女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋

春浦ディスコ

文字の大きさ
3 / 27

第3話 出会い③

しおりを挟む

 突然の出来事に驚きながらも談話室に向かうと、ナターシャは今回の仕上がりも大変喜んでくれた。ナターシャからも先日の件を改めて謝罪され、恐縮してしまった。

「素敵なサラさんなら、弟も嫌悪感を感じることはないだろうと思ったの……サラさんに嫌な思いをさせてごめんなさい」

 平凡な顔つきであることは自覚しているが、お世辞と分かっていても、美しいご令嬢に素敵と言われると素直に嬉しい。

 話が一段落すると、早速試着するというナターシャにサラは部屋を出る。部屋の外で待っていたフィリップに会釈をすると、二人で庭に出た。

 ガゼボにお茶が用意されている。無視することもできず、勧められた椅子に座る。
 フィリップが意を決したように語り出した。

「簡単に申しますと、トラウマがありまして」

 黙って言葉を待つ。

「昔からモテてはいたのです。騎士学校に通う間に、近くの女学院の生徒に待ち伏せされることはよくあったのですが」

 想像が容易い。この美貌で騎士の卵となれば、モテないわけが無い。

「一年次は待ち伏せされて寮まで付いてくる程度だったんです」

 それだけでも十分、鬱陶しいだろう。世の中の女性はそんなに積極的なのか。サラにはない感覚だ。

「二年次には、自分が彼女だと言う女性が何人も現れ何度も口論に巻き込まれました。女性達が私は告白された、どこかに出かけた、キスをしたと言い合って、仕舞いには取っ組みあいになることもありましたね。もちろん誰とも付き合っていません」

「え、えー……」

 さすがにやり過ぎだろう。彼女だとうそぶいて、一体なんの意味があるのだ。フィリップの気を引きたかったのだろうか。それとも他の女性に牽制したかったのだろうか。どっちにしろ逆効果だろう。

「最終年度の三年次には俺の子供を妊娠をしたという令嬢が現れ、認知しなければ自殺すると脅されました」

 衝撃的な話に、サラは言葉も出ない。思わず口を開けて固まってしまった。

「結果的に、騎士学校の仲間との間の子と判明して。仲間はその女性に惚れていたようで……。女性は俺の子だと主張して、仲間は自分との子だと主張して、俺は童貞だと主張する修羅場になりました。……騎士学校時代の様々な積み重ねで、気づいた時には姉以外の女性に強く嫌悪感抱くようになってしまい、……すみません」

 少し俯き加減のフィリップは、虚空を見ているかのように無表情だ。

「それは、嫌悪感を抱くようになってしまうほどの出来事だと思います。そうなっても仕方がないと思います」
「とにかく女性に近づきたくなくて、言い訳ではありますが、あなたにもあのような態度を取ってしまいました。申し訳ありません」

 フィリップが眉を潜めてさらに頭を下げる。

「私は全然、気にしていません!これからは、近づかないように気をつけますし、話しにくいことを教えてくださり、ありがとうございます。これからもナターシャ様の担当をさせていただきたいと思っておりますし、本当に、気になさらないでくださいね」

 フィリップが本気で気にしていそうなので、気に病まないように出来るだけ明るく返事する。サラは全然傷ついたり、悲しんだりしていない。

「あ、いえ……本当に、すみません。……あなたに感謝しているのは本当です」
「そのお言葉だけで、嬉しいですし頑張れます!」

 えへへと、つい顔が緩む。仕事を褒められることが一番嬉しい。頑張りが認められる瞬間だ。

「姉は、事故の後、数年塞ぎ込んでいたので」
「やはり、……そうでしたか」

 確かに、最初にナターシャに会った時は表情が乏しくぼんやりとしていた。今は随分と朗らかになった。

「元々、活発なタイプで乗馬やテニスを好んでいましたが、趣味はどれも出来なくなってしまい、趣味の友人達とも疎遠となり、ベッドの上でぼんやりと過ごしていたんです」

 想像しただけで泣きそうになる。どれほど辛かったろうか。事故についても、軽くは聞いている。

「叔母からの紹介であなたがいらっしゃるようになってからは、指折り数えるようにいつも楽しみに待っていますよ」
「ナターシャ様の……少しでも力になれたのであれば、これ以上の喜びはありません」

 泣きそうになったため、お茶を飲み干して席を立つ。

「では今日はこちらまでで大丈夫ですので……談話室へも一人で戻れますし」
「……折角ですので、サラさん。庭を案内させてください」
「いいのですか?」
「はい、約束ですので」

 意外ではあったが、フィリップがわざわざそう言うのであれば、案内しないと気が済まないのだろう。お言葉に甘えると、前回とは違い、ゆったりとした歩調で区画ごとにコンセプトや花の種類を説明してくれた。嫌々話をしている感じはしないため、気になったことを質問しながら一周した。
 前回とは違って、フィリップが談話室の前まで連れてきてくれると、目を合わせて別れの挨拶をしてくれた。どうぞゆっくりお過ごしくださいと言って去った後に、先程フィリップに名前で呼ばれたことに気づいた。
 嫌悪感を抱かれていないといいなと思った。

 不思議なことに、次の訪問でもナターシャが試着をするタイミングで、フィリップがお茶を誘ってくれた。サラは何度も断ったが、フィリップが嫌そうな顔をするので、最終的に同席することにした。
 話始めれば、意外にも楽しかった。フィリップは二十四才のナターシャの四つ下で二十才。サラの二つ年下だ。騎士学校を卒業後、王都の騎士団に所属しているそうだ。ここ半年でナターシャが舞台を観に行くのにハマっているらしく、弟のフィリップも付き添っていくことや、騎士の仕事について話してくれた。舞台も騎士にも無縁なサラには新鮮な世界だった。

 その次も、フィリップに誘われお茶をした時は、伯爵家の家業について話してくれた。伯爵領は広大な土地ゆえに様々業種に携わっているそうだ。領地経営や農産業はもちろん、最近は不動産業まで。資源が豊富なことで有名な山も伯爵領内にあると言う。
 フィリップの父親である伯爵はまだまだ現役ではあるが、時期を見てフィリップも領地経営の仕事に比重を重くしていくらしい。
 あまりの落差に恥ずかしながらも、自然とサラの身の上話にもなった。四人兄弟の長女であることや、転職を経て今のアトリエで働きはじめて四年経つことを話せば驚いた様子だった。働き出して長いことも、年上なことも意外だったらしい。確かに童顔ではある。

 フィリップはサラが若い歳で働き始めたことに、一緒ですねと反応してくれた。フィリップも物心ついた頃から、嫡男として働くことは当然だったらしい。フィリップが若い頃の苦悩を話せば、それこそ共感の嵐だった。サラの話にも質問をしてくれたり、興味を持ってくれているような口ぶりに、サラも自然と会話が弾んだ。着替えの時間だけのお喋りが物足りないほどに、楽しい時間を過ごした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...