追っかけメイドはイケおじ騎士団長とチョメチョメしたい!

春浦ディスコ

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第9話

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「エマ、瞼がすごいことになってるわよ」
「冷やしても治まらないの~~」

 えーんと泣き真似をすると、意外にも元気そうだと思ったのか、ソフィアがほっとしている。

(大丈夫、大丈夫、なんとかなるよね!)

 一晩泣いたらスッキリした。
 傷ついたって、失恋が決まっていたって、日常はやってくる。もうこの気持ちは後戻りできない。そうとなれば、前を向くしかない。なんとかなると自分を鼓舞する。今日も忙しくなる。

 ほとんどの騎士達は今日も討伐に向かった。出発を見届けた後、エマ達も身支度を済ませた。
 今日は食材の買い出しである。荷馬車を出してもらうため騎士二名とメイド二名で買い出しに行くことになった。

 補佐官と、二年目の騎士が馬車を出してくれると聞いていたが、集合時間にいたのはジルベルトとアベルの二人だった。

「おはよう」
「おはようございます」

 ジルベルトは荷馬車に座ると、当たり前のようにエマを手招きして、隣に来るよう促した。自分の気持ちを強く自覚してしまったエマは、そんなささいなことがたまらなく嬉しかった。腫れた眼を見られないように俯きながら乗り込む。初めて御者席に座ったが、思ったより狭く、ジルベルトとの距離が近い。
 街まで一時間弱ほどかかる。その間、隣に座っていられる。
 アベルはマリーンを隣に座らせている。デレデレと顔がだらしない。

 ジルベルトが手綱を強く引くと馬車が走り出した。荷台が空のせいか軽快にスピードを上げる。このままではすぐに着いてしまうのではないか。せっかくの二人きりの時間なのに。

 ジルベルトが口を開いた。

「大丈夫、本気にしていないよ」

 なんの事かと思った。逡巡すると、気がついた。

『団長様のほうが格好良いけど』

 鼻がツンと痛くなる。

(ほら、やっぱりね、私なんか相手にされないよ)

 苦しい。隣に座れたのに、全然楽しくない。やっぱり自覚なんかしなきゃよかったと、俯く。

「でも、エマみたいな可憐な女性にそんなことを言われると、男はすぐ本気になってしまうから、気をつけなさい」

 顔を上げて、ジルベルトの様子を伺う。

「……今、可憐って、言いました?」
「ああ、言ったが?」
「団長様こそ、そう言うのは、駄目ですよ!女はすぐ勘違いするんです!」
「本当に思っていることだから仕方ないだろう?」
「なっ、え、……え?」

 動揺するエマに、あははとジルベルトが笑う。

「そんなこと、ないです……モテないんですよ私」

 ポツリと呟く。

「そんなはずないだろう、魅力的だから。誰かが邪魔してるんだろうね」

 ジルベルトが不敵に口角を上げる。言っていることが理解できない。邪魔をされるほど、誰かに想われた記憶が無い。

「嬉しかったな、エマに格好良いと言われて。団長をやっていてよかったと思ったよ」
「……大袈裟です」

 ジルベルトがまた笑う。楽しそうだ。
 なんだかエマも楽しくなってきた。さっきまで絶望しそうだったのにジルベルトの様子に、今の、この時間を大切にしたくなった。

(本気にしてくれていいのに……はあ!やめてほしいなあ!全く!勘違いしちゃう!)

 横顔を何度も盗み見しながら、エマは道中を満喫した。

 街に着くと、ペアに分かれて買い出しをすることになった。ジルベルトとエマは八百屋に向かう。
 店内に入りエマが店主に食材を重さ単位で注文していると、馬を見ているジルベルトに店番の女性が話し掛けている。騎士服を着ているし、佇まいで上質な男だと分かったのだろう。

「やだあ、可笑しい」

 上目遣いでベタベタとジルベルトの腕を触っているのが視界に入った。ぐぬぬと嫌な気持ちが膨らむが、どうすることも出来ない。自覚するとこうも嫌な気持ちなってしまうのか。

 注文が終わると用意の為に店主が離れた。店先で待っていてくださいと言われたため、店内を出る。

「ジルベルトさん!注文が終わりました!」

 いまだにベタベタとジルベルトに触れる女性に張り合いたくなってしまったエマは、口にしたことが無い呼び方でジルベルトを呼ぶ。ジルベルトは振り向くと嬉しそうに、エマの腰を抱いた。

「あ、えっ」

 ジルベルトが振り向いて女性に言葉をかける。

「すまないね。大切な女性と来ているんだ」

 ジルベルトの言葉に、つまらないとでも言うような表情で店内に戻って行った。

「ありがとう、困っていたんだ。助けてくれたんだね」

 ジルベルトの腕がするりと離れていく。
えへへと誤魔化す。ただ嫉妬して団長の隣に女性がいるのが嫌だったんですとはさすがに言えない。

「今みたいにジルベルトと呼んでくれ」
「いえいえ、むしろ、不躾に申し訳ございません……」
「どうして?私が呼んでほしいと言っているのに」

(そんなこと言われると期待しちゃうじゃないか……!)

「えっと、ええっと……ジ」
「お待たせしております!とりあえず半分お渡ししますね!」

 元気な店主の声にエマの声がかき消された。恥ずかしくなったエマは店主と共に残りの食材を取りに店内に入る。
 ジルベルトが残念そうにしていたのを、エマは気づかなかった。

 それぞれの買い出しが終わり荷台は山盛りになった。ここ二日ほど肉料理が少なかったから、騎士達も喜んでくれるだろう。
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