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第3話 出会い③
しおりを挟む突然の出来事に驚きながらも談話室に向かうと、ナターシャは今回の仕上がりも大変喜んでくれた。ナターシャからも先日の件を改めて謝罪され、恐縮してしまった。
「素敵なサラさんなら、弟も嫌悪感を感じることはないだろうと思ったの……サラさんに嫌な思いをさせてごめんなさい」
平凡な顔つきであることは自覚しているが、お世辞と分かっていても、美しいご令嬢に素敵と言われると素直に嬉しい。
話が一段落すると、早速試着するというナターシャにサラは部屋を出る。部屋の外で待っていたフィリップに会釈をすると、二人で庭に出た。
ガゼボにお茶が用意されている。無視することもできず、勧められた椅子に座る。
フィリップが意を決したように語り出した。
「簡単に申しますと、トラウマがありまして」
黙って言葉を待つ。
「昔からモテてはいたのです。騎士学校に通う間に、近くの女学院の生徒に待ち伏せされることはよくあったのですが」
想像が容易い。この美貌で騎士の卵となれば、モテないわけが無い。
「一年次は待ち伏せされて寮まで付いてくる程度だったんです」
それだけでも十分、鬱陶しいだろう。世の中の女性はそんなに積極的なのか。サラにはない感覚だ。
「二年次には、自分が彼女だと言う女性が何人も現れ何度も口論に巻き込まれました。女性達が私は告白された、どこかに出かけた、キスをしたと言い合って、仕舞いには取っ組みあいになることもありましたね。もちろん誰とも付き合っていません」
「え、えー……」
さすがにやり過ぎだろう。彼女だと嘯いて、一体なんの意味があるのだ。フィリップの気を引きたかったのだろうか。それとも他の女性に牽制したかったのだろうか。どっちにしろ逆効果だろう。
「最終年度の三年次には俺の子供を妊娠をしたという令嬢が現れ、認知しなければ自殺すると脅されました」
衝撃的な話に、サラは言葉も出ない。思わず口を開けて固まってしまった。
「結果的に、騎士学校の仲間との間の子と判明して。仲間はその女性に惚れていたようで……。女性は俺の子だと主張して、仲間は自分との子だと主張して、俺は童貞だと主張する修羅場になりました。……騎士学校時代の様々な積み重ねで、気づいた時には姉以外の女性に強く嫌悪感抱くようになってしまい、……すみません」
少し俯き加減のフィリップは、虚空を見ているかのように無表情だ。
「それは、嫌悪感を抱くようになってしまうほどの出来事だと思います。そうなっても仕方がないと思います」
「とにかく女性に近づきたくなくて、言い訳ではありますが、あなたにもあのような態度を取ってしまいました。申し訳ありません」
フィリップが眉を潜めてさらに頭を下げる。
「私は全然、気にしていません!これからは、近づかないように気をつけますし、話しにくいことを教えてくださり、ありがとうございます。これからもナターシャ様の担当をさせていただきたいと思っておりますし、本当に、気になさらないでくださいね」
フィリップが本気で気にしていそうなので、気に病まないように出来るだけ明るく返事する。サラは全然傷ついたり、悲しんだりしていない。
「あ、いえ……本当に、すみません。……あなたに感謝しているのは本当です」
「そのお言葉だけで、嬉しいですし頑張れます!」
えへへと、つい顔が緩む。仕事を褒められることが一番嬉しい。頑張りが認められる瞬間だ。
「姉は、事故の後、数年塞ぎ込んでいたので」
「やはり、……そうでしたか」
確かに、最初にナターシャに会った時は表情が乏しくぼんやりとしていた。今は随分と朗らかになった。
「元々、活発なタイプで乗馬やテニスを好んでいましたが、趣味はどれも出来なくなってしまい、趣味の友人達とも疎遠となり、ベッドの上でぼんやりと過ごしていたんです」
想像しただけで泣きそうになる。どれほど辛かったろうか。事故についても、軽くは聞いている。
「叔母からの紹介であなたがいらっしゃるようになってからは、指折り数えるようにいつも楽しみに待っていますよ」
「ナターシャ様の……少しでも力になれたのであれば、これ以上の喜びはありません」
泣きそうになったため、お茶を飲み干して席を立つ。
「では今日はこちらまでで大丈夫ですので……談話室へも一人で戻れますし」
「……折角ですので、サラさん。庭を案内させてください」
「いいのですか?」
「はい、約束ですので」
意外ではあったが、フィリップがわざわざそう言うのであれば、案内しないと気が済まないのだろう。お言葉に甘えると、前回とは違い、ゆったりとした歩調で区画ごとにコンセプトや花の種類を説明してくれた。嫌々話をしている感じはしないため、気になったことを質問しながら一周した。
前回とは違って、フィリップが談話室の前まで連れてきてくれると、目を合わせて別れの挨拶をしてくれた。どうぞゆっくりお過ごしくださいと言って去った後に、先程フィリップに名前で呼ばれたことに気づいた。
嫌悪感を抱かれていないといいなと思った。
不思議なことに、次の訪問でもナターシャが試着をするタイミングで、フィリップがお茶を誘ってくれた。サラは何度も断ったが、フィリップが嫌そうな顔をするので、最終的に同席することにした。
話始めれば、意外にも楽しかった。フィリップは二十四才のナターシャの四つ下で二十才。サラの二つ年下だ。騎士学校を卒業後、王都の騎士団に所属しているそうだ。ここ半年でナターシャが舞台を観に行くのにハマっているらしく、弟のフィリップも付き添っていくことや、騎士の仕事について話してくれた。舞台も騎士にも無縁なサラには新鮮な世界だった。
その次も、フィリップに誘われお茶をした時は、伯爵家の家業について話してくれた。伯爵領は広大な土地ゆえに様々業種に携わっているそうだ。領地経営や農産業はもちろん、最近は不動産業まで。資源が豊富なことで有名な山も伯爵領内にあると言う。
フィリップの父親である伯爵はまだまだ現役ではあるが、時期を見てフィリップも領地経営の仕事に比重を重くしていくらしい。
あまりの落差に恥ずかしながらも、自然とサラの身の上話にもなった。四人兄弟の長女であることや、転職を経て今のアトリエで働きはじめて四年経つことを話せば驚いた様子だった。働き出して長いことも、年上なことも意外だったらしい。確かに童顔ではある。
フィリップはサラが若い歳で働き始めたことに、一緒ですねと反応してくれた。フィリップも物心ついた頃から、嫡男として働くことは当然だったらしい。フィリップが若い頃の苦悩を話せば、それこそ共感の嵐だった。サラの話にも質問をしてくれたり、興味を持ってくれているような口ぶりに、サラも自然と会話が弾んだ。着替えの時間だけのお喋りが物足りないほどに、楽しい時間を過ごした。
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