女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋

春浦ディスコ

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第4話 公開練習①

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 一度、二度と誘われれば今日もお茶をするかもしれないと思い浮かぶ。サントロ伯爵家に向かうと、フィリップは不在だった。サラはなんとなくがっかりした気持ちになる。
いつも通りナターシャと打ち合わせを終わらせると、ナターシャから騎士団の公開練習の見学に誘われた。サラはそもそも公開練習の存在を知らなかった。

「公開練習、ですか?」
「王都の騎士団は年に数回、公開練習をするの。実はね、弟が騎士になってからずっと見に行きたかったのだけど、この足なこともあって勇気が出なかったの」

「今回も諦めようと思っていたのだけど、弟がサラさんを誘って一緒に来たらどうかと言ってくれてね」
「フィリップ様が!?」
「そうよ?やっぱり私の見立て通り、サラさんには嫌悪感を抱くどころか、好感を持っていると思うわ?」
「ええええ?」

 少しお話をさせてもらっているだけだ。好感を持たれる理由がない。

「とても信じられませんが……」
「やっぱりご一緒してもらうのは難しいかしら?お忙しい中、無理を行っている自覚はあるの。ただ、サラさんをお友達のように思ってしまって……ごめんなさい、ご迷惑を考えずに」
「行きましょう!ナターシャ様!」
「あら本当?楽しみにしてるわ」

 うるうると潤み始めた瞳に思わず、行くと言ってしまった。見間違いだったかと思うくらいニッコリと笑みを浮かべるナターシャに、もしかしたら騙されてしまったのかもしれない。
 サラが忙しいのは本当だが、公開練習という物に興味が湧いたのも本当だ。休日返上で働くほどには忙しいが、またとない機会に、少し残業を増やせばいいかと思った。

ーーー

 迎えに行くというナターシャの好意を丁重に断って、歩いてサントロ伯爵家に向かうと、侍女と付き人がナターシャを抱えて馬車に乗せている所だった。
 ナターシャが乗り降りしやすいように扉が通常の馬車と比べて大きく、さらに百八十度開く仕様となっていた。荷台には車椅子を乗せている。

「ナターシャ様、こんにちは」
「サラさん!ごきげんよう。今日をとっても楽しみにしていたわ」

 弾ける笑顔に、心からそう思っていることが伝わってきた。サラもやっぱり来てよかったと思った。サラが四人乗りの馬車に乗り込むと、王宮そばにある訓練場に向かった。
 門を潜って馬車寄せでナターシャが車椅子に乗り換えると、侍女が押し進める。その隣を歩いて訓練場に近づくと、人だかりが出来ている。

「想像より広いわ……!それに観客も多いわね」

 楕円形の大きな広場のその周りに柵がある。柵の外側には数百人はいるだろうか。騎士の家族らしき子連れもいるが、かなりの数の令嬢が連れ立って来ているようだ。きゃあきゃあとはしゃいでいる。

 空いているスペースを見つけ柵の前に立つと、騎士達が木刀を降っている所が見えた。
百人以上はいるだろうか、騎士が二人一組になって向かい合って対峙している。覇気を出すような声に圧倒される。無言で眺めていると、遠くに鮮やかな金色の髪の毛を見つけてナターシャに声を掛けた。

「ナターシャ様、あそこにフィリップ様がいらっしゃいますね!」

「どこかしら……本当だわ、見つけたわ!」

 ナターシャの嬉しそうな声に、サラももう一度フィリップを見つめた。
 初めて会ったときを思い出すような険しい顔で木刀を持ちながら間合いを取っている。相手が実力者なのか、中々決着が着かない。周りの二人組が結果を上長に伝えている中、フィリップの手合わせが続く。最後まで取り残されると、フィリップが、相手を尻もちさせて木刀を下ろした。反対側の観客、主に女性達がきゃあきゃあと騒いでいる。

「まあ!勝ったようね!」
「お強いのですね」

 フィリップを呼ぶ女性の声があちこちから聞こえる。人気の凄さが伺える。フィリップは意に介さずに、戦った相手と何か話し込んでいる。真面目な様子に、サラはぼおっと見惚れてしまった。

 休憩に入ったのか、騎士達が柵に備え付けられている扉から外に出てきた。フィリップも周りを見渡している。ナターシャが手を振るので、私も手を振ったほうが見つかりやすいかと思いつつ、そもそも手を振っていいものかと悩んで、少し控えめにフィリップに手を振った。

 こちらに気づくと、顔の表情を緩めた。その表情にドキリとする。きっとナターシャに気づいて微笑んだだけなのに、自分に向けられたように思ってしまった。油断してしまった。親しくなったと勘違いしてはいけない。

「ナターシャ、サラさん、来てくれましたか」

 走って近づいてくると、男性の背丈ほどの高さがある柵に手を掛けてあっさりとこちら側に飛び越えた。

「まあ、フィリップったら行儀が悪いわ、皆さん扉から外に出ているのに」
「こちら側は扉がないですからね」
「だからこちら側は空いているのね」
「そうだと思いますよ……サラさん」
「はいっ!」

 話しかけられて緊張する。最近は緊張しなくなったというのになぜだろう。

「姉と一緒に来てくださりありがとうございます」
「いえ、貴重な公開練習を拝見できて嬉しいです」
「ゆっくり見ていってください」
「ありがとうございます」

 出会った日に険しい顔をされたのが嘘のように、微笑んでくれると、ここでは見にくいでしょうと、特別席に案内してくれた。屋根があり階段状の段差になっているスペースに連れていかれると、車椅子を横付けさせて、サラもおこぼれをもらい、一番前に座らせてもらった。

「こんな特等席、いいのでしょうか……」
「ありがたく拝見させてもらいましょう」

 優雅に微笑むナターシャの貫禄に、さすが伯爵令嬢だと尊敬の念を抱く。

 特別席には品のある老夫婦や、明らかに位の高そうなご婦人達が座っている。車椅子のナターシャに何人もが挨拶しにやってきた。その度にナターシャが、サラのことを友人ですと紹介してくれた。
 ナターシャへの挨拶の波が落ち着くと、背後からは若い女性達の声で、誰が格好いい、誰が人気があると楽しげ声が聞こえてきた。やっぱりフィリップ様よねえ、といううっとりとした声や、この前差し入れをした時に……という言葉に、なぜか心がざわめく。フィリップが人気があることはとっくに知っているはずなのに。

 鐘が鳴る。どうやら公開時間の終了する合図のようだ。

 終始フィリップばかり目で追いかけてしまった。激しく動く姿は初めて見るが、いつもの優雅な姿とのギャップに圧倒された。額に汗をかき髪が乱れても格好が良かった。そんなフィリップにうっかりときめいてしまった。

「フィリップに挨拶は難しいようだから、帰りましょうか」
「そうですね」

 フィリップが女性に囲まれている。人だかりが何重もの円になっておりフィリップの姿がほとんど見えないほどだ。同じようにいくつか人だかりができている、

 ナターシャと馬車寄せに向かうと、先客がいた。付き人を連れた女性は、ナターシャの姿を見つけると、腕を組み、睨みつけてきた。
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