【R18】黒の騎士団長と白の騎士団長は仲が悪い

寺谷ヒノ

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7.彼女がそう簡単に受け入れられるわけもなく

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「なんで、いまさら。何言ってるんですか」



 ウーラの声は震えていた。

 ジョシュは何とも言えなかった。にらむウーラをとりあえず、どうなだめようかと考える。



「最低さいていです。私が、何年、何年あなたを忘れようとしたかっ。好きなのに、大好きなのに!嫌われて!意味も分からなくて!ずっとずっと……!なのに、あなたはそう簡単にそんなことをっ、言ってしまうのですか!!」



 泣きながら言われた言葉に、ジョシュは立ち上がった。そして、知らんふりで酒を注いでいた店主に声をかける。



「上の部屋空いてるな?」



「今日は三階の角の部屋がおすすめだよ」



「金は明けに」



「はいよ、鍵」



「おう」



 阿吽の呼吸で飲み屋の主人に部屋を借り、「な、な!?」と混乱するウーラを抱き上げる勢いで階段に向かう。



「な、慣れすぎでは……!」



思わず、といった顔でつぶやくウーラにジョシュは



「衆人の前で泣きたかないだろう」とうそぶいた。



 階段を二段飛ばしで登れば、ウーラが身をひねる。

 落ちると危険なので強く抱きなおし、目的の部屋に入り込む。



「こ、ここ」



 困惑か、怯えか。落ち着かない表情でウーラは部屋を見渡した。大きいベッドが中心に置かれ、申し訳程度に机が端にある。旅の者が泊まるというよりも逢引用途の部屋だ。

 ウーラをベッドにおろす。さほど丁寧におろしてはいないのだが、きしまないベッドに少し笑いそうになる。――確かにおすすめかもしれない。

 ジョシュはとりあえず、固まったままのウーラを置いて廊下に出た。

 そして、廊下にある伝票に水、タオルと記入し、ベルを押して下に通じる気送管に入れる。

 こうしておくと、少しすれば部屋の前に(前に、というのが重要だ)頼んだものが置かれる、という仕組みである。ここはただの場末の飲み屋に見えるが、設備はしっかりしているので少し遊んでいるものであれば知っているものが多いのだ。

 部屋に戻ると少し酔いがさめた顔のウーラがいた。何やら先ほどよりもさらにがちがちと固まっている。

 その表情が面白くてドアを閉めたままの姿勢でじっと見ていると、ウーラはしびれを切らしたように口を開いた。



「――わ、わたしにらんぼうするつもりですか!?」



「ぶっ」



「なっ」



 ウーラの悲壮感すら漂った表情にジョシュは思わず笑ってしまった。



「なぜ笑うのですか!!こ、こんなところに連れ込んで!!なんですか!!私が何したっていうんですか!!」



「悪い悪い、いや、なんかこう、馬鹿だなーと思って」



「馬鹿にしてるんですね!?」



「お前じゃなくて俺が」



「あなたが馬鹿なことなんて騎士なら全員知ってますよ!?」



「だろうな。わかったわかった、落ち着け」



 なるほど。ベッドの上でぎゃんぎゃんと喚くウーラを見ていると本当に自分が馬鹿だと分かる。

 服装と最初の思い込みが原因とは言え、なぜこれを10年以上も男だと思っていたのか我ながら馬鹿すぎる。

 ベッドに座ってやろうかと思ったが、今近づくと再びビンタされそうなので、ジョシュはベッドから離れて備え付けの椅子に座る。背もたれを前にし、行儀が悪い姿勢で問う。



「で、聞きたいんだが」



「……」不信感をあらわにした表情でウーラはジョシュを見る



「結婚してくれ」



「……断ります」



「なんで」



「……10年以上もあんな態度取っておいて、今更どの面下げてそんなことを言うんですか」



「申し訳ないとは思っているが、しかし、お前さっき言ったろ。俺のことすきだったって、じゃあいいじゃねぇか。俺も好きだ、結婚しよう」



「………はぁ……」ウーラは大きくため息をついた。



「世界があなたのように単純だと話は早いと思いますが、私はそうではないのでお断りします」



「何故」



「何故って、まず信用がありませんし」ツン、と顔をそむけたウーラにジョシュは眉を寄せる。



「信用できない相手をお前はずっと好きだったのか?」



「………」ウーラは唇をかんだ。



「よくわからんな、お前の理屈は」



 ジョシュの言葉にウーラはキッとジョシュを見た。



「私もあなたの意見が全く全然心底理解できません。なんで昨日まで嫌悪していた相手に対していけしゃあしゃあと好きだの結婚しようだの言えるのですか」



「そりゃあ、結婚したいと思ったからだろ。両想いなら、さっさとことをすすめたほうがいいし」



「その両想いが!理解できないといっているんです!!!」



 ウーラはこぶしでベッドをたたいた。ジョシュは顎を撫でた。



「しかし、お前は俺のことが好きだと――」



「あああ!もう、そこはおいておいてください!!聞かなかったことにして下さい!!というか、言ったじゃないですか!!忘れようとしてるって!つまりは忘れつつあるわけです」



「忘れきれてない口ぶりだったが」



「しつこい!ともかく、私は、あなたと結婚したくないです。終了です。帰ります、酔いは十分さめました」



「とはいってもなぁ」



「どうせ、あなたは私が女ってことにも気づかないくらい鼻が利かないんですから、私が本当にあなたのことが好きかなんで」



 ジョシュはビキっとかたまった。ウーラは何か言い続けているが、内容が耳から入ってこない。



ジョシュが鼻が利かない、というのは割と周知の事実である。身体的特徴それこそ、耳がない、尾がない。目に見える獣の証がない、に加えて、ジョシュは鼻が利かなかった。

 耳も勘も運動神経も、ともすれば半端に耳だけ、尾だけ生えた獣人などと比べれば非常に優れている。

 しかし、鼻は利かない。



 黒の騎士団でのジョシュは、その性格も併せて親しみやすいといわれる団長である。親しみやすく、しかし、締めるところは締める。その統率力は獣人ではない、人間でありながら黒の騎士団の団長を務めることができているということの実力の一つなのだ。しかし、そんなジョシュにも鬼門の言葉がある。



耳や尾がない、獣人ではないことに次いで、ジョシュに行ってはいけない言葉に「鼻が利かない」があった。

過去、その言葉を発したために、ジョシュに決闘を挑まれ、後悔した部下多数。

負ければ団長をやめるという宣告のもと、プライドをかけて全力でかかってくるジョシュに大敗をきした部下たちは二度と「獣人ではなく人間の団長」ということに対する言葉を放とうとする者はいなかった。



 閑話休題。



「……あの」ジョシュの目が据わったことに気づいたウーラはその第六感の放つ危機感に背筋を凍らせた。



「……」



 ジョシュは椅子から立ち上がり、ウーラの座るベッドに近づいた。

 ウーラは引きつる口元に手を当て、後ずさる。



「――お前は俺のことが、嫌いなのか」



「きらいでは、ありません」



「では、好きか」



「……言いたくありません」



「俺に欲情するか」



「…………は?」ウーラは顔を赤らめた。「よ、よよよよくじょうってあの」



「意味が分からないのか?」



「わかりますがわかりますが!しかし。なぜそんなことを」



「大事だろう」



「ええ、そりゃまぁ、ええ、ですが……」



「俺はする」



 ウーラはその言葉に思わずジョシュの下半身に目が行った。



   ◇◇◇



 長らくの片思い相手となんかよくわからないけど酒を飲むことになって。

 ひたすら飲まされて、口が回るようになって。言いたいことを延々と言っていたら、意味わからないことを言われたので帰ろうとしたら、さらに理解しがたいことを言われて思わずビンタしたら、ベッドの上に座らされて。喚いていたら、なんだか、さらによくわからないことになった。



(た、勃って――!?) 



 ――ウーラとて、知ってはいる。もちろん性行為が何たるかだって、どうするかだって、そういうことは教育でも受けたし、騎士の仲間にはそういう話をしたがるのもいるし、そういうことをしているような内容の入った巷で売られる娯楽小説もこっそり読んでいる。

 男性が興奮すると下半身のそれが立ち上がって、こう、女性の下半身の穴をこうなんとかして、濡れたらつっこんで動いて云々。

 しかし、初恋から結婚適齢期まで片思いを延々と引きづっていたことや仕事の忙しさも相まって、男性とそのようなことをする機会に至ったことがない。

 初めては(嫌われている以上難しいのは承知だが)愛の告白をされていい感じになってジョシュがにっこりと自分を抱きしめて甘い口づけを受けて、とか考えて、もだえた後に死にたくなったことがごまんとあった。

 ただし。性行為をしたいとかそういうのよりも、抱きしめられてキスされてのほうがドキドキしたので、ジョシュとそういう関係になるのは想像していなかった。

 きっと彼は突然若くて可愛い女の子と結婚して、そしたら沢山子供ができて平和な家庭を作るんだろうなぁ私は何してんだろうなぁ10年以上もずっと片思いとか、とかなんとか考えるようになって。

 あきらめきれるんだろうか、そろそろ先に進むべきなんじゃないだろうかと最近婚活パーティに参加してみては心を折られまくってみたりして。あまつさえ、恋する相手と婚活パーティで行き会ってしまい、死ぬ心が死ぬ。みたいな状況で。

 申し込んでしまったから行くしかないけど、もう最後にしようと思ったパーティは不法薬物の事件現場で挙句の果てにまたジョシュに会ってしまうも相手は自分がだれかわかっていないようで、どうしたら。と思っていたら逃げた先で襲われる女性をみて思わず助けようと建物を破壊してしまい。普段はそんなことしないのに。考える過ぎるくらい考えるたちなのに。反省しきりで。

 そんなこんなでもう人生終わったと思っていたら、この状況。

想像していなかったの、だけ、ど。



「お前を抱きたい」



 ウーラは上の空でその言葉を聞いていた。目はジョシュの下半身に釘付けでロクに頭も回らない。

 だって、なんだか、ズボンを持ち上げるナニカがどうも彼の下半身にいるような。

 いやいや、そんな。彼の下半身をそんなに眺めたことはないが(顔を見つめることのほうが多い)、いやいや、普段はそんな感じじゃなかったような。



「ひっ」ウーラは視線をシーツに向けた。シーツ白いしーつほんとうにしろい。しーつしろい。



頭がぐるんぐるんと回って、この間よくわからない薬草を自分で試してみた時の感じに似てる。あのあと本気で部下に怒られたなぁ。



 しかし、そんなウーラの必死の現実逃避の努力はジョシュがベッドに乗りあがることによって破壊された。

 あしが!!じょしゅの足が!視界に入る!見上げる途中でまた股間が目に入ってウーラは気絶しそうになった。

 でも気絶できなかった。



「……な」



 顔を上げれば、すぐジョシュと目があった。



「お前が俺のことを好きじゃないというんだったら、お前は俺に興奮しないということだよな?」



 ウーラの顎にジョシュの手が伸びた。優しく、しかし、確実に逃がさない力加減でジョシュはウーラをとらえている。ジョシュの、普段はうすめの灰色の瞳は今や、戦っているときのように濃い色となり、逃がすものか、とぎらついている。

ウーラはこの場から消え去りたくなった。



 これからどんなことをされるのか。

 脳内に浮かぶのは昨今はやりの少しきわどい内容の女性向け小説であり、きわどいが細かい描写まではされていないがウーラの豊富な知識を合わせればすなわち――



 ――わ、私はめちゃくちゃにされてしまう……!



 なんかこう、ぎったんぎったんのぐっちゃぐちゃというかあはんうふんというか。あられもない感じというか。でも感じちゃうみたいな!

 たぶんきっと恥ずかしいこともいっぱい言わされてしまうのだろう。好きとか大好きとかくらいならいいけど、こう、じょ、女性器の恥ずかしい言い方とか、男性器の恥ずかしい方とか。もっとあれして!これしてほしいのぉとか!ハッ!もしかしたら、明日は動けないかもしれない。明日も仕事なのに。ここ最近、ジョシュが婚活をしているという噂を耳にしたせいで絶望のあまり、書類仕事も手に付かず。仕事終わりや休みには申し込んでいた婚活パーティに足を運び、疲れて更に仕事も進まず。さすがにたまりすぎたのと手あたり次第出過ぎて心が折れそうになった(悲しいことに仕事とジョシュへの思いがこじらせすぎて結婚適齢期の男性と結婚相手を見つけるためのおしゃべりは非常に多大なストレスになっていた)のも相まってそろそろセーブして、と、仕事の予定を休みにも入れたのだが――、

 ここでウーラは気づいた。



 ――騎士団全体に、婚活パーティにきてるの知られてしまったーーーー!



 実はとっくの昔に黒白以外の騎士団長たちには知られていて、後ろでそろそろあの子たちどうにかしてあげようとか老婆心(爺も混じっているのだが)の密談がされていたことはつゆ知らず。



 となると、きっと色々広まってしまう。ジョシュに片思いしていることもなんか気づいたら騎士団全体が知ってたし(なのにジョシュは気づかないし)、最近そわそわして仕事に手がつかない感じだったのも部下には気づかれていたし。

 挙句のはてに今更ながらジョシュに宿に連れ込まれてめちゃくちゃにされてしまう。

 これはかなり恥ずかしいのでは。つーかなんでジョシュはこんなに乗り気なのか。意味わからん。方向転換が急すぎる。



 ――ひたむきに仕事に打ち込み続けた人生だった。でも、もう、なんかもうよくわかんない。たぶん、死ぬしかない。



「こ、殺して……」混乱の極みにウーラは青ざめながら言った。



「お前は何を言ってるんだ」ジョシュは突然青ざめたウーラに眉を寄せた。



「わ、私なんてもう……結婚もできないし仕事も手につかないしだめなんです……ここでめちゃくちゃにされてしまったらさらにダメな人になってしまう……」



「……大丈夫か?結婚なら俺とすればいいだろう」



「そういう問題じゃないんです……」



「どういう問題なんだ」



「脳みそが筋肉でできていて考えるよりも本能のほうが先立つあなたを私は違うんです……」



「考えないほうがいいこともあるぞ」



「そんな……」



 ジョシュはとうとう涙を流し始めたウーラを首を傾げながら見ていたが、すぐに、「まぁいいか」といった。ウーラが「よくない」とつぶやこうとしたとき、ジョシュはウーラに口づけした。



「……!!」



 ガチっとウーラは固まった。

 間近にいつも遠めに見つめ続けた顔がある。

 伏したまつ毛の長さを感じながら、いつの間にか背中に回っていたジョシュの腕に抱きしめられる。彼は唇を重ねたままわずかに舌を出し、ウーラの唇をなぞる。

 ぞくぞくと背にしびれが走る。ウーラは思わず肩をすくめた。その動きにジョシュが目を開いた。

 灰色の瞳はこんなに近くで見るのは初めてだった。

 いつだって遠目で、近づけば彼はすぐに苛立たし気に視線をそらした。

 ウーラが頭を横に向けてジョシュの口づけから逃れようとすると、彼は面白そうな表情でそれを許した。代わりに耳が食まれる。



「……何がしたいんですか」



「落ち着いたな」耳元で聞こえるジョシュの落ち着いた声にウーラは戸惑う。



「……少しは」



 ウーラはうなずいた。確かに混乱は一応落ち着いた。しかし、そういう問題ではなくて。



「放してください」



「いやだ」



「……」やっぱり無茶苦茶にされてしまうのか。ウーラは冷静に(冷静ではない)考えた。



 いい年こいて処女を守ってきてしまったが、とうとうやられてしまうのだろう。これが長年好いた相手であったのが幸運か否か。

一昔前までは結婚するまで処女であることが当然であったが、最近では処女を必ずしも守って嫁ぐとは限らない。守るにこしたことはないが、しかし、処女でなくなったからと言って嫁ぎ先が難色を示すようなことは(基本)ない。

 とはいえ、処女を守って嫁ぎたい派もそこそこ根強くいるのだ。こればかりは乙女心というか。



「難しく考えるな。つまりだな、お前は俺のことが好きだったが今は好きでなくなろうと努力しているわけだ。しかし、俺としては七面倒くさいことは良いからそのまま俺を好きでいればいいんじゃないかと提案している」



「それがこの蛮行にどうつながると?処女を奪えば私がおとなしくなるとでも?」



「処女を奪うのが目的じゃなくて」



 ふいにジョシュの手がウーラのドレスの裾から侵入し、太ももに触れた。「ひっ」思わず悲鳴が漏れる。

――違う。これはさっきから侵入していたのだ。今この瞬間触ることで存在をアピールしただけなのだ。こんなところにも戦略が。

 ものすごい速さではない。でも、止めることができないような適度な動きで彼の手はウーラの足を這い上がり、とうとう、足の付け根にまでたどり着いた。

 ウーラは動きを止めた彼の手を服の上から抑えた。しかし、もう遅い。

 彼の指がウーラの未開の地の入り口をさする。優しく、極めて不純な気持ちなど持っていないかのように。しかし、目を上げれば交わる視線は情欲ににじみ、その落差にウーラは腹の奥がうずくのを感じて顔を赤らめた。



「――そう簡単に想いは捨てられないと体から示させるだけだ」



「――っ」ジョシュの言葉にウーラは息をのんだ。

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