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第16話 老舗仕立て屋①
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仕事を終わらせると、フィリップが迎えに来てくれた。女性の下着屋という仕事柄、男が出入りするのはよくないだろうと、フィリップはダニエルに乱暴されるまではアトリエに迎えにくることを控えてくれていたらしい。しかし、ミーナの計らいで営業時間を除けば、フィリップに限って店先まで来て貰ってもいいことになった。ダニエルに乱暴されたサラを気遣ってくれているのだろう。
「本当はあまり良くないのだろうけど……」
「サラの心の安寧と、安全を優先してくれたってことだろうね」
ミーナの優しさが沁みる。
「今日はどこに行くの?」
「いつも世話になっている仕立て屋に行くよ」
「大丈夫かな?たくさん持ってきたけどお金足りるかな……」
「まだ言ってる。定期的に注文するのも貴族の役割の一つだから、財布はしまっていなさい」
「でも……」
「どんなドレスにしようか?」
「あ、話変えたね」
「サラはどんなドレスでも似合いそうだ」
「ちょっとフィリップ、聞いてる?」
「早く行こう、楽しみで仕方ない」
「んもう」
仕立て屋につくと、看板に書かれている営業時間はとうに過ぎている。
気にすることなく入っていくフィリップの後ろについて行く。
「ようこそ、いらっしゃいました!フィリップ様!お久しぶりにお会いできて嬉しいですわあ!」
恰幅のいい女性が店主のようだ。両手をにぎにぎと握りながらフィリップに挨拶をしている。
「お久しぶりです、セントレアの舞踏会に向けて新調したくてね。こちらはサラ、彼女の分も頼むよ」
「まあまあ!なんて可愛いお嬢さん!フィリップ様が女性を連れてきてくださるなんて……!んもう!張り切って仕立てさせていただきますわ!早速!採寸しましょう!」
サラがゆっくり挨拶する間もなく店主とスタッフに連れていかれると、別室で体のあちこちを採寸される。胸囲や腹部、足のサイズなどは当然だと思うが、耳の大きさや手足の指の長さまで、もう一人の自分を作れそうなほどに採寸された。
採寸が終わると、試着用のドレスを用意すると言われ、応接室に案内される。
フィリップがソファでなにか冊子を読んでいた。こちらに気づいて隣をポンポンと叩くので、そこに座った。
「カタログを見ていたんだよ。サラも見てごらん」
手渡されると、膝にのせて眺める。
「……どれも素敵」
ページを捲ると色んなタイプのドレスのデッサンが描かれている。
「いかがですか?お気に召した形はございますか?」
「ゆっくり見させてもらうよ。サラはゆっくりと考えていいよ」
「フィリップは?テールコートを着るの?」
「テールコートや騎士の正装も考えたけどね、サラと色合わせをしたファンシージャケットにしようと思うよ」
フィリップの言葉に賛同するように店主が口を開く。
「年々、燕尾服ではなく個性溢れるタキシードジャケットで参加される方が増えていらっしゃいますね」
「去年も多かったな。慶事だと燕尾服で参加するけどね。楽しんだ物勝ちだよ」
「気に入ったものはあった?」
「形で言うとこれと、これかな?」
カタログを指すと、フィリップが覗き込む。フィリップの手がサラの背中のすぐ後ろについている。
近い。すぐ隣にフィリップの顔がある。フィリップのほうを向かないようにカタログを見つめる。
「いいね、どちらもサラに似合いそう。まあ何を着ても可愛いだろうけど」
「フィリップ!?」
「まあまあ!」
店主がフィリップの様子に驚いている。
「じゃあ同じ形のものを試着させてもらおう」
「承知しました。少々お待ちくださいませ」
おほほと笑いながら店主が応接室を出ていった。
「色はどうしようか……」
「フィリップ、ダニエルのこと気にしてる?」
「なんのこと?」
「可愛くない女って言ってたから、フォローするために可愛いって言ってくれてるのかなって。本当のことだし、私気にしてないからね」
フィリップに無理に可愛いと言う必要はないと伝えると、フィリップが呆れたように溜め息をついた。
「サラ、本気で言ってる?……びっくりするよ、こんなに伝わっていないなんて」
「ええ?」
「……舞踏会で言おうと思ってたけど、俺は」
「サラ様!お待たせしましたわあ!」
店主の登場にフィリップが口ごもる。
「なんて言ったの?」
「……改めて言うから、試着しておいで」
フィリップが俯いて顔を手で覆っている。耳が赤い。
「行ってくるね?」
「ゆっくりでいいよ、後で見に行くよ」
「本当はあまり良くないのだろうけど……」
「サラの心の安寧と、安全を優先してくれたってことだろうね」
ミーナの優しさが沁みる。
「今日はどこに行くの?」
「いつも世話になっている仕立て屋に行くよ」
「大丈夫かな?たくさん持ってきたけどお金足りるかな……」
「まだ言ってる。定期的に注文するのも貴族の役割の一つだから、財布はしまっていなさい」
「でも……」
「どんなドレスにしようか?」
「あ、話変えたね」
「サラはどんなドレスでも似合いそうだ」
「ちょっとフィリップ、聞いてる?」
「早く行こう、楽しみで仕方ない」
「んもう」
仕立て屋につくと、看板に書かれている営業時間はとうに過ぎている。
気にすることなく入っていくフィリップの後ろについて行く。
「ようこそ、いらっしゃいました!フィリップ様!お久しぶりにお会いできて嬉しいですわあ!」
恰幅のいい女性が店主のようだ。両手をにぎにぎと握りながらフィリップに挨拶をしている。
「お久しぶりです、セントレアの舞踏会に向けて新調したくてね。こちらはサラ、彼女の分も頼むよ」
「まあまあ!なんて可愛いお嬢さん!フィリップ様が女性を連れてきてくださるなんて……!んもう!張り切って仕立てさせていただきますわ!早速!採寸しましょう!」
サラがゆっくり挨拶する間もなく店主とスタッフに連れていかれると、別室で体のあちこちを採寸される。胸囲や腹部、足のサイズなどは当然だと思うが、耳の大きさや手足の指の長さまで、もう一人の自分を作れそうなほどに採寸された。
採寸が終わると、試着用のドレスを用意すると言われ、応接室に案内される。
フィリップがソファでなにか冊子を読んでいた。こちらに気づいて隣をポンポンと叩くので、そこに座った。
「カタログを見ていたんだよ。サラも見てごらん」
手渡されると、膝にのせて眺める。
「……どれも素敵」
ページを捲ると色んなタイプのドレスのデッサンが描かれている。
「いかがですか?お気に召した形はございますか?」
「ゆっくり見させてもらうよ。サラはゆっくりと考えていいよ」
「フィリップは?テールコートを着るの?」
「テールコートや騎士の正装も考えたけどね、サラと色合わせをしたファンシージャケットにしようと思うよ」
フィリップの言葉に賛同するように店主が口を開く。
「年々、燕尾服ではなく個性溢れるタキシードジャケットで参加される方が増えていらっしゃいますね」
「去年も多かったな。慶事だと燕尾服で参加するけどね。楽しんだ物勝ちだよ」
「気に入ったものはあった?」
「形で言うとこれと、これかな?」
カタログを指すと、フィリップが覗き込む。フィリップの手がサラの背中のすぐ後ろについている。
近い。すぐ隣にフィリップの顔がある。フィリップのほうを向かないようにカタログを見つめる。
「いいね、どちらもサラに似合いそう。まあ何を着ても可愛いだろうけど」
「フィリップ!?」
「まあまあ!」
店主がフィリップの様子に驚いている。
「じゃあ同じ形のものを試着させてもらおう」
「承知しました。少々お待ちくださいませ」
おほほと笑いながら店主が応接室を出ていった。
「色はどうしようか……」
「フィリップ、ダニエルのこと気にしてる?」
「なんのこと?」
「可愛くない女って言ってたから、フォローするために可愛いって言ってくれてるのかなって。本当のことだし、私気にしてないからね」
フィリップに無理に可愛いと言う必要はないと伝えると、フィリップが呆れたように溜め息をついた。
「サラ、本気で言ってる?……びっくりするよ、こんなに伝わっていないなんて」
「ええ?」
「……舞踏会で言おうと思ってたけど、俺は」
「サラ様!お待たせしましたわあ!」
店主の登場にフィリップが口ごもる。
「なんて言ったの?」
「……改めて言うから、試着しておいで」
フィリップが俯いて顔を手で覆っている。耳が赤い。
「行ってくるね?」
「ゆっくりでいいよ、後で見に行くよ」
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