女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋

春浦ディスコ

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第21話 舞踏会①

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 ついに舞踏会の日がやってきた。
 サントロ伯爵家の客間にて、侍女に手伝ってもらい準備が終わると、伯爵家のエントランスに向かう。そこにはいつも以上に麗しいフィリップが待ってくれていた。普段は下ろしているサラサラに靡く髪が、きっちりと半分は後ろに撫で付けられており、もう半分は前髪の根元が浮き上がりサイドに流されている。タキシードはお揃いの深緑色。

「最高に綺麗だよ……」
「フィリップこそ、タキシードも、髪型もぜんぶ似合ってる」
「侍女が気合いを入れてセットしていたよ。それよりこんな素敵なサラを連れて歩けるなんて俺はなんて幸せ者なんだ」

 たっぷりと触れるだけのキスをすると、耳元に唇を寄せた。

「今すぐ寝室に閉じ込めたい」
「なっ……!んも、えっち……!」
「そうだよ、下心だらけだ」

 目尻を下げながら、もう一度顔を寄せてくるフィリップに自然に目を瞑った。

「だけど後ほどの楽しみに取っておくよ。サラを舞踏会でエスコートするのも楽しみにしていたから」

 馬車をしばらく走らせると、窓から宮殿が見える。馬車寄せには馬車が渋滞していた。やっと降りれた頃には近くから歩いてきたらしい人も合わせて、ロビーは大変な混雑状態だった。

「サントレアの開幕はいつもこうなんだ。格式の高い宮殿だから人気も高い」

 高い天井には、シャンデリアがいくつも並んでいる。これだけで一体いくらになるのか。王室がパトロンになっているというのも納得だ。

「開会のセレモニーまでまだ時間があるから……」
「開会のセレモニー?」
「若手の入場行進があるよ。その後に名誉ゲストの入場があって、開会の挨拶が終わればダンスタイムだ」
「どれくらい踊るの?」
「そうだね、朝方までいる人も多いよ」
「朝!?」
「無理に居座るつもりはないから、俺たちはいいタイミングで帰ろうか」

 メインホールに向かう前に手洗いを済ませておこうと、フィリップと離れる。後ろについてきている侍女が手助けしてくれたおかげで、何とか用を足せた。
 手洗い場で鏡を確認する。特にヘアセットも化粧も崩れておらず問題なさそうだ。出口に向かおうとした際、事件が起きた。

 不意にバシャっとした音と共に、冷たい液体がかかる。何が起きたのか理解ができず、固まると、ぽたぽたと、前髪が滴っているのが視界に入った。同時にアルコールの香りが漂う。

(お酒……?)

「あんた庶民のくせに、フィリップ様にエスコートしてもらうなんて、図々しいにも程があるわ……?セントレアの舞踏会はあんたみたいな庶民が来る場所じゃないの。さっさと帰りなさい!」

 声に振り返ると、そこには子爵令嬢のジュリアンがいた。眉を釣りあげているジュリアンの様子に圧倒されてサラが押し黙る。

「足の悪い姉に取り入ったんじゃないの?下品な下着を売りつけて」
「なっ」
「だってそうじゃないと、おかしいわよね?あなたごときがフィリップ様に近寄れるなんて。まさか、フィリップ様とお付き合いできるなんて夢見てる訳じゃないわよね?さっさと消えなさいよ。うざったらしい」

 どうやら交際していることは知られていないらしい。知られたらどれほどの嫌がらせをされるのか。恐ろしくて声が出ない。

「このまま帰りなさいよ。フィリップ様が恥ずかしい思いをするわ?そしてそのままれ二度と近づかないでよねっ!」

 ジュリアンが、持っていたチェーンのバッグを遠心力にまかせてサラにぶつけた。

「っつ!」
「あ、ちょっと、なに?絡まって……もうっ!」

チェーンの継ぎ目が背中のレースに引っかかったようだ。ジュリアンはそれを力任せに引っ張った。

「やっ、やめてください!」
「生意気言うじゃないわよ!」

 ジュリアンがさらに勢いよく引っ張ると、ビリビリィと破れる音がした。

「やだ、このバッグ高かったのに、糸くずがついたじゃない、最悪」

 ジュリアンがその場から消えると、髪の毛に滴る酒を手で払う。ドレスが酒で染みになっている。背中の敗れた箇所はどうなっているか分からない。フィリップが贈ってくれたドレスなのに、サラは手洗い場で立ち尽くした。
 侍女が駆け寄ると、ハンカチーフで濡れている所を拭いてくれた。

「サラ様っ……っお助けできずに、……申し訳ありません」

 侍女が子爵令嬢に物申すことはできないだろう。侍女を責める気にはなれない。

「ううん、気にしていません。それより、どうしましょう……」
「私、フィリップ様を探してきます」
「あ、ちょっと待って!」

 侍女がサラの声を聞く前に行ってしまった。サラはこの状態でどうしたらよいか分からず、こっそりとトイレから顔を出し周りの様子を窺う。侍女の姿は見えないが、向こうの待ち合いスペースにフィリップの頭が見えた。なんとなく、今フィリップに会いたくない。今目の前にすると泣いてしまう。このような華やかな場所で、泣きたくない。

 フィリップは女性に囲まれており、その中にジュリアンもいる。ジュリアンにも気づかれたくない。今のうちにどうにか侍女に会えないだろうか。一旦、馬車まで戻った方がいいだろうか。

 サラは意を決してそろりとトイレを出た。壁沿いを歩く。横歩きしていると、通りすがりの客に不審がられるが、気にする余裕が無い。

 フィリップに気づかれないように祈りながら進むと探しているような様子のフィリップの視線がサラを捉えた。バチッと目が合ってしまった。

 フィリップが驚いた様子で女性達をかきわけて近づいてくる。

「サラ、どうした?濡れてるじゃないか……」

内ポケットからハンカチーフを取り出すと顔周りを拭いてくれる。

「……酒の匂いか?なにがあった?」

 心配そうなフィリップに、口ごもる。あなたを好きな女性にお酒をかけられたなんて、正直に言うと、きっと悲しんでしまう。ドレスの汚れにも気づきジャケットを脱ぐと肩からかけてくれた。

「……大丈夫。それよりごめんなさい、汚してしまったの。後ろも、破れて、しまって……せっかく、作ってくれたのに……」

 自分に酒をかけられたことは別にどうでもいいが、ドレスを破られたことが辛かった。フィリップに伝えると、喉が締まって痛い。混み上がる涙を必死で止める。

「サラ、気にしないで。ドレスは洗えばいいし、補修を頼めばいい。転んだ?……何かされた?」
「ごめん、なさい……」

 我慢ができずにポロリと涙を零してしまった。フィリップが息を飲んだ瞬間、甲高い女の声が耳に響いた。

「あんたは!本当にっいやらしい女ね!」

 周りの客が何事だと、振り向いた。

「泣いてフィリップ様の気を引いて……!古典的なやり口に呆れて物も言えないわ!」

 ジュリアンに見つかってしまい、サラが縮こまる。その様子にフィリップが顔を顰めた。

「お前がやったのか」
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