女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋

春浦ディスコ

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第9話 アフタヌーンティー

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 約束の日になりサントロ伯爵家を訪れる。またフィリップがエントランスで待ってくれていた。

 前回と同じダイニングルームに案内されると思ったが、フィリップが階段を上る。ナターシャと打ち合わせをする際はいつも一階の談話室でおこなうため、初めてのことだ。しばらく廊下を歩くと、フィリップが扉を開けてくれた。

「俺の部屋です」
「ええ!?そんな、プライベートな場所に入ってよいのですか?」
「テラスからの景色がいいので、そちらでアフタヌーンをしましょう」

 恐る恐る足を踏み入れると、談話室とは違った雰囲気に緊張する。本棚がいくつも置かれ、奥に大きな執務机が置かれている。なんとなく寝台には視線を向けないように、フィリップの背中を見つめる。

「こちらです」

 案内されてテラスに出ると、伯爵家の庭が一望できた。

「わあ!絶景です……!」

 上から眺めると左右対称になっていた事に気づく。いくつかの噴水が対になるように配置されていて、その周りを花と生け垣が囲んでいる。所々置かれている白いベンチも、庭のデザインの一部として成り立っていた。
 以前庭を案内してもらった時とは違った印象を受けた。

「伯爵領の屋敷の庭と比べれば、こじんまりとしていますが、俺も結構気に入っています」

(これでこじんまり……?)

「父と母は伯爵領にいるんですが、田舎が性に合うようで中々王都には出てきませんね」

 どおりでこの二年、会ったことがないはずだ。

「両親もサラには感謝していますよ、会う度にナターシャがサラの話をするので」
「わあ、恐縮です……!」
「……こちらにどうぞ」

 布張りのソファを勧められる。ゆったりとした一人がけのソファが庭を向くように二つ置かれていた。

 雨ざらしになって大丈夫だろうか、それとも天気を見て、部屋から出し入れしているのだろうか。庶民ゆえに心配になってしまう。腰を下ろすと、弾力はあるが、しっかりとした座り心地に、食事もいただきやすそうだ。広い庭を眺めながらお茶がいただけるなんて、なんという贅沢だろうか。

 ニコニコと笑顔の侍女がやってくると、いくつも紅茶を紹介してくれる。しかし、銘柄に詳しくないサラは迷ってしまう。侍女に聞いたつもりで質問すると、フィリップが答えてくれた。

「えっと、おすすめはありますか?」
「今の時期だと、ダージリンのセカンドフラッシュはティーフードに相性がいいしお勧めですね。ミルクを入れて飲みたいのであればアッサムもいいでしょう」
「では、ダージリンをお願いします」
「俺も同じ物にするよ」

 侍女が下がると、立っていたフィリップも腰を下ろす。二人とも庭を向いているため、美しい顔を直視せずに済む。

 フィリップが口を開くと、ダニエルと遭遇していないかと確認された。遭遇していないと言うと安心したように頷いた。

「姉がクレア殿下にも紹介したと言っていたので、忙しくしているのではありませんか?」
「忙しくさせていただいていますが、有難いことですし、充実していますよ」
「それならいいのですが……三食食べていますか?」
「ふふふ、食べています。この前から一週間ほどしか経っていませんよ」

 心配性すぎるだろう。

「そういえば、ナターシャ様はいらっしゃらないのですか?」
「ん?今日は定期検査の日なので」

 つまり、二人でアフタヌーンティーを頂くということか。ナターシャも一緒に三人でお茶をいただくとばかり思っていた。

 サラが急にそわそわとした気持ちになっていると、ティースタンドが運ばれてきた。小ぶりのティーフードが二つずつ、何種類も乗せられている。

「可愛い……!食べてしまうのがもったいない……ずっと眺めていたいほどです」

 中々手をつけないサラに、フィリップが笑う。

「ふっ、ぜひ食べてください」
「どこから食べる、とかあるのですか?」
「下の段から食べるのが一般的ですね、暖かいものがあれば先に食べてもいいです。最初にセイボリーを食べて、中段のスコーンや焼き菓子、最後に上段のスイーツ。でも二人きりなので、気にせず好きな物から食べてください……スイーツを食べたいのでしょう?」
「なんで分かったのですか!?」
「目を見れば分かりますよ」

 恐縮なことにフィリップが小皿にサーブしてくれた。

「マナーなどより、サラに楽しんでいただくことが大切です」

 ガラスの容器に入った、いくつも層になっている苺のべリーヌ。スプーンで掬って口に運ぶ。

「……美味しい!」
「良かった」

 プティフールのシューは中にクリームが入っており口に甘さが広がる。中段のクロテッドクリームをつけて食べるスコーンは、食べたことの無いほどしっとりとした口溶けにサラを驚かせた。
 下段にあったチーズとナッツの上にメープルシロップがかけられたタルティーヌ、茸とベーコンのショートパスタやスパイスが効いたミートソースのキッシュも絶品だった。
 二杯目はミルクティをいただく。幸せな気持ちに気が緩み、サラは気になっていることを聞いてみた。

「前回もですが、なぜ、ここまでしてくださるのですか?」
「……随分痩せたことを心配しています。あと……出会い方が、最悪だったので」

 とても後悔している、と言うフィリップ。

 女性嫌いのフィリップがここまでしてくれているというのは、相当後悔しているのだろう。平民の自分には不明だが、もしかすると貴族にあるまじき態度だったのかもしれない。

「そのお言葉だけで、嬉しいです。全然気にしていませんし、フィリップ様も気にしないでください」
「……また、誘ってもいいですか」
「嬉しいですけど、本当に気にしていませんよ?」
「……友人として、これからも親しくしていだけませんか?罪悪感から来るものではなく、ただサラと親交を築ければと思っています」

 サラはフィリップからの申し出に驚きながら、純粋に無理をしていないか心配になった。

「嫌悪感などは、大丈夫ですか?」
「正直、最初もサラに対して嫌悪感を抱いていた訳では無いです。女性全般に近寄りたくなかっただけで……。サラに嫌悪感を抱いたことはありませんよ」

 サラはフィリップの言葉に強く安堵する。嫌われていないようだ。

「フィリップ様が、大丈夫であれば、ぜひこれからも仲良くしてください」

 嫌悪感を感じない貴重な存在になれたのだろうか。フィリップが嫌でないのであれば、サラには特に断る理由がなかった。

「よかった」

 フィリップが柔らかな表情で安心したように小さく息を吐いた。
 スイーツも二杯目のミルクティーも全て平らげた後は、部屋に戻り、本棚の本をいくつも紹介してくれた。
 たわいも無い話をしていると、あっという間に日が暮れて、長居してしまったことに詫びを入れる。送っていくというフィリップの申し出を断り、サラは慌てて帰路に着いた。
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