこないように、玄関のドアの鍵を閉めたが、窓の隙間からするりと入ってきた。
ギターの大きさで、なぜあの細い隙間から入れたのか謎だ。
美雪はギターを持ったまま、
「私はおなかがすくと動けないの! 朝、昼、晩、ペティグリーチャムにして!」
「もう会社がないよ。それ」
「じゃ、普通のご飯でいい!」
俺に演奏を聞かせつつ言う。
「わかった。とにかく、この家に住む以上、俺たちのルールに従ってもらう」
「どんなルールなの?」
「まず、出入り口のあの赤い扉には、夜近づかないこと。何か病気の兆候が出てきたら、必ず報告すること。わかったか?」
「オッケイ! 今日の晩飯はカレーね!」
やたらとテンションの高い美雪は、大きく返事するが、知能指数が不安になった。
それから俺たちと美雪たちの共同生活が始まった。
人手はとにかく必要だった。
家畜の世話に、まき取り、発電機のメンテナンスなどなど。
だが、言左衛門はまだ役に立つが、美雪はまったく役に立たず、家事や洗濯ですらできないようだ。
大切な服を口から吐いた溶解液で溶かしたときは、さすがのリアナも悲鳴を上げていた。
5人で食事をしているときは楽しくおしゃべりしていたが、廊下に出ると、リアナの真顔を見るようになった。
ほんわかとしたお嬢さま口調で、皆の癒やしになっていたのだが、美雪が失敗を犯すたびに真顔になっていく。
表面上は笑顔で取り繕うのだ。
「あらあら。しょうがないわねぇ」と、笑って許してくれるのだ。
それが彼女の性格だからだ。
だけど、リアナがひとりっきりになると、恐ろしいほどの真顔で、イスに座って壁を見つめていた。
ストレスがたまっているのか。
俺は廊下の壁からそれを目撃したが、ご近所トラブルになるのを恐れて、わざと避けていた。
萌美は新しい遊び相手を見つけたので、特に不満はないようだった。
美雪と精神年齢が合うのか、ふたりでデスゲームを楽しんでいた。
だがそれも長く続かず、美雪が夜中にギターでへたくそな演奏を始めるので、寝るのが早い萌美は寝不足になっていった。
あきらかに、俺たちはストレスがたまっていた。
昼間、飼っていた柴犬の『超重量級獣(ランバレル)』が森に向かってほえていたので、干していた俺の下着から目を離す。
ランバレルの策略だったのか、下着をくわえ、狂ったように森の中に走っていった。
1枚しかなかったので、俺はランバレルを追いかけたが、美雪が餌を与え忘れたことにより、飢餓が動物をおかしくさせてしまった。
「いっぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
俺は悲鳴を上げた。
犬はそのまま森に入り、帰ってこなかった。
夜になっても帰ってこなかった。
下着を盗まれ、やけ酒を飲んでいると、言左衛門が同情したのか、付き合ってくれた。
俺はいつまでたってもリアナが心を開かないことを愚痴り続けた。
言左衛門は本物の妻でもない美雪の世話に疲れたと泣いた。
おたがいの気持ちを話し合うと、すっきりしてきたのか、俺は赤い扉から外に出てゲロした。
台所で水を飲んでいると、リアナと萌美が物音を立てずやってきた。
机を囲んで、俺たちは座る。
なんだか妙な雰囲気に、俺の酔いは一気にさめていく。
「どうしたんですか?」
俺はおそるおそる、リアナに他人行儀で聞いてみた。
待ってましたとばかりに、
「美雪さん。今日も真夜中に大騒ぎで、ギター演奏してるのよ。睡眠妨害だわ。萌美も眠れないようだし。なんとかしてほしいわ」
「はっはあ……」
「料理だってうまくないし、洗濯物は溶かすし。私、いいかげん耐えられなくって、昨日料理に毒を混ぜて出したの。もちろん天然もので、解剖しても出てこないやつね。病気にみせかけてやろうと思ったんだけど、美雪さん、ぜんぜん毒が通じないの。むしろぴんぴんしてきて、私の部屋に入ってきて、高校生のとき好きだった男子の話までし始めるのよ。私はていねいに答えてあげたわ」
「えっ!? 待って!?」
「――もう、これしか方法はないの」
リアナはすっと、俺の前に、刃物をすべらせた。
太くて、長く、刺せばよゆうで内臓に届くだろう。
そして、ぷいっと、体を横に向けた。
やれってかっ!! 俺にこの包丁で、彼女をやれってかぁぁぁっ!!!!
俺はリアナの表情を見ようとしたが、そっぽを向いたままだ。
何そのやってくれなきゃ離婚します的な態度!
俺たちそんな関係じゃないだろ!
口に出せず、心で叫び続ける俺。
「萌美。お父さんとお母さんがいなくなったら、寂しいな」
萌美は男と女のお人形さんをくっつけている。
子供に追いつめられるぅぅぅぅぅぅっ!!!!
俺は机の上で顔を伏せた。
住宅ローンを払い終えておらず、ご近所トラブルがあっても家から出られないお父さんの気持ちがわかった。
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俺たちは彼らが入ってこないように、玄関のドアの鍵を閉めたが、窓の隙間からするりと入ってきた。
ギターの大きさで、なぜあの細い隙間から入れたのか謎だ。
美雪はギターを持ったまま、
「私はおなかがすくと動けないの! 朝、昼、晩、ペティグリーチャムにして!」
「もう会社がないよ。それ」
「じゃ、普通のご飯でいい!」
俺に演奏を聞かせつつ言う。
「わかった。とにかく、この家に住む以上、俺たちのルールに従ってもらう」
「どんなルールなの?」
「まず、出入り口のあの赤い扉には、夜近づかないこと。何か病気の兆候が出てきたら、必ず報告すること。わかったか?」
「オッケイ! 今日の晩飯はカレーね!」
やたらとテンションの高い美雪は、大きく返事するが、知能指数が不安になった。
それから俺たちと美雪たちの共同生活が始まった。
人手はとにかく必要だった。
家畜の世話に、まき取り、発電機のメンテナンスなどなど。
だが、言左衛門はまだ役に立つが、美雪はまったく役に立たず、家事や洗濯ですらできないようだ。
大切な服を口から吐いた溶解液で溶かしたときは、さすがのリアナも悲鳴を上げていた。
5人で食事をしているときは楽しくおしゃべりしていたが、廊下に出ると、リアナの真顔を見るようになった。
ほんわかとしたお嬢さま口調で、皆の癒やしになっていたのだが、美雪が失敗を犯すたびに真顔になっていく。
表面上は笑顔で取り繕うのだ。
「あらあら。しょうがないわねぇ」と、笑って許してくれるのだ。
それが彼女の性格だからだ。
だけど、リアナがひとりっきりになると、恐ろしいほどの真顔で、イスに座って壁を見つめていた。
ストレスがたまっているのか。
俺は廊下の壁からそれを目撃したが、ご近所トラブルになるのを恐れて、わざと避けていた。
萌美は新しい遊び相手を見つけたので、特に不満はないようだった。
美雪と精神年齢が合うのか、ふたりでデスゲームを楽しんでいた。
だがそれも長く続かず、美雪が夜中にギターでへたくそな演奏を始めるので、寝るのが早い萌美は寝不足になっていった。
あきらかに、俺たちはストレスがたまっていた。
昼間、飼っていた柴犬の『超重量級獣(ランバレル)』が森に向かってほえていたので、干していた俺の下着から目を離す。
ランバレルの策略だったのか、下着をくわえ、狂ったように森の中に走っていった。
1枚しかなかったので、俺はランバレルを追いかけたが、美雪が餌を与え忘れたことにより、飢餓が動物をおかしくさせてしまった。
「いっぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
俺は悲鳴を上げた。
犬はそのまま森に入り、帰ってこなかった。
夜になっても帰ってこなかった。
下着を盗まれ、やけ酒を飲んでいると、言左衛門が同情したのか、付き合ってくれた。
俺はいつまでたってもリアナが心を開かないことを愚痴り続けた。
言左衛門は本物の妻でもない美雪の世話に疲れたと泣いた。
おたがいの気持ちを話し合うと、すっきりしてきたのか、俺は赤い扉から外に出てゲロした。
台所で水を飲んでいると、リアナと萌美が物音を立てずやってきた。
机を囲んで、俺たちは座る。
なんだか妙な雰囲気に、俺の酔いは一気にさめていく。
「どうしたんですか?」
俺はおそるおそる、リアナに他人行儀で聞いてみた。
待ってましたとばかりに、
「美雪さん。今日も真夜中に大騒ぎで、ギター演奏してるのよ。睡眠妨害だわ。萌美も眠れないようだし。なんとかしてほしいわ」
「はっはあ……」
「料理だってうまくないし、洗濯物は溶かすし。私、いいかげん耐えられなくって、昨日料理に毒を混ぜて出したの。もちろん天然もので、解剖しても出てこないやつね。病気にみせかけてやろうと思ったんだけど、美雪さん、ぜんぜん毒が通じないの。むしろぴんぴんしてきて、私の部屋に入ってきて、高校生のとき好きだった男子の話までし始めるのよ。私はていねいに答えてあげたわ」
「えっ!? 待って!?」
「――もう、これしか方法はないの」
リアナはすっと、俺の前に、刃物をすべらせた。
太くて、長く、刺せばよゆうで内臓に届くだろう。
そして、ぷいっと、体を横に向けた。
やれってかっ!! 俺にこの包丁で、彼女をやれってかぁぁぁっ!!!!
俺はリアナの表情を見ようとしたが、そっぽを向いたままだ。
何そのやってくれなきゃ離婚します的な態度!
俺たちそんな関係じゃないだろ!
口に出せず、心で叫び続ける俺。
「萌美。お父さんとお母さんがいなくなったら、寂しいな」
萌美は男と女のお人形さんをくっつけている。
子供に追いつめられるぅぅぅぅぅぅっ!!!!
俺は机の上で顔を伏せた。
住宅ローンを払い終えておらず、ご近所トラブルがあっても家から出られないお父さんの気持ちがわかった。
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