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第2話 出会い②
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フィリップの嫌そうな態度に、サラは慌てて断りを入れる。
「いえ、あの、本当に結構です。いつも通り、待っていますので」
「......分かりました」
姉の言うことは絶対なのだろうか。明らかに嫌そうなのに、フィリップが案内を了承してしまった。
「すみません......」
先を歩くフィリップに付いて庭に出る。気まずい。姉の頼みを反故することができないのだろうか。黙って後ろを付いて歩くが、庭に出るとサラは思わず声を漏らした。
「わあ、壮観ですね」
細かいことはわからないが、幾何学模様のように切り揃えられた生け垣も、種類ごとに分けられた花々がどれもこれも美しい。この広さだと実家がいくつ入るだろうか。伯爵家の敷地の広さが恐ろしい。
思わず声を漏らしたサラにフィリップは何も返さずに歩き続ける。予防線を張っていることがありありと伝わってきた。歩くのも早く、付いていくのに大変だ。ナターシャの弟であるフィリップは、昔からとんでもなくモテてきたとナターシャから聞いたことがある。
フィリップを一目みれば、それも納得である。美しい顔つきは、どの角度から見ても見惚れてしまうほどに格好良い。伯爵家の嫡男ということも合わせれば、どれほどモテていたのかは想像もできない。
それゆえに、様々なトラブルに巻き込まれてしまったそうだ。不用意に女性と仲を深めないのも納得である。
サラは大切な顧客の弟に嫌われないよう距離を開けて、しかし置いていかれないように歩く。終始無言で、庭を一周すると、フィリップがエントランスで立ち止まった。
「では」
それだけ言い残し、フィリップはどこかに行ってしまった。サラは申し訳ないことをしたと思いながらナターシャのいる談話室に戻った。
「いかがでしたか?」
「サイズもぴったりだったわ」
上半身が下着姿のナターシャに、失礼しますと声を掛けてから、肩紐の長さと、アンダーバストの締め付けを確認する。胸元はバストを包み込むような形にしてよかったと、内心で自分を褒める。まろやかな乳房が美しい曲線を描き、寄せられて出来た谷間が綺麗に見える。ナイトドレスと言っても過言では無いほど、色っぽく感じる。
「問題なさそうですね、もし気になる箇所が出てきた際は、なんなりとお申し付けくださいね」
「分かったわ。よかったら、色違いを作ってもらうことはできる?」
「素敵ですね!もちろん可能ですよ。色味はどうしましょうか?」
試着した下着の上から侍女にドレスを着せてもらうナターシャを待ちながら、サンプル生地を広げる。早速打ち合わせに入ると、ナターシャの意見をノートに書き連ねる。細部の色味を話し合うとあっという間に時間は過ぎる。
話がまとまり席を立つと、今日の品物のお代をいただいた。お礼を言うサラに対して、ナターシャが頭を下げた。
「今日は、弟がごめんなさい。きっとまともに案内していなかったんじゃないかしら」
「いえいえ、しっかり一周、案内していただきましたよ」
歩いただけではあるが、嘘ではない。
「挨拶もまともにせずにあんな顔をするなんて、女性嫌いと言えど、サラさんに失礼だわ。叱っておくわね」
「そんな、お叱りは必要ありませんので......本当に……」
ナターシャに挨拶をして屋敷を出る。フィリップとのハプニングはあったが、新作をナターシャに気に入ってもらえて良かった。ほっとしながら帰路に着いた。
ーーー
もちろん顧客はナターシャだけではない。日々、受注を受けた製作に没頭する。実はこのアトリエは紹介制でしか顧客が増えない。既存の顧客を大切にするためである。一度、下着を作ってもらうと、お得意様になることがほとんどであることや、従業員が三人しかいないため、生産量に限界があることから簡単に客を増やせない。
ナターシャに改めて依頼された後に、別の顧客から紹介があったマグワイヤー子爵家に打ち合わせに向かったが、随分と難航していた。
拘りが強いお客様は多いが、子爵令嬢のジュリアンは、意見がころころと変わった。宝石の加工と卸売業を家業としているマグワイヤー子爵家で生まれた一人娘のジュリアンは、蝶よ花よと甘やかされて育ったのだろうと、訪問する度に伝わってきた。
ヒアリングのために何度も屋敷に行ったが、やはりこっちがいい。最初の案にする。色を変えたい。と中々、希望が定まらなかった。毎回打ち合わせの後半は不機嫌になり、侍女やメイドにあたりちらし、サラも気まずさと申し訳なさで心が押し潰されそうだった。
アトリエとお屋敷を行き来するだけで製作時間が減るため、残業しては既に受注を受けている製作を行った。
子爵家に通う日が合わせて十日を超えた頃、みかねたアリアナが、仕上がったナターシャの商品を届けてくれた。ナターシャは元々アリアナと二人で担当していたため、アリアナが届けても問題はないだろう。
自分で届けたかった気持ちもあるが、ジュリアンは他の担当は嫌だというので、今日もマグワイヤー子爵家へ足を運んだ。ここまでオーダーが決まらない客は始めてだ。顧客から紹介されている手前、邪険には出来なかった。
ナターシャは色違いの下着も大変気に入ってくれたらしく、洗い替えとして全く同じものをもう一セット依頼してくれた。途切れることなく注文してくれるお得意様に頭が上がらない。期待を裏切らないように、受注を受けたオーダーはどれも時間をかけて作製した。お得意様をないがしろにはしたくない。
「サラ、しっかり食べてる?最近少し痩せたわ」
「夜、作業を切り上げると寝てしまうんですよねえ。でもその代わり朝はたくさんいただいてますよ」
食事は朝夕と、二階の食卓の上に置かれており、好きなタイミングで食べていいことになっている。サラはミーナが用意してくれる料理が大好きだった。昼食は外で済ましたり、食べる時間が無かったりでまちまちだ。
最近は製作に夢中で食事がおざなりになっていた。少し痩せてしまったが、体調は悪くない。
それぞれ抱えている仕事が多いことや、顧客に対して一人が担当についているため、基本的に製作を助けてもらうことはない。サラが受注を受けた商品は、サラが全て担当する。
「無理しないでね」
ミーナの言葉に返事をして、気合いを入れるためにパチンと前髪を押さえる髪留めをつけて、納期に向けて作業を進めた。忙しいことに不満はない。強いて言えば、恋人を作る暇もないことくらいだろうか。そもそも出会いもないが。ずっと働き詰めだったサラはまだ恋人が出来たことがない。しかし、最近恋人が出来てより一層可愛さが増したような、 幸せそうなアリアナに、きっと素晴らしいものなんだろうと夢を見る気持ちはあった。
ーーー
粘り強くジュリアンと対話を試みたサラは、なんとかジュリアンからの受注を受けることが出来た。ヒアリングだけでかなりの時間を取られたが、落ち着いて作業が出来るようになった。
アリアナにサントロ伯爵家に行ってもらってから一月が経った。ナターシャの洗い替えの下着が出来上がったため、納期よりも早いが早速届けに上がりたい。先触れの手紙に、翌々日には返事がきたため、屋敷を訪れた。
エントランスに入ると、弟のフィリップが待ち構えていた。想像もしていなかった登場に、サラは正直気まずかったが、ぺこりとお辞儀をして挨拶をする。
「前回のお詫びをさせてください」
いきなり前回の核心をつくような言葉に目を丸くする。フィリップが腰を折り頭を下げた。
「ナターシャが、下着を何度も作っていただく内に、明るさを取り戻していったのを理解していたのに、……失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません」
「わわっ、顔を上げてください!全く気にしていません……!」
「前回いらっしゃらなかったので……姉は俺のせいだと」
「ええ!?違います!前回は別の仕事が立て込んでいたのでアリアナさんが代わってくれただけなんです。お庭の案内は結構ですし、私もお近づきしないように、気をつけます」
「……ナターシャから何か聞いていますか?」
「えーっと」
言葉の選択を間違えてしまったかもしれない。ナターシャから女性が苦手だと聞いていたことがバレてしまったかもと、しどろもどろになっていると、意外な言葉が返ってきた。
「聞いてるなら話は早いのですが」
姉から話を聞いていることに怒ってはいないようだ。サラは素直に白状した。
「えーっと、すみません、……おモテになる話を少しだけ……」
「そうですか、やはり改めて庭を案内をさせてくれませんか。俺に嫌悪感がなければ、ですが」
「嫌悪感だなんて、滅相もないです!」
「そうですか、では後ほど」
フィリップは前回と同様にどこかに行ってしまったが、どうやら違う展開になりそうなことに、サラはただただ困惑していた。
「いえ、あの、本当に結構です。いつも通り、待っていますので」
「......分かりました」
姉の言うことは絶対なのだろうか。明らかに嫌そうなのに、フィリップが案内を了承してしまった。
「すみません......」
先を歩くフィリップに付いて庭に出る。気まずい。姉の頼みを反故することができないのだろうか。黙って後ろを付いて歩くが、庭に出るとサラは思わず声を漏らした。
「わあ、壮観ですね」
細かいことはわからないが、幾何学模様のように切り揃えられた生け垣も、種類ごとに分けられた花々がどれもこれも美しい。この広さだと実家がいくつ入るだろうか。伯爵家の敷地の広さが恐ろしい。
思わず声を漏らしたサラにフィリップは何も返さずに歩き続ける。予防線を張っていることがありありと伝わってきた。歩くのも早く、付いていくのに大変だ。ナターシャの弟であるフィリップは、昔からとんでもなくモテてきたとナターシャから聞いたことがある。
フィリップを一目みれば、それも納得である。美しい顔つきは、どの角度から見ても見惚れてしまうほどに格好良い。伯爵家の嫡男ということも合わせれば、どれほどモテていたのかは想像もできない。
それゆえに、様々なトラブルに巻き込まれてしまったそうだ。不用意に女性と仲を深めないのも納得である。
サラは大切な顧客の弟に嫌われないよう距離を開けて、しかし置いていかれないように歩く。終始無言で、庭を一周すると、フィリップがエントランスで立ち止まった。
「では」
それだけ言い残し、フィリップはどこかに行ってしまった。サラは申し訳ないことをしたと思いながらナターシャのいる談話室に戻った。
「いかがでしたか?」
「サイズもぴったりだったわ」
上半身が下着姿のナターシャに、失礼しますと声を掛けてから、肩紐の長さと、アンダーバストの締め付けを確認する。胸元はバストを包み込むような形にしてよかったと、内心で自分を褒める。まろやかな乳房が美しい曲線を描き、寄せられて出来た谷間が綺麗に見える。ナイトドレスと言っても過言では無いほど、色っぽく感じる。
「問題なさそうですね、もし気になる箇所が出てきた際は、なんなりとお申し付けくださいね」
「分かったわ。よかったら、色違いを作ってもらうことはできる?」
「素敵ですね!もちろん可能ですよ。色味はどうしましょうか?」
試着した下着の上から侍女にドレスを着せてもらうナターシャを待ちながら、サンプル生地を広げる。早速打ち合わせに入ると、ナターシャの意見をノートに書き連ねる。細部の色味を話し合うとあっという間に時間は過ぎる。
話がまとまり席を立つと、今日の品物のお代をいただいた。お礼を言うサラに対して、ナターシャが頭を下げた。
「今日は、弟がごめんなさい。きっとまともに案内していなかったんじゃないかしら」
「いえいえ、しっかり一周、案内していただきましたよ」
歩いただけではあるが、嘘ではない。
「挨拶もまともにせずにあんな顔をするなんて、女性嫌いと言えど、サラさんに失礼だわ。叱っておくわね」
「そんな、お叱りは必要ありませんので......本当に……」
ナターシャに挨拶をして屋敷を出る。フィリップとのハプニングはあったが、新作をナターシャに気に入ってもらえて良かった。ほっとしながら帰路に着いた。
ーーー
もちろん顧客はナターシャだけではない。日々、受注を受けた製作に没頭する。実はこのアトリエは紹介制でしか顧客が増えない。既存の顧客を大切にするためである。一度、下着を作ってもらうと、お得意様になることがほとんどであることや、従業員が三人しかいないため、生産量に限界があることから簡単に客を増やせない。
ナターシャに改めて依頼された後に、別の顧客から紹介があったマグワイヤー子爵家に打ち合わせに向かったが、随分と難航していた。
拘りが強いお客様は多いが、子爵令嬢のジュリアンは、意見がころころと変わった。宝石の加工と卸売業を家業としているマグワイヤー子爵家で生まれた一人娘のジュリアンは、蝶よ花よと甘やかされて育ったのだろうと、訪問する度に伝わってきた。
ヒアリングのために何度も屋敷に行ったが、やはりこっちがいい。最初の案にする。色を変えたい。と中々、希望が定まらなかった。毎回打ち合わせの後半は不機嫌になり、侍女やメイドにあたりちらし、サラも気まずさと申し訳なさで心が押し潰されそうだった。
アトリエとお屋敷を行き来するだけで製作時間が減るため、残業しては既に受注を受けている製作を行った。
子爵家に通う日が合わせて十日を超えた頃、みかねたアリアナが、仕上がったナターシャの商品を届けてくれた。ナターシャは元々アリアナと二人で担当していたため、アリアナが届けても問題はないだろう。
自分で届けたかった気持ちもあるが、ジュリアンは他の担当は嫌だというので、今日もマグワイヤー子爵家へ足を運んだ。ここまでオーダーが決まらない客は始めてだ。顧客から紹介されている手前、邪険には出来なかった。
ナターシャは色違いの下着も大変気に入ってくれたらしく、洗い替えとして全く同じものをもう一セット依頼してくれた。途切れることなく注文してくれるお得意様に頭が上がらない。期待を裏切らないように、受注を受けたオーダーはどれも時間をかけて作製した。お得意様をないがしろにはしたくない。
「サラ、しっかり食べてる?最近少し痩せたわ」
「夜、作業を切り上げると寝てしまうんですよねえ。でもその代わり朝はたくさんいただいてますよ」
食事は朝夕と、二階の食卓の上に置かれており、好きなタイミングで食べていいことになっている。サラはミーナが用意してくれる料理が大好きだった。昼食は外で済ましたり、食べる時間が無かったりでまちまちだ。
最近は製作に夢中で食事がおざなりになっていた。少し痩せてしまったが、体調は悪くない。
それぞれ抱えている仕事が多いことや、顧客に対して一人が担当についているため、基本的に製作を助けてもらうことはない。サラが受注を受けた商品は、サラが全て担当する。
「無理しないでね」
ミーナの言葉に返事をして、気合いを入れるためにパチンと前髪を押さえる髪留めをつけて、納期に向けて作業を進めた。忙しいことに不満はない。強いて言えば、恋人を作る暇もないことくらいだろうか。そもそも出会いもないが。ずっと働き詰めだったサラはまだ恋人が出来たことがない。しかし、最近恋人が出来てより一層可愛さが増したような、 幸せそうなアリアナに、きっと素晴らしいものなんだろうと夢を見る気持ちはあった。
ーーー
粘り強くジュリアンと対話を試みたサラは、なんとかジュリアンからの受注を受けることが出来た。ヒアリングだけでかなりの時間を取られたが、落ち着いて作業が出来るようになった。
アリアナにサントロ伯爵家に行ってもらってから一月が経った。ナターシャの洗い替えの下着が出来上がったため、納期よりも早いが早速届けに上がりたい。先触れの手紙に、翌々日には返事がきたため、屋敷を訪れた。
エントランスに入ると、弟のフィリップが待ち構えていた。想像もしていなかった登場に、サラは正直気まずかったが、ぺこりとお辞儀をして挨拶をする。
「前回のお詫びをさせてください」
いきなり前回の核心をつくような言葉に目を丸くする。フィリップが腰を折り頭を下げた。
「ナターシャが、下着を何度も作っていただく内に、明るさを取り戻していったのを理解していたのに、……失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません」
「わわっ、顔を上げてください!全く気にしていません……!」
「前回いらっしゃらなかったので……姉は俺のせいだと」
「ええ!?違います!前回は別の仕事が立て込んでいたのでアリアナさんが代わってくれただけなんです。お庭の案内は結構ですし、私もお近づきしないように、気をつけます」
「……ナターシャから何か聞いていますか?」
「えーっと」
言葉の選択を間違えてしまったかもしれない。ナターシャから女性が苦手だと聞いていたことがバレてしまったかもと、しどろもどろになっていると、意外な言葉が返ってきた。
「聞いてるなら話は早いのですが」
姉から話を聞いていることに怒ってはいないようだ。サラは素直に白状した。
「えーっと、すみません、……おモテになる話を少しだけ……」
「そうですか、やはり改めて庭を案内をさせてくれませんか。俺に嫌悪感がなければ、ですが」
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