【R18】黒の騎士団長と白の騎士団長は仲が悪い

寺谷ヒノ

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6.本能は大体正しい、はずである

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「黒の騎士団長、お疲れさまじゃの」



「……そうだな」



「活躍したみたいじゃが」



「……俺は何もしてない」



「ほっほっ」



 壊れた建物をみながらジョシュは建物の外でぼんやり立っていた。

 いつのまにやら現れたガーメインは怒る様子もなく、笑っている。

 あの会場でなかなか緑の騎士団が現れないとおもったら、1階にいた元締めが単独に逃げたり、脅したりなんなりしていたせいで、人手がそちらにさかれてしまっていたためらしい。

何でだ。段取り悪すぎないか。そうつっこみたかったが、残念なことに市街で建物を一つ破壊してしまった(のを止めることができなかった)ジョシュは何もいえなかった。

 疲れた。もはやそれ以外に言葉はない。



「団長何しているんですか」



「何もしてない」



「何もしてないんですか。なんか美人と喧嘩して爆発したって」



「してねえよ。うるせぇ、てめえらはさっさと救出作業してこい。ルイスはあっちだ、いったいった」



「あいさー!」



 しかも、そんな騒動になってしまったせいで緑の騎士団以外のほかの騎士団のものたちまで駆り出され、集まる部下たちが興味津々とばかりにジョシュに声をかけていくのだ。

 面倒くさくなってルイスに指揮は任せたが、なんやかんや後日始末書は書く羽目になるだろう。

 変態じみた集まりに参加していたやつらはおおかた既に救出されていた。愉しい時間が一瞬で大災害に変わったせいで皆放心した顔をしたまま、緑の騎士団につれられてどこかにむかっていった。

 大半の参加者は(どこまで参加していたかにもよるだろうが)厳重注意と恥ずかしい噂程度で終わるだろう。

 強姦未遂犯たちはジョシュの証言もあり、厳しくしょっぴかれていった。是非とも、公正な裁きを受けてほしい。

 あのとき捕まっていた被害者はすぐにどこかに連れて行かれた。まぁ、半裸だったし。自分がされたことと巻き込まれたことで混乱していたようだし、どうにか落ちついて安心できるといいと思う。

 そして、



「………」



「………何ですか」



「……………」



 破壊の元凶である銀髪の女は、ジョシュに隠れるように小さくなりながらもこちらをにらんでいた。

 ジョシュがかばったため大きなケガはないが、破壊の痕跡は彼女にも残っている。薄着ゆえに腕に少し切り傷があり、髪も埃っぽくなっている。

 そして、女性のドレス姿といえば薄着であり、そんな恰好であんな盛大な魔法を使えばどこかしこ破れたりなんだり汚れたりで、あまり目立たないほうがいいような格好になると決まっている。



「……ともかく、服を着替えたほうがいいな」



「え?あっ」



 平常心を装い、何食わぬ顔で上着を脱ぎ、女に着せる。



「寒くはないのか」



「別に、そんな。……いえ、寒いです」



 意地を張った数秒後にその言葉を翻し、彼女はジョシュの上着のすそを素直に握った。

 そして、恥ずかし気に顔を背けてつぶやくように言った。



「ガーメイン卿は良いとおっしゃっていましたし、私はもう帰ります」



 間を取り繕うのに戸惑ったように彼女はそれだけ言って歩き出した。その横にすかさず並んでジョシュも歩き出す。



「……なぜあなたまで」



「俺も帰っていいといわれたもんでね」



「そうですか……」



 あきらめたような女の様子にジョシュはにやりと笑った。



「ガーメイン卿の知り合いなんだな、君は」



「何も言いたくありません」じっとりした顔でジョシュを見る彼女だが、それも――



可愛い。

ジョシュは本能的解釈で理解したことがいくつもあった。それはきっと、上司である将軍にも無駄に気にしていた国王にも同僚だが年上ばかりだから余計な気ばかり回していた騎士団長たちにも。さんざん文句を言い続けていた黒の騎士団の連中にも怒られることだ。――いや、馬鹿にされるのかもしれない。

しかし、まぁ、それはどうでもいい。今、この瞬間のためには。



たしかに、自分はさんざんなことをしてきたらしい。



「言いたくなきゃ言わなくていいけど。――そうだ。帰る前に一杯付き合ってくれないか。おごらせてくれ。何か俺が悪いことをしたようだから」



 何食わぬ顔で下心を絶妙に隠したつもりの誘いに女は目を丸くし、長い時間考えた後。頭をこくりと縦に振った。



 ――彼女にも聞きたいことはたくさんあるのだ。





  ◇◇◇





「ちょっと、ちゃんときいているのですか。いいたいことはやまほどあるんですよ!つもりにつもった不平不満があるのですよ!そもそも私はあんなところに行くつもりなんてなくて!本当なんです!!」



はじめのうちは下町の飲み屋に入ったことがなかったらしい彼女はその乱雑さに戸惑った様子だったが、酒をすすめると、良い飲みっぷりに変わった。杯を重ねた現在では積年の恨み言を言い募り、顔を赤くしている。

 思わずニヤニヤみると、下からねめつけられる。

 視線が合う。

 座っても見下す形になることに、彼女の背の低さを痛感する。本人は気づいていないだろうが、薄汚れているとはいえ、細身の美人が酒を飲んでいるところをじっと見てくる男は多い。

 しかし、男物の上着をまとい、隣にその持ち主と思われる上に、一瞬でも近づこうとする男にはいち早くけん制の視線を向ける連れがいるせいで誰も話しかけてこない。

 今この瞬間の彼女は完全にジョシュの手のうちである。――本人は気づいていないが。



 ジョシュに心をどんどん許している感がある彼女であったが、いまだに自分から名前をジョシュに言わない。

 彼女は自分の名前をジョシュが知らないままだと思っているはずだ。

 であれば、いつ名乗るつもりなのか。



 彼女の愚痴は現在、よくわからない言い訳になっている。

 騙されてあのような破廉恥な集会に参加したことくらいジョシュだってわかっているのだが、どうやら彼女はどうしてもそれの言い訳を延々としたいらしく、酔っ払って堂々巡りをしつつも一切その話題から離れない。



(ただの愚痴というか言い訳だが、育ちの良さというか世間慣れしてない感が半端ないな)



 人付き合いが苦手なのだろう。こんなのにさんざん10年来も嫌がらせしてきた自分は相当根性が悪い。

 今の状況もさんざん飲んだが故に言葉が出てきているのだ。店に入ってすぐはろくに離せなかったのが杯を重ねるごとに口数が多くなっている(九割九分九厘同じ内容だが)



(しかし、酒に強かったな)



 ジョシュが進めるがまま飲む勢いがすごかった。正直ジョシュの知っている中でも強いほうだ。ジョシュは聞き手に徹している分飲む量を制限しているが、きっと同じように飲めば同じように酔っぱらってしまうだろう。



 酒をちみちみすすり始めて彼女が黙ると、ジョシュは咳ばらいをする。これからが本番である。――酔わせてからというのが非常にだめなのだが。.



「……お前は好きな奴はいるのか」



 ともかく、出来上がった彼女に本題を突き付けることにする。



「………はぁ……」



 とろんとした目で彼女はジョシュをにらんでくる。

 下心を感じ取られたかとジョシュは少し視線をそらしつつ、言い募る。



「いや、いないからか?いないから婚活をしているわけだよな。婚活でどうだ、相手は見つかったか?」



「………」



 彼女は無言で再び酒に唇をつける。

 少し乾燥しているそれにジョシュは目が離せなかった。

 女はため息をついてから、口を開いた。



「いませんよ、そんな人。――あなたは結局、結婚なんてするつもりがなかったんですね」



「そうだな、結婚したくて参加したわけではない」



 ジョシュは咳払いして、女の目を覗き込んだ。



「だが、君には心惹かれた。相手がいないなら、俺はどうだ?」



「……」



 とろんとした顔でジョシュを無言で眺めたのち、彼女はため息をついた。そして、思いのほかしっかりした動きで立ち上がる。

 流石に感涙して是と答えられるとは思わなかったが、この反応はさらに予想外だ。

 一気に攻め過ぎたか。ジョシュは彼女の動きを追う。普段は一緒に飲もうの一言でいろいろと察してくれる女性ばかりと“仲良く”していたせいで初心な女を口説いたことがなかったのだ。

 口説き方を知らないが女が寄ってきていたので不自由なかったのだ。など、一部には殺されそうな事実である。しかし、死活問題だ。

 ジョシュは彼女の動きが読めず、冷静さを装って彼女の手をつかむ。



「少し待ってくれ」



「――私はもう、酔ってきたので帰ります。なんか幻聴が聞こえ始めてきました」



「いや、まて、まだ話が終わっていない。あと幻聴じゃない」



「話はすみました。これ以上長居をするつもりはありません。だから――」



「………っ」



 ジョシュは焦った。この年で、飲み屋に連れ込んだのにこうも簡単に逃げられたことはなかった。

 皆暗黙の了解として了承していたのだ。でも、彼女は違う。

 いわなければ、わからない。いっても、答えてくれない。



 ――それでは、どうしたら



「なんですか。手を放して」つかんだ手を離すわけがない。振り放そうとする動きを力で止める



「お前をもっと知りたい」



 存外に純粋な言葉が出た。



「知りたいって、今まで知りたがらなかったくせに。今更なんで知りたいっていうんですか!」



 泣きそうな声は飲み屋に響く。皆が注目していることに、きっと彼女は気づいていない。



「私は!あなたの大嫌いな白の騎士団長なんですよ!!」



「知ってる。――それでもって、好きだ」



 静まり返った飲み屋にジョシュの言葉が響いた。

 女の動きが止まる。



(今度は率直過ぎで、いきなりすぎか)



 ジョシュは嘆息した。

 幻聴ではないと分かるくらいの勢いでは言うことができた。



 ――結局、そう感じてしまったものは、仕方がない。名前も知らない。何度かあっただけの女である時点でもう惹かれていた。そして、彼女が白の騎士団長だったと、いままでずっと嫌悪してきた存在だったと知った瞬間、ジョシュは理解した。

 だから、気になっていたのだ。だから、彼女に執着したのだ。それに気づいていなかっただけなのだ。

そして、そうと決まれば回りくどいよりは直球のほうがいいだろう。



「な、なんでですか。しってて、そんな!!――まさか最初から!!私を馬鹿にしてるんですか!!?」



「知らなかった。そもそもお前のこと男だと思ってたし」



「はぁーー!?」女は酔いがさめ切った顔をした。声が裏返っている。「な、私は最初から女ですが!!!」



「でも、男だと思ってたんだよな」



「………」



 意味が分からないという顔で振り向いた彼女の両手を包み込むように握りなおす。ジョシュは彼女の前にひざまずく。

 彼女は混乱した顔でジョシュを見、次に二人に注目する周囲に視線をやった。それぞれさわいでいた飲み屋の人々はいつの間にか白の騎士団長と黒の騎士団長に注目していることにやっと気づいたらしい。

白い肌が、再び赤く染まっていく。ジョシュは彼女の視線を戻すように、握った小さな手を強く握り直す。彼女はジョシュをみた。

 赤の瞳は美しい。

 まぁ、きっとあとから色々多方面から文句をいわれるであろうことは確実である。しかし、ジョシュは自分の勘とやらを信じて生きてきた。その勘の受け取り方を間違えて時間を無駄にしたことに対しては非常に我ながら遺憾である。だが、挽回出きればそれでいいだろう。 

 たぶん。









「ウーラ、――結婚してくれ」



 長年の天敵であった黒の騎士団長の言葉に白の騎士団長は口をまるくあける。



 ――そして、一瞬後、黒の騎士団長は盛大に張り手をされた。

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