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第11話 来るもの去るもの
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フィリップと最後に会ってから十日が過ぎた。クレア殿下のナイトドレスも無事に完成し、満足の行く仕上がりとなった。
お届けに上がると、思っていたよりも仕立てが早かったと褒めてもらえた。
「素敵……!」
輝く顔に、それだけで報われる。
クレアが注文したのは銀色のナイトドレスだった。白と灰色、特殊な光沢のある糸を織り交ぜたシースルーの生地で仕上げたドレスを、クレアが光を透かすように持ち上げると、角度を変えながら眺めている。
少女から淑女に成長していくクレア殿下の、まだ残る可愛らしさと色気を際立たせたくて、生地と色選びにかなりこだわった。最善の色選びをした自信がある。初めに提案をした際に、ピンときていないようだったが、最終的にはいくつかの候補の中から選んでくれた。
胸元はレースで乳房を包むように作られているが、大切な所は薔薇の刺繍を施しており、目を凝らしても見えないようになっている。
その上には頼りなさげな肩紐が付いている。肩紐は結べるようになっており、両肩の蝶々結びを解くか、背中側の上部に一つだけあるボタンを外せばすぐにはだけてしまうような作りだ。
ショーツも同じ生地で作り、下生えが見えないようにぎりぎりのラインからクロッチの部分の生地を厚くしている。
「着てみてもいいかしら?」
「はい、外に出ております」
試着後に呼ばれると、この世のものとは思えない美しさだった。
「仕上がりにも、納期の早さもとっても素晴らしいわ。色を付けてお支払いさせていただくわね」
「有難いお言葉です。お気に召していただいて感激しております」
大層喜んでくれたクレアは、弾んだ声で新しい上下の下着を注文したいと言い出した。
仕上がりを気に入ってもらえただけで光栄であると言うのに、クレアの言葉にサラは僥倖を噛み締めた。今日はこの後公務があると言うクレアに、改めて伺う約束を取り付けて、王宮を後にした。
帰ってから渡された小袋を開くと、なんと見積もりの三倍のお代が入っていた。喜んでもらえたことも嬉しいし、それが支払いにも直結するとなればもっと嬉しい。
サラは金庫に入れて、ミーナにも報告した。
「お得意様になっていただけそうだし、少し仕事のペースを落としなさい。ここ数ヶ月働き詰めだから。しばらくは、受注を受ける際に納期を長めに取ること。倒れたりすることなく長く働き続けることが、結果的にお客様に良い商品を届けることができるのよ」
ここ数ヶ月休みがあっても作業を進めることがほほとんどだった。何度かフィリップに誘われて気分転換もできたことで自分を追い詰めているつもりはなかったが、自分の体は二の次で、仕事と向き合っていたことも事実だ。少しゆっくりするのもありかもしれない。
サラはミーナの言葉を素直に受け止めた。
「分かりました」
「あと、このタイミングで言うけれど、ジュリアン子爵令嬢からの受注はやはり難しそうだわ」
「そうですか……」
「でも、クレア殿下のように、あなたの作品を気に入って、新たに顧客になってくれる方もいる。ナターシャ様や他のお得意様のように、定期的に注文をしてくれる人もいるから、そのお客様を大切にしていきましょう」
「……はい」
「働いていれば、理不尽に思えるようなことも起こるけれど、溜め込みすぎないでね」
「ありがとうございます」
ジュリアン子爵令嬢からの受注は出来なかったが、過ぎたことはもうどうしようもできない。これからの仕事を頑張るだけだ。
少し時間が経ったことで、ミーナの言葉を冷静に受け止めることができた。
「……その髪留め可愛いわね」
「あ、えっ、ありがとうございます」
「高そうだけど、自分で買ったの?それとも、いただいたの?」
「えーっと、……貰い物です」
「あらそうなの。お客様にいただいたのね」
ミーナが勘違いをしている。
「いえっ、お客様ではないんです」
「……まさか、男?」
急激に顔に熱が集まる気がした。
「えっ、ちょっと!冗談のつもりだったけど、本当なの!?ちょっと、詳しく教えなさいっ!」
「……内緒です!」
恥ずかしすぎて、逃げるように二階に上がると、ちょっと、待ちなさい!と言う声が後ろから聞こえた。
次の日に、作業をしながらミーナにじーっと見つめられたが、誰に貰ったかは秘密を貫いた。
フィリップのことは正直、気になっている。友人として、仲良くしてくれていると分かっても、あの麗しいフィリップが休日に他の誰でもない自分を誘ってくれたのだ。嬉しいに決まっている。
会えないことが当然なのに、連絡を待っている自分がいた。
しかし好きになったとしても、叶わない恋になる。相手は貴族だ。だからフィリップのことを軽々と話す気にはならなかった。失恋した時に二人に気を使わせてしまう。
それでも髪留めを毎日つけてはフィリップのことばかり思い出した。くたくたに疲れた日には買ってもらった紅茶を飲んで自分を癒した。毎晩買ってもらった本を眺めてから眠りについた。
お届けに上がると、思っていたよりも仕立てが早かったと褒めてもらえた。
「素敵……!」
輝く顔に、それだけで報われる。
クレアが注文したのは銀色のナイトドレスだった。白と灰色、特殊な光沢のある糸を織り交ぜたシースルーの生地で仕上げたドレスを、クレアが光を透かすように持ち上げると、角度を変えながら眺めている。
少女から淑女に成長していくクレア殿下の、まだ残る可愛らしさと色気を際立たせたくて、生地と色選びにかなりこだわった。最善の色選びをした自信がある。初めに提案をした際に、ピンときていないようだったが、最終的にはいくつかの候補の中から選んでくれた。
胸元はレースで乳房を包むように作られているが、大切な所は薔薇の刺繍を施しており、目を凝らしても見えないようになっている。
その上には頼りなさげな肩紐が付いている。肩紐は結べるようになっており、両肩の蝶々結びを解くか、背中側の上部に一つだけあるボタンを外せばすぐにはだけてしまうような作りだ。
ショーツも同じ生地で作り、下生えが見えないようにぎりぎりのラインからクロッチの部分の生地を厚くしている。
「着てみてもいいかしら?」
「はい、外に出ております」
試着後に呼ばれると、この世のものとは思えない美しさだった。
「仕上がりにも、納期の早さもとっても素晴らしいわ。色を付けてお支払いさせていただくわね」
「有難いお言葉です。お気に召していただいて感激しております」
大層喜んでくれたクレアは、弾んだ声で新しい上下の下着を注文したいと言い出した。
仕上がりを気に入ってもらえただけで光栄であると言うのに、クレアの言葉にサラは僥倖を噛み締めた。今日はこの後公務があると言うクレアに、改めて伺う約束を取り付けて、王宮を後にした。
帰ってから渡された小袋を開くと、なんと見積もりの三倍のお代が入っていた。喜んでもらえたことも嬉しいし、それが支払いにも直結するとなればもっと嬉しい。
サラは金庫に入れて、ミーナにも報告した。
「お得意様になっていただけそうだし、少し仕事のペースを落としなさい。ここ数ヶ月働き詰めだから。しばらくは、受注を受ける際に納期を長めに取ること。倒れたりすることなく長く働き続けることが、結果的にお客様に良い商品を届けることができるのよ」
ここ数ヶ月休みがあっても作業を進めることがほほとんどだった。何度かフィリップに誘われて気分転換もできたことで自分を追い詰めているつもりはなかったが、自分の体は二の次で、仕事と向き合っていたことも事実だ。少しゆっくりするのもありかもしれない。
サラはミーナの言葉を素直に受け止めた。
「分かりました」
「あと、このタイミングで言うけれど、ジュリアン子爵令嬢からの受注はやはり難しそうだわ」
「そうですか……」
「でも、クレア殿下のように、あなたの作品を気に入って、新たに顧客になってくれる方もいる。ナターシャ様や他のお得意様のように、定期的に注文をしてくれる人もいるから、そのお客様を大切にしていきましょう」
「……はい」
「働いていれば、理不尽に思えるようなことも起こるけれど、溜め込みすぎないでね」
「ありがとうございます」
ジュリアン子爵令嬢からの受注は出来なかったが、過ぎたことはもうどうしようもできない。これからの仕事を頑張るだけだ。
少し時間が経ったことで、ミーナの言葉を冷静に受け止めることができた。
「……その髪留め可愛いわね」
「あ、えっ、ありがとうございます」
「高そうだけど、自分で買ったの?それとも、いただいたの?」
「えーっと、……貰い物です」
「あらそうなの。お客様にいただいたのね」
ミーナが勘違いをしている。
「いえっ、お客様ではないんです」
「……まさか、男?」
急激に顔に熱が集まる気がした。
「えっ、ちょっと!冗談のつもりだったけど、本当なの!?ちょっと、詳しく教えなさいっ!」
「……内緒です!」
恥ずかしすぎて、逃げるように二階に上がると、ちょっと、待ちなさい!と言う声が後ろから聞こえた。
次の日に、作業をしながらミーナにじーっと見つめられたが、誰に貰ったかは秘密を貫いた。
フィリップのことは正直、気になっている。友人として、仲良くしてくれていると分かっても、あの麗しいフィリップが休日に他の誰でもない自分を誘ってくれたのだ。嬉しいに決まっている。
会えないことが当然なのに、連絡を待っている自分がいた。
しかし好きになったとしても、叶わない恋になる。相手は貴族だ。だからフィリップのことを軽々と話す気にはならなかった。失恋した時に二人に気を使わせてしまう。
それでも髪留めを毎日つけてはフィリップのことばかり思い出した。くたくたに疲れた日には買ってもらった紅茶を飲んで自分を癒した。毎晩買ってもらった本を眺めてから眠りについた。
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